ポジションチェンジこそが究極のリフレーミングである(前編)

 連日リフレーミングに関しての投稿を続けています。

リフレーミングとは、ある状況や経験を別の視点から捉え直すことで、新たな意味や解釈を与える手法。言わば、同じ絵画を別の額縁(フレーム)に入れ替えることで、全く異なる印象を与えるようなもの。

リフレーミング

 小手先のリフレーミングでは、うまくハマらずに、かえって相手に不愉快な思いをさせることもありますね。

 そして不愉快な思いをした相手はコーチに対して抵抗を示します。

 抵抗には2種類あります。

 ①露骨な抵抗 「それはおかしい!」「私はそうは思わない」「そんなことはしたくありません」などとはっきりと抵抗を示してくれること
 ②隠れた抵抗 「本当におっしゃる通りです」「確かにそうかも知れません」「そうしてみるのが良いんでしょうね」などと言いつつ、決して行動は変えない。その場では見えにくい抵抗

 「露骨な抵抗」にいくケースは少なく、多くの場合は「隠れた抵抗」で何も変化が生まれない。こんな場合、コーチは「なんでやると言ったのに、やらないんだろう?」と思っていることもあるわけです。そうするとなかなか自分のやっていることに気づくことができません。

 まずはクライアントのささやかな抵抗に気づくこと。そして抵抗が起こっていることに気づいたら、自分が進めようとしていたプロセスを取り下げ、相手にマッチングする(相手の関心に関心を寄せる)ところから再スタートするのが原則です。

 そしてスムーズで効果的なリフレーミングを目指しましょう。


 今日のテーマはポジションチェンジ(PC)です。僕はポジションチェンジこそ最高のリフレーミングのやり方だと思っています。相手目線にフレームを置き換えたら、簡単に世界の見え方は変わるのです。

 どうしてでしょう?

 あなたと相手は、生きてきた人生が違うからです。してきた体験が違うからです。違う人間関係に生きているからです。あなたとは立場が違うからです。

 そして、相手の目線から新しい観点を学ぶことは、他人とうまく生きていくことを助けてくれるわけです。PCによるリフレーミングは素晴らしい!

 それでは、いくつかのケースを紹介しながら、ポジションチェンジとリフレーミングについて検討を深めていきましょう。

心のない上司が許せない

 クライアントのAさんはプロのコーチであり、クライアント企業の中でコーチングを提供しています。

CL「実はコーチングしていて、ちょっと許せないと思ってしまう相手がいて」
CO「そうなんですか?どんな人です?」
CL「『心がない』タイプというか」
CO「どういうこと?」(具体化)
CL「いや、部下の気持ちを察しようとしないとか」
CO「気持ちを察しようとしない?」(具体化)
CL「うーん。。。なんかその人の部下って、すごく頑張っているんですね。だけど、その想いを汲み取ろうとしないというか。。。」
CO「想いを汲み取るべきである、と思ってるってこと?」(言い換え)
CL「。。。。そうですね。強い言い方とは思うけど、全ての想いを叶えることはできないだろうから、せめて上司には部下の想いを汲み取りたいと思って欲しい」

 このクライアントは最初は少し警戒しているようでした。「クライアントのことを許せない」などと口にしたら、どう思われるだろうと気になっていたのかな。

 僕は、全然そんなこと気にしません。人間だからいろんな感情になっても良いじゃないですか。しかもなんでも話せてもらえるのは、コーチである僕にとってはありがたいことであるにすぎないのです。

 さて、僕は「想いを汲み取るべきである、と思ってるってこと?」と、ちょっと強めの言い換えをしています。(言葉が強い分、言い方は柔らかくしています)

 これは、クライアントに自分の気持ちにしっかりと向き合ってもらうためです。

CO「なるほど。それがAさんの価値観であると
CL「。。。そうですね。これは私の価値観ですね」
CO「そして、それを会社の人たちにも持ってもらいたい
CL「。。。。そうです」
CO「どうしてですか?」(目的)
CL「全社員が勇気とか希望をもって仕事を続けていく上では、それが一番大切だと思うので」
CO「いいですね!!大切なことだと思います」
CL「ありがとうございます」

 さらに「なるほど。それがAさんの価値観であると」と確認しました。別に僕は「それはあなたの価値観にすぎなくて、あなたのクライアントに押し付けるべきではないだろ?」と言いたいわけではありません。

 Aさんに自分の価値観は自分の価値観としてちゃんと認識して、それを大切にして欲しいのです。

 Aさんがイライラするのは、相手と価値観(目的)が違うように感じるからなのです。だとしたら、Aさんは相手の人と価値観(目的)について話し合ったって良いのです。いずれにしてもまずは自分の価値観を意識することは大切です。

 そして、その上で「どうしてそれを他の人にも持ってもらいたいのか」と質問をすることで、さらに上位の目的を明らかにしています。

CO「では、目の前に椅子を置いてみましょう。心がないタイプのマネージャーの椅子です」
CL「(設置)」
CO「その人と話をしていると、どんな気持ちになりますか」
CL「イライラしますね」
CO「例えばどんな時に?」
CL「『自分としては、部下のことも考えてやってるんです』とか言われると、考えてないだろう!とか、そんなことはないだろう!って思います」

  Aさんの最後の言葉、結構感情がこもってたんですよね。だから

CO「。。。。その感情はどこからきてるんでしょうね?
CL「いやー。彼の部下の人たちからも、いろいろと話を聞いてきたんで。。。」
CO「それだけですか?」(網羅)
CL「。。。。。いや。。。。自分のことも投影してるかな。。。」
CO「どういうことですか?」(具体化)
CL「私自身も会社員時代には、上司の無理解に苦しんできたので。。。」

 これも別に「良い悪い」の問題ではないのです。ただ自分に起こっていることに自覚的であったほうがいいと思うのです。その上で、どうしたいかを今、選択したら良いというのが、アドラー心理学から僕が学んだ考え方です。

引き続き、グイグイ進めているので、その分、口調はソフトにしています。そして、そろそろ行けそうなので、ポジションチェンジしてみることにしました。

CO「マネージャーの方の椅子に座ってもらって良いですか」
CL「(移動して着座)」
CO「ちょっと、目の前のAさんの心の声をきいてもらってもいいですか?」
CL「はい」
CO「部下のことなんて全然考えないだろう!って言いながら、イライラしてますけど。。。どう思いますか」
CL「いやぁ。。。」
CO「なんですか?」
CL「急に、そんなこと言われたら驚くし。。」
CO「驚くし。。。」
CL「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないんだって思います」
CO「どういうことでしょうか?」(具体化)
CL「部下に何をきいたか知らないけど、こっちだって何年も彼らと付き合ってきて、できることはやろうとしているし。。。」
CO「やってきたし。。。」
CL「いろいろ苦労もある。。。」
CO「苦労してきたんですね」
CL「そう。。。。何十年も。。。会社のために。。。。のほほんと暮らしてきたわけじゃない」

 こんな感じになりました。あとは例えば

「どんな風に苦労してきた?」→「本当にわかって欲しいことは何?」→「Aさんからどんな風に関わってもらえたら、一緒に頑張ってみようと思うんだろう?」

 などのように進めていけばうまくいきますね。

 こんな風にポジションチェンジを使えば、簡単にリフレーミングが起こるわけです。

 当初Aさんは「このマネージャーは心がない」と思っていたわけですが、相手の立場から見てみたら「会社のために頑張ってきたが勇気が枯渇している。でも志を捨てたわけじゃない」というように変わったわけです。

 これをポジションチェンジせずにいきなり

「いやぁ、その上司だって、いろいろ事情とかあるんじゃない?」

 みたいに関わっても「そうかも知れないけど、やはりあのマネージャーは心がない」とかなった可能性もありますよね。

 百聞は一見にしかずと言いますが、人から言われるよりも自分で体験することは効果が大きいわけです。

 

父のポジションに入りたくない

 次のケースです。相談内容は、父との間にあった「心理的に未完了な問題」に取り組もうとした矢先、父が急死してしまった。というものでした。

 クライアントは「もう良いと言えば良いんだけど」と前置きしながら「家族へ迷惑かけてきた父が、実際のところどう思っていたのか、ききたかった」と言います。

 ここで僕は思うんですね。「本当は『もう良い』とは言えない状態なんだろうな」と。そうでなければ「もう良いと言えば良いんだけど」なんて言わないのです。

 ポジションチェンジで大切なのは、まずはクライアント自身のポジションで自分の気持ちをしっかりと話してもらうことです。自分の気持ちに気づき、それをしっかりと表現することができた時に、別の視点に映ることができるのです

なので僕は、クライアントを誘ってみました。

CO「もう良いと言うのも事実だとは思いますが、せっかく未完了に取り組もうと思われたということなのですから、これまで言わずにきたことを、ここでスッキリと口に出してもらって、完了させてみてはどうでしょう。僕もお付き合いしますから」

コーチからのお誘い

 クライアントはきっと「父に、はっきりと言ったところで逃げられる。今までもそうだったから」などと思っているのです。だからこれまでもお父さんに対してあまりはっきりとは迫らずに来た。そうすることで、クライアントは、自分自身の気持ちにしっかりとアクセスする機会も失ってきたのではないでしょうか。

 だから、まずは自分の気持ちにしっかりとフォーカスを向けてもらいたい。

 これはリフレーミングとの関係でいうと、まずは「自分の本当の気持ち」にフレームを当てて、それをしっかりと表現してもらいたいということです。

 実際このケースではクライアントから「とても辛かった」「嫌だった」「ひどいことをしたと謝って欲しかった」などの言葉が出てきました。

 自分が傷ついていたこと。怒っていたこと。

 それらに気づくことは大切です。それを無かったことにせずに、ちゃんと表明することは、自分を守ることにもつながります。

 自分を守る≒自分を大切にする≒自分の価値を認める

なのです。そして「本当の気持ち」に気づいたら、今度は

「相手に分かってもらいたいこと」

 にフレームを移すことがオススメです。人間関係は、自分の本当の気持ちを相手に押し付けてもうまく行きません。自分の本当の気持ちを理解した上で、「相手にわかってもらいたいことはなんだろう?」と考え、それを相手に理解してもらえそうな言い方で伝えるのです。

 クライアントの口から出た、わかってもらいたいことは「悪かったと、謝ってもらいたいと思っている」というものでした。

 ポジションチェンジって、相手のポジションに入った時に認知が切り替わるように見えるかも知れませんが、そうではないのです。まずはしっかりと自分自身のポジションを体験すること(自分の気持ちというフレームに居続けること)が大切なのです。

 さて、実際にはここでこんな展開がありました

CO「では、お父さんの椅子に座ってみましょうか」
CL「正直座りたくありませんね」
CO「そうですか。どうしてでしょう」
CL「実際に、座ったところで、何か良いことが起こるとは思えなくて」
CO「なるほど確かにそうかも知れませんね。実際どうなるか、一度座ってみませんか。良いことがなければ、そのときに次を考えましょう

抵抗に向き合う

 座りたくない気持ちもわかるんですよね。このお父さんは、まぁまぁの確率で逃げるだろうな、と僕も想定はしていますから。そして、そもそもすでに亡くなっているわけなので、いまさらPCしたところでどうなの?という疑問もあるわけです。

 とは言え、僕の働きかけに応じて、クライアントは父親の椅子に座ってくれました。

CO「では、お父さんになったつもりで、息子さんの声を聴いてみてください。。。とても辛かった、嫌だった、ひどいことをしたと謝って欲しいと思っている」
CL「。。。。。。」
CO「どんな言葉が出てきますか」
CL「おれが謝ればそれで気が済むのか?」

予想通りの展開

 予想通りの展開です。でもこんな時、アドラー心理学には便利なフレームがあります。「勇気がくじかれている」フレームです。

 勇気に溢れていたら人はこんな応答はしないのです。だから僕はきいてみました

CO「お父さんとしては、そう言いたくなっちゃう」
CL「。。。はい」
CO「ちゃんと向き合う勇気がくじかれているのかな?」
CL「。。。そうだと思います」
CO「もし、勇気に溢れていたら、なんて言うだろう?」
CL「。。。。。。つらい思いをいっぱいさせて。。。。ごめんな」

勇気がくじかれている

 ちゃんと向き合うには勇気が必要なのです。だから「いまは勇気が枯れているフレーム」を経て「もし勇気に溢れていたらフレーム」に移行する。これはポジションチェンジに限らず、コーチングでよく使えるフレームチェンジです。

 このケースでも、自分のポジションと父親のポジションを体験することにより、クライアントのセルフイメージも、父親に対するイメージも変化しました。

 今日はここまで。明日もPCとリフレーミングの検討を続けます。

僕たちと人生を変えるコーチングがしたいかたは、ぜひやりましょう!




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