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僕はどうして「靴下脱ごう」と言ったのか

ある日の出来事

 夜。眠すぎて混乱気味の息子殿(2)。「ねない。もっとあそぶ」と言って、暗いリビングを泣きながら玩具箱に向かう。彼のお母さんが「明日にして寝よう」と声をかけても、嫌がって大泣きする。お母さんは少し様子を見ようとする。でも泣き止まないどころか、鳴き声は大きくなっていく気がする。

 息子殿(4)は日中の活動で疲れ果てており、着替える余力も、歯を磨く余力もなく、リビングに寝転んで、「着替えられない〜。無理〜」などと言っている。今にも寝そうな表情をしている。なるべく自分で着替えなどしてもらいたいのだが、今日は出来るのだろうか。

 父(アタクシ)には、オンラインミーティングのかすかなBGMとして、その声が聴こえている。

 「今日はよく泣くなぁ」と思いつつ、「近所迷惑にならないかな」とか「虐待疑いだとかで連絡されないかな」なんて思ったりもしている。

 心の中で妻を応援&案じているが状況は変わらなそう。ちょうどオンラインミーティングが終わったので、リビングに行く。

リビングでは

 うん。息子殿(2)はガッツリ泣いている。もう自分でも何で泣いているのかも分からなそう。

 息子殿(4)もリビングで、薄目で寝っ転がっている。「まぁお風呂は入らんでも良いけど、パジャマに着替えたほうが良いだろうな。なんか汚れてそうでもあるし」とか父は思う。

 妻は疲れ果てているようで、寝室で横になって子どもたちを待っていた。大変だったんだろうね。すまん。

 玩具箱の前で立ったまま泣いている息子殿(2)に声をかけてみる。「遊びたいの?」

 泣きすぎていて何を言ってるか分からない。。。

 「こっこ(抱っこ)しますか?」ときいてみる

 泣きすぎていて、何を言ってるか分からない。何が嫌なのかは分からないが、嫌だという雰囲気はビンビンに伝わってくる

 「おとうちゃんにして欲しいことあったら、言ってちょうだいね」

 と声をかけて、今度は息子殿(4)の方に

 「今日はいっぱい遊んだね」と声をかける。小さく「うん」という息子殿(4)。

 これは行ける

 「眠いから靴下だけ脱いじゃおうか。そのまま寝ると暑くなっちゃうし」と、ちょっと楽しい感じの声で声がけした。

 「えー」と言いながら、モゾモゾ動いて靴下だけ脱ぐ息子殿(4)。

 「すごい!よくそんな姿勢で上手に脱げるね!」と声をかけると嬉しそうだ。

 「あとは、虫歯菌の退治だね。少しでも磨いたら、お父ちゃん手伝ってもいいよ。今日は甘いもの食べたからしっかり磨かないとね」

 「えー」
 「歯ブラシ持ってきたら、お手伝いしますよ」

 ノソノソと立ち上がり、歯ブラシを取って口に入れる息子殿(4)。

 よし、息子殿(2)に戻ろう。相変わらず泣いているので「どうしたの?教えてちょうだい」と声をかける。泣き続けていて、どうしたいのか分からない。

 一回抱っこしてみるか、と思い「こっこ(抱っこ)してみる?」と声をかける。今度は明確に嫌とは言っていない感じ。抱っこしてみた。すると

 海老反りになって大泣き

 あはは失敗。と思いつつ、さらに強く泣き出したのをいいことに「何が嫌なの?教えて。どうしたい?」と穏やかに、でもしっかりとした声できいてみる。すると

 「おりる!!!」

 と初めて意思表示。息子殿(2)とコンタクト成功。

 「じゃあ、おりましょうね。降りてどうしたい?おかあちゃんとこっこ(抱っこ)かな?」ときいてみると、泣きながら

 「おかあちゃんとこっこ」

 と言ってくれました。サンキュー息子殿(2)。

 「じゃあ、泣くのをやめて、おかあちゃんにお願いしましょう。こっこして、って」

 少し泣き声を押さえて「こっこして」という息子殿に寝室に行くように促すと、彼は寝室に行き、おかあちゃんに「こっこ」してもらいました。

ソファーにて

 歯磨きをしていた息子殿(4)は、ソファーで朽ち果てていました。「手伝いましょうか」と声をかけると「手伝って」と言うので、歯磨きの手伝い。楽しい感じで「大きく開けて〜。おおおお大きい!!!」とかやっていると少し元気になりました。

 口をゆすいでもらって「じゃあ、汚れてるし、服を脱ぎますか」というと、脱ぎ始める息子殿(4)。「手伝って」と言われるので、少し手伝いながら、なんとかお着替えもしてもらって、寝室へと送り込みました。

 こうしてようやく落ち着けたのですが、やっぱりコーチングやら何やらやっていて良かったなと思うのです。

 関わるスキルのこともありますが、何と言っても指針があるわけです。指針があると、当たり前ですが指針の見直しができるのです。(指針がないと場当たりになりますね)

 指針とスキル。大切ですね。これらが不明なまま子育てをすることになると、本当に大変なのではないかと思います。アドラー心理学だけが正しいとはまったく思っていませんが、皆が何らかの指針とスキルを持てるようになると良いのになぁ

妻との振り返り

 寝かしつけが終わった妻がリビングにやってきて、僕にお礼を言いました。お礼を言われるようなことではないけど「今回はどうしたらいいか分からなかったので助かった」とのことでした。

 「ちょっときいてもいいですか?」と妻。「どうして、あの時、靴下を脱ぐように声をかけたの?」

 んー。そう来たか。「どうしてだと思う?」ときいてみると「うーん。暑くなって、寝づらいのはわかるけど」と言う。

 そうなんだよね。きっと息子殿(4)もこれまでの4年の人生経験で、パジャマに着替えないまま寝ると、寝づらいことは知っている。とくに暑がりの息子殿(4)にとっては、靴下は不快で、脱ぐと気持ち良いことは分かっている。

 だから、そこから始めようと思ったわけです。本人も必要性を感じる小さなことから、少しずつ動いていってもらうのは、僕たち関わりの原則です。

 そもそも僕たちは勇気づけの関わりをしたいのです。勇気づけとは、本人が自分の課題に取り組めるように関わることです。

 着替えをするのも、歯磨きをするのも本人の課題です。本人の課題だから、やらなくても放っておいて、リビングで寝たかったら寝かせてもいい。風邪をひいても自己責任。という考えもありますが、まだ息子殿は4歳児なわけです。

 良い生活習慣を身につけて、健康的かつ文化的な暮らしができるように手助けするのは親の務めだと思います。でも、なるべく、やってあげたくはないのです。もちろん怪我や病気なら、その程度に応じて手助けしますが、その時だって、自分でできることは、少しでもやってほしいのです。できる!という体験をしてほしいのです。

 これはアドラー心理学で教える『教育の4S』の一つ、責任「自分の課題に自分で取り組めるようになること」を身につけてもらうためなのです。

 僕の指針にもなっている4Sについては以下の記事などを参考にしてください。

 さて、勇気づけの原則は、今できることから始めてもらうことです。眠くてご機嫌斜めの息子殿に、立ち上がって、着替えをして、歯磨きすることを一気に求めても難しいわけです。そこまでエネルギーがありません。

 だから、まずはやれそうなことからやってもらう。靴下くらいなら、寝っ転がりながらでも脱ぐことができますから。しかもラッキーなことに、靴下を脱ぐことの意味は息子殿も感じている可能性が高いわけです。そんな風にして「眠いから靴下だけ脱いじゃおうか。そのまま寝ると暑くなっちゃうし」という言葉が出てきたわけです。

 もちろん、現場ではこんなことを考えてから声をかけているわけではありません。これまでのコーチング修行の結果、自動的に教育的かつ勇気づけの声がけになるように自分をトレーニングされているわけです。

やる気は存在しない

 脳科学に関するご著書も多い東京大学の池谷裕二先生によれば「やる気というものは存在しない」のです。

 「やる気」という言葉は、「やる気」のない人間によって創作された虚構なんですよ。人間は、行動を起こすから「やる気」が出てくる生き物なんです。だから、面倒なときほどあれこれ考えずに、さっさと始めてしまえばいいんです。「やる気を出すにはどうすれば。。。」と考えるだけで行動しないことは、時間の無駄でしかありません。

やる気は虚構

 これはコーチングをしていく上でも大切な考えですね。クライアントがやる気ないように見えるとき、なんとかやる気を出してもらいたいと思うわけです。

 未来をありあり描いたり、応援してくる人の気持ちを感じたり、過去の「やれた自分」を思い出したり。。。。

 もちろん、効果がないわけではありませんが、アドラー心理学的なアプローチは、ずばり「今できることをやってもらう」なのです。脳科学が人間の脳の実態を明らかにする前から、アドラーは直感的にわかっていたのではないかと思います。

 やっていく中から、やる気も出てくるし、効力感=「できる感」も出てくるのです。

 だから僕はまずは、靴下から脱いでもらったのです。 

勇気づけと習慣化

 「すごい!よくそんな姿勢で上手に靴下脱げるね!」

 これが靴下を脱いだ息子殿(4)に僕がかけた声です。これも勇気づけですね。息子殿に「自分はできる。お父ちゃんがびっくりするくらい、工夫することもできるし、器用な人間だ」と思ってもらいたいのです。

 そう思えたら、いろんなことを自分で工夫するようになりますね。「床に寝ながらだって、着替えもできるんだよ」とか、いって、ズボンを脱いだり、上着を脱いだりもし始めるかも知れません。

 そうやって、いろいろなことを試しながら、良かったやり方に気づくとそれが繰り返され習慣化されていくわけです。そのためには「体験学習サイクルの質問」と呼ばれるものを使えば、これも簡単にすすめていくことができます。それらはこちらの記事でどうぞ

Wonderを大切に

 とにかく僕はびっくりしたり感動するようにしています。これはコーチングの先生からの教えです。

 Wonderとともに生きましょう。Wonderを大切に生きましょう。そうするとWonderfulな人生になります

WonderとWonderful

  Wonder=驚く、不思議に思う

 ですね。子どもたちに接するときに、当たり前と思わず「すごいところ」「ふしぎなところ」を見つめていきたいのです。子どもたちは、特に習ったことでもないのに、自分たちでやり方を考えたり、あたらしい発明をし続けています。僕たちが考えもしないようなことを言ったりやったりすることもあります。

 そう言った一つ一つを「普通」「くだらない」ではなく、「面白い」「l興味深い」「どうしたんだろう?」「どうしただろう?」という目で見つめたいのです。

 そうすると、子どもたちは、一生懸命に説明をしてくれたり、別のやりかたまで実演してくれたりするのです。

 僕は基本的に、子どもたちに対して丁寧語で接するようにしていますが、それも、彼らへの敬意の表れです。彼らは内面に非常に興味深い考え方を持っている、一人の人間なのです。彼らから教えてもらえることはたくさんありますし、彼らとともに学べることもたくさんあるのです。

 そして彼らに敬意をもって関われば、彼らも敬意をもってこちらに関わってくれます。

 もちろん、敬意もWonderも子どもたち相手にだけ持つものではありません。もちろん大人同士でも、動物や植物や、地球環境、スピリチュアルな世界にまで、敬意とWonderとを持って生きて行きたいですね。

 今日はここまで。

僕たちとWonderfulな人生をつくるコーチングがしたいかたは






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だいじゅ@コーチング脳のつくり方
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