講師になろうともがいていた頃(後編)

 コーチングに出会って2年目(2006年)に見た先生の劇的なデモンストレーションに、自分も先生と同じ歳までにはあれができるようになりたいと決意した僕。幸運にも先生と一緒に仕事ができることになり、いくつものすばらしいサポートを得ながら、講師デビューをはたしたが

あらすじ

 最初は平本さんとペアで講師をやったり、酒井さんとペアで講師をやったりしていました。これは本当に素晴らしいやり方で、みなさんも可能ならぜひ体験することをお勧めしたいです。新人講師からしたら、ベースやドラムがしっかりとしているバンドでギターを弾かせてもらえるみたいなもので、支えられながら自分がもっている実力を発揮しやすくなります。

 ベテラン講師側としても、新人講師を活かす動きをすることで、新しいスタイルを手にいれることができますし、新人が言うことの中にも興味深いことがありますので刺激になるはずです。

 ところがいつまでもペアでの仕事ばかりということもなく、独り立ちの日が来るわけです。

だいじゅならできますよ

 平本さんやヒロさんと半年ほど一緒に仕事をした頃です。平本さんから

 「わたしが一人でやっているプログラムもやってみませんか?」

 と声をかけてもらいました。このときも僕の無意識は二つ返事で

 「やらせてください!」

 と答えました。本当にいつも躊躇がなくて、びっくりします。しかもこの時は、そんな話をもらえるなんて全然思ってなかったのです。それなのに即答。。。

 平本さんは

 「では引き継ぎの日程を決めましょう」と言い、僕らはその予定を入れました。平日午後だったので、僕はまた午後休をとって打ち合わせに行ったわけです。

 吉祥寺のカフェでした。平本さんはA4用紙に2枚分の資料を持っていました。それは2日分のセミナーのタイムテーブルに、平本さんがメモを書き込んでいるものでした。

 それを見せられて

 「なんでも質問してください」

 と言われたのです。その場でメモを見ながら質問するというのもなかなか難しくて、書かれている内容の確認みたいなことが続きました。平本さんは淡々と説明してくれて、あとはメモに書かれていないことで、僕が知らなそうなことも説明してくれました。そして

 「だいじゅは自分で考えた方が良さそうですから、そうしてください。また何かあればいつでも答えますから」

 と言って、帰っていきました。1時間ほどの出来事でした。

 「これは大変なことになった」

 と思いました。何しろA4で2枚。たった1時間説明を受けただけで、2日分のセミナーをやるわけです。もちろん何度も参加していますし、内容も何割かはすでに空で話せるような状態ではありました。

 でもそれは、違うんです。

 繰り返し聞いていて、話を暗記してる。ということと、ちゃんと理解して教えることができると言うのはまったく違う水準なのです。

 ちゃんと理解している講師は、参加者に合わせて別の説明で伝えたり、別の事例を使ったり自由自在です。その上、その場その場でしている説明が間違っていないどころか適切なのです。それは本質を押さえているからです。

 でも当時の僕は、コーチングカウンセリングに関して、まったくそんな水準に達していませんでした。

 それではダメだと思いました。だって、参加者は平本あきおがやっていたプログラムを受けにくるんだ。払う金額だって平本さんのときと同じなんだ。

 だから、劣化版コピーではダメなんだ。

 そう思ったわけです。つくづく「思い切りのいい無意識」と「真面目な意識」ですね。

 というわけで、平本さんの予言通り、初日までの間、ひたすら考え続ける日々が続きました。

 この時だけではありませんが、僕はコーチングと出会ってから10年以上は毎日コーチングに関する夢を見ていました。寝ている途中に目が覚めてもコーチングの夢の記憶があるので、一晩中コーチングの夢を見ているのではと思うほどでした。

 そんな僕でも、この頃は酷かった。本当にコーチングについて考え続けていました。

 平本さんの2日間のプログラムを目的やゴールはそのままに、全然違うやり方で実現する方法を何通りも考えてシミュレーションしたり、そもそも平本さんも気づいていない目的や効果があるのではないかと仮定して、ひたすらそれを言語化したり。。。。とにかく必死でした。

 でも、考えてもよくわからないんですよね。考えれば考えるほど正解がわからなくなる。自分が前に進んでいるのか、後退しているのかすらわからない。

 一応、プログラム初日は、平本さんがやっていたことを完コピすると決めていました。

 ただ、しっかりと理解を深めて、いろんなやり方を試して、その上で、師匠のやり方を完コピしよう。そんな指針だったのです。

 でもどこまで、自分の理解が深められたのか、成長できたかはいまいちわからないまま初日を迎えました。

車座になってコーチングしてでも約束を守れ

 初日を迎えました。一人で前に立つのが初めてで、少し緊張しました。

 「平本さんじゃなかったけど、良かった」

 と言ってもらいたくて、気合いが入りすぎていたのだと思います。

 とは言え、初日の土曜日はうまくいきました。びっくりするくらいうまく行きました。

 もちろん粗探しすれば、いろいろと課題はあるわけですが、コーチング3年目の人間(しかも本職はサラリーマン)が、業界の第一人者のプログラムを引き継いでいるという点では、とても素晴らしい水準だったと思います。

 ほっとしました。自分がやってきたことが間違ってなかったんだと思って嬉しくなりました。このときも、毎日セミナータイムラインを歩き続けたのが一番大きかったと思います。

 その日は久しぶりによく眠れました。

 そして翌日曜日。午前中にこけました。平本さんと同じようにやっているはずなのに、ワークが機能しなくて、参加者に必要な変化が起こりませんでした。このままではまずい。。。

 僕たちのセミナーは知識を教えているのではないのです。コーチングを実体験してもらい、参加者に変容してもらうこと。その体験と知識を結びつけるのです。さらには、自分でもある程度コーチングができるようになってもらいたいわけです。

 これはなかなかに大変なことなのです。プログラムは緻密に計算を張り巡らされています。途中で何かおかしなことがあったのだと思いますが、僕は気づくことができなかった。

 昼休みに落ち込みました。落ち込んでも仕方ないので、昼食も取らずに考えました。

 そうしていたら、僕をサポートしに来てくれていた先輩コーチに声をかけられました。

 「せっかくだからみんなでアイディアを出そうよ」

 と。ありがたかったのですが、僕が考えていることを全部言語化するのは難しそうだったし、色々アイディアをもらってもうまくまとめることができなそうで、

 生返事をしながら、そこにいました。先輩はいくつかのアイディアを出してくれましたが、僕は心ここにあらずでした。すると先輩が強い調子で

 「だいじゅ、話聞いてないよね」

 と言ってきました。僕はちょっとカチンときて

 「どうしたらうまくいくか考えてるから」

 と返しました。すると先輩から言われたのです。僕はこの言葉も一生忘れることがないと思います。

 「だいじゅが考えてるのは『どうしたら自分がうまくやれるか』でしょう。そんなことには価値がないよ。参加者の期待に応えようよ。参加者が期待してくれていることに応えようよ。参加者に約束していることを果たさないと。平本さんが作ってくれたプログラムなんてどうでもいいんだよ。午後は車座になってみんなが変わるまでコーチングしたっていいんだから、参加者に約束したゴールをまもらなきゃ。だいじゅがそれをできないなら帰りなさい。あとは私がやります」

 打ちのめされました。頭を丸太で殴られたよう、という表現がありますが、まさにそんな感じでした。

 言われた通りだったんです。僕はずっと頭で考えてた。頭で何とかしようとしてた。直接ぶつかって、一緒になんとかしていくことに自信がなかった。

 平本さんと自分の一番の違いはそこだった。その場で起こっていることに飛び込んで、真剣にぶつかって、皆で作り上げていくこと。そして先輩は僕に「それが平本流だろう?お前は何をしようとしているんだ?」と問いかけてくれたわけです。

 僕はいいました。

 「すいませんでした。その通りです。車座になってコーチングしてでも、ぜったいにやります。いまからその準備をしますので、見ていてください」

 先輩は頷いて、それ以上何も言うことはありませんでした。

 絶対にやる。腹は括れました。「どうやって参加者に向き合い、この状況を変えるか?」と自分に問いかけました。

 散々シミュレーションしたときに出てきた、かなり風変わりなワークを思い出しました。雰囲気をつくって乗せていくのは難しいけれど、うまくハマれば、大きく状況を変えられる。

 正直いままでの自分なら避けたいと思っていたワークでした。もう少し時間がかかっても確実に変化が作れるものを良しとしていたし、このワークは自分も全力で関わらないと成立しないので、そのことに自信がなかった。

 でも、言ってる場合じゃない。残り時間はわずかだし、何としてもゴールに辿り着きたいんだ。

 午後イチで思い切ってそのワークを入れました。それまでの人生の中で一番チャレンジしたと思います。結果は成功でした。

 参加者の方も、午前中と打って変わった僕の雰囲気に何かを感じて、ついてきてくれたんだと思います。状況が大きく変わり、午後にやりたかったワークにもうまくつなげることができました。

 この体験は僕にとって本当に大きなものでした。

 その場の状況に自分の身を投げ込み、ダイレクトに場の状態を変えていく。そのことの価値とパワーを体験し、自分にもできるんだという可能性を感じることができたのです。

 頭で考えて、たくさんシミュレーションして、セミナーを成立させてきた新米講師が。。。いや、何よりも先輩講師に助けられながら、仕事をしていた新米講師が。。。現実に向き合い独り立ちをした瞬間だったのです。

 本来はここで終わりの予定でしたが、この後また僕が大きな失態を晒す出来事もあったので、そこまで書いて今回のシリーズは完結としたいと思います。

 次回最終話

僕たちとコーチングカウンセリングを極めたい方は

 



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