クライアントが鬱っぽかったら
残り46日
「鬱の人にどうやってコーチングしたらいいですか?」
これもコーチングを教えるなかで、たくさんの方から質問されました。そんな場合、僕は逆に質問します。
あなたは誰として関わるの?
「『鬱の人』にあなたは誰として関わろうとしていますか?」
多くの人は
「コーチとして関わりたいと思っています」と答えます。
そこで僕はさらに問います。
「コーチだったら、相手をどんな人としてみるでしょうか?」
クローズドクエスチョンで厳しく問うなら「あなたがコーチなら、相手のことを鬱の人と表現するでしょうか?」になります。その場合の答えはもちろんNOとなるはずです
相手のことを、その人そのものとしてみる
相手のことを、人生の主人公としてみる
相手のことを、可能性に溢れた人だとみる
いろんな見方がありますが、少なくともコーチは相手を「鬱の人」と見ないです。
「鬱」のように問題のラベルを貼ってその人を見ることはしないのです。「鬱」と診断して治療や支援をするのは医者や心理士の仕事です。僕たちはただクライアントの幸せのために、クライアントの相談に乗るだけです。
精神科の先生の中にも、こんなふうにおっしゃるかたがいるわけですが、まさに我々コーチが関わるときには、このスタンスなのではないでしょうか。
心の悩みでなく、生活の悩みを一緒に話し合う
鬱のことではなく、家のことや仕事のこと。人間関係のこと。それであれば一緒に考えながら、クライアントのペースで取り組んでいくことができるのです。
例えば、「心不全の人にどうやってコーチングしたらいいですか?」ときいてくるコーチは、コーチングで心不全を治そうとは思っていないはずです。それと同じことなのです。心不全を扱うのはお医者さんです。僕たちはそのクライアントが「相談したいこと」について一緒に考えるだけです。
誰にでもコーチは必要
鬱そのものに取り組みたいなら、専門家の支援を得るのが一番です。でも、その時にも、コーチはコーチで役にたつのです。離婚をする際に、弁護士に支援してもらうとしましょう。それとは別に、コーチもいてもいいのです。弁護士はコーチの代わりはできません。お医者さんもコーチの代わりはできないのです。
あまりにもうつ状態がひどいときには、コーチの出番は少ないかもしれませんが、それでも、ただ話を聴くことや寄り添うことはできますね。人生には「止まる時期」もあるのです。「止まる時期」には、しっかりと止まって、自分をメンテナンスしたり、また動き始める日に向けて準備するのです。
そして、いつか「歩く時期」がやってきます。リハビリのようなもので、少しずつ自分もならしながら、新しいやり方で人生を進み始めるのです。そして、それにも慣れてきて、勢いがついてきたら「走る時期」です。コーチはどんな時期でも一緒に進むことができるのです。※「歩く時期」「走る時期」「止まる時期」は平本あきおさんによるものです
その時々に合わせて、クライアントに必要なコーチとしてのサポートをしてあげてください。
「鬱そのものを何とかすることはできないけど、人間関係なら考えられるよ」
「鬱そのものを何とかすることはできないけど、これからどうしていきたいかを考えることなら手伝えるよ」
「鬱そのものを何とかすることはできないけど、自分らしい時間の過ごし方については一緒に考えられるよ」
というのが私たちコーチのスタンスなのです。そして実際のところ、僕たちコーチが適切な関わりができると、クライアントの状態は良くなっていくことも多いのです。なぜならコーチと関わることで、
こんなことが起きていくわけですから、毎日の気分や考え方も結果として変化していくわけです。
繰り返しになりますが、コーチングで鬱が治せるという話ではないし、そんな風に発想するのはおかしいのです。自分を受け入れ、周りと助け合いながら生きていくことを選択していくと、人間は良い状態になっていくのです。
箱根のとある温泉で見かけた言葉です。コーチングも同じです。コーチングは「鬱」に効かない。クライアントに効くのです。
コーチだけで抱え込まない
「鬱の人」に限ったことではありませんが、コーチだけで抱え込もうとするのはやめましょう。クライアントにとっては、いろんな人とつながったり、助けてもらえるほうが良いのです。
と言う言葉があります。少しずついろんな人に助けてもらえる。そして、いろんな人の役にも立てる。そんなネットワークの中に生きていけると、長期的に幸せに生きていけるのではないかと思うのです。
だから、クライアントにも、少しずつでいいので、いろんな人たちとの接点を持ってもらうように関わっていけばいいのです。そうするうちに「この人とはもっと仲良くなりたい」「この人とはもう少し距離を取りたい」ということも出てくると思います。そうしたらそれをコーチングで扱ったら良いですね。
特にクライアントがありのままの自分でいられるような人間関係が持てると良いと思います。ありのままの自分で、やりたいことができ、無理のないやり方ですすめていくことができ、誰かの役にも立てる。そんなときに人は幸せになる。それが100年以上続いてきたアドラー心理学が教えてくれることです。
大大ベストセラー『嫌われる勇気』のタイトルに見られるように、人の期待から離れ、承認欲求を手放して、ありのままの自分として周りと生きていけるようになると、人は幸せになっていくのです。
専門家に頼ろう
クライアントが病院にかかっていないけれど、状態が良くない時は、お医者さんに頼ることを考えましょう。
自殺や自傷についての話。「消えたい」「生きる意味を感じない」などの言葉。身辺整理をはじめること。
のような深刻なサインを見てとったら、すぐにも専門家に相談したほうが良いでしょう。緊急時は警察への連絡をすることになります。リスクが高いと感じた場合は、躊躇しないでください。相手の命が最優先です。
他にも
極端な不眠や過眠。食生活の急激な変化。身だしなみを気にしなくなる。
大幅なパフォーマンス低下、仕事に行かなくなる、人との交流を避ける。
感情的になる。元気がなくなり反応が鈍い。興味関心が失せる。
のようなことがあるなら、専門家の支援を考えたほうが良いと思います。
ぜひ、あなたの心配を伝えて、病院の受診をすすめてみてください。「身体のことが心配だから、(続くようなら)一度病院で診てもらいませんか」など相手に伝わりそうな表現を検討してみてください。
少し遠い未来を考えよう
コーチは過去ではなく、未来を見ています。だからクライアントの未来をみようとしてください。良さそうなタイミングが訪れたら、クライアントと未来を想像してみてください。
今までのやり方を続けると、どんな結末を迎えるだろう。そんな未来の可能性も見つめてください。
鬱はクライアントが考え方や行動パターンを新たにするチャンスにもなり得ます。これからの人生を幸せなものにしていく考え方に出会うための時間にもなるのです。
だから、今の考え方や行動パターンでいくと何が起こるかにも意識を向けた上で、
数年後などの少し遠い未来。本当はどんな風に暮らしていたら幸せなんだろう
そんなふうに考える時間をもってもらいたいのです。
周りの期待に応えて生きるのではなく、人に「すごいだろ!」と言うために生きるのでもなく、本当に自分らしい幸せとは何だろう。と想像するのです。
そして、それに向かって、どんな風に進んでいけたら、プロセス自体も苦しいものでなく、幸せなものになるだろうか?
そんなふうに発想して欲しいのです。まさにコーチングですね。
大切なのは、焦らないこと。焦らず諦めず、少し遠い未来に向かって、その時々の状態をうまく泳いでいくのです。それを手助けしてあげて欲しいのです。
コーチのセルフケア
最後にいつものお願いですが、コーチであるあなた自身のセルフケアを忘れないでください。
身体と心のスコアリングを毎日続けてください。
「今日の身体は10点満点で何点だろう?」
「今日の心は10点満点で何点だろう?」
そして、何があれば、点数があがるか考えて、必要なことを実行してください。私たちの状態が良くないと、判断ミスにもつながります。またクライアントにもっとよい影響が持てる機会を逃すことにもなります。
そして何よりも、私たちがセルフケアを大切にしている姿勢を見せることで、クライアントもセルフケアの必要性を感じるのです。忙しさの中で、自分を蔑ろにすることがないように気をつけて行きましょう。
ありのままの自分でいられる場所。ありのままの自分でいられる人間関係。私たちもそれを大切にしていきましょう。
僕たちとコーチングが学びたい方は