クライアントが安心して相談できないのはどうしてか

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 クライアントが私たちコーチに安心して相談できるのどうしてか?を『コーチングと倫理』という観点から検討してみたいと思います。

 倫理(規定)はコーチングの基盤であり、それがクライアントが安心してコーチングを活用できる環境をつくるのです。コーチは、その環境をつくることに責任があります。

 コーチングスクールなどで教育を受けた人は「倫理」に関する授業があったと思いますし、倫理規定をガイドラインにしながらコーチングの活動をしていると思います。そしてそれはクライアントのみならずコーチ自身、コーチングを守ることにもつながっているのではないでしょうか。

 今回の記事ではコーチの倫理の中でも重要だと思われる3点について解説します。

 最近は独学でコーチングをやっているコーチや、簡単なスキル研修などを受けただけでコーチングをしている方も増えていると思いますので、ぜひ今後の活動の参考にして、クライアントが安心してあなたのコーチングを受けれらるようにしてあげてください。

守秘義務を徹底する

 守秘義務を知らないコーチはさすがにいないと思います。簡単なコーチング研修でも守秘義務については教えられると思います。

 ただし、コーチングで聞いた話をうっかり話してしまったり、匂わせてしまったりしたことが「ある」「されたことがある」というかたは案外多いのではないかと思います。

 契約を結んで金銭の授受があるようなコーチングでは、さすがに無いだろうと思いたいですが、練習に近い位置付けのセッションや、カジュアルにされた相談などでは、守秘義務を守るという意識が低くなっている場合もあるのではないでしょうか。

 でも、それは「クライアントに不利益をもたらす」だけでなく、「コーチにもコーチングにも不利益をもたらす」行為です。そのことによって、クライアントは、コーチングを積極的に受けようとは思わなくなるからです。

 「いつ?誰に?何を?どのように話すか?」はクライアント自身が決めるべきことです。そして自己決定しているからこそ、自分の言動に責任が取れるのです。コーチに限らずですが、人はそもそも、他者の権利を侵害すべきではありません。

 ましてや、コーチングは「外向けでない形」でクライアントの頭の中や、心の中で起きていることを晒す行為なのです。コーチを信頼して、未整理不確定な話をしながら、それを整理していくのがコーチングです。だからこそ、そこで話したことが守られることは大切なのです。クライアントが口外してOKと言わない限り、コーチングを受けていることですら、秘密として守られるべきと思っていたほうが良いでしょう。

 以下、守秘義務に関連して意識しておくと良いことです

①守秘義務に関して公言すること
 クライアントにも関係者にも、コーチが守秘義務を持っていることを事前に宣言しておきましょう。そうすることで、クライアントも安心感を持ちますし、関係者からコーチングで話された内容についてきかれることなども少なくなると思います。

 ここで言う関係者とは、クライアントの上司や人事担当者、家族、友人知人などですね。とくに企業からの依頼で社員にコーチングをする、親や学校からの依頼で子どもにコーチングをする、などの場合は事前に依頼主に対して、守秘義務の説明をし、理解してもらうことが大切ですね


②誤解をされないように心がけること
 口外しなればいい。のではありません。「怪しい」と思われないことが大切です。例えば、セッションのメモを取る人などは「このメモどうするのかな?どうやって管理や処分してるのかな?大丈夫かな。。。。」などと思われている可能性がないか注意してください。

 また、クライアントに公開許可を得て、話しているセッションの内容に関する情報についても「クライアントの許可を得ています」と必ず伝えることで、誤解される余地が減りますね。クライアントを不安にさせないこと、不信感を持たれないことも大切だと意識するとよいと思います。

③例外事項について理解しておくこと

 守秘義務の例外となる事柄についても押さえておきましょう。自傷他害の恐れがある場合や、虐待など法律上の報告義務がある場合は、適切な機関に報告する必要が出てきます。

 その際は、本人にも「緊急の対応が必要である」ことを伝えた上で、信頼関係に気を配りつつも、関係各所にサポートの依頼などをすることになります。

④直接のコミュニケーションを推奨すること

 対人関係の問題の場合、クライアントが相手側と直接コミュニケーションをとって解決することを促しましょう。

 例えば、親からの依頼を受けて、その子どもに対してコーチングをしている場合。セッションの中で聴いたことにより、親の言動に問題を感じた場合など、子どもが親に対して、直接コミュニケーションを取れるように関わるということです。

 当たり前のことに思えるかも知れませんが、「本人は言わないだろうな」「本人から言っても伝わらないだろうな」などと考えて、直接伝えようとするコーチがいます。

 これは守秘義務上の問題だけでなく、クライアントの人間関係をさらに複雑にする可能性もある行為です。もし親と話す場合には、少なくとも本人の依頼を受けて話すことになるでしょうが、その場合も、クライアントが不利益を被らないように十二分に配慮する必要がありますね

⑤情報公開のためにクライアントの許可を得ること

 クライアントの許可があれば、もちろん情報を公開することができます。僕もコーチングのケースのシェアのためにクライアントから許可を得ていますが、公開に意義があると感じた情報については、クライアントに許可をとってください。

 その際は、なんの用途で、どのような形で紹介するのかということを具体的に提示して、OKをもらってください。NG事項についても確認してください。そのやりとりについては、記録を残しておくことをお勧めします。

 1項目目の守秘義務から長くなりましたが、次に行きましょう。

利益相反に気をつける

 「利益相反に気を付ける」も殆どの団体の倫理規定に載っています。利益相反とは、一方の利益を追求すると他方の利益が損なわれる状況を指します。

 とは言え、利益相反の説明の前に、この記事の中で一番重要なことを伝えましょう。それは、

 コーチが最優先すべきものは、クライアントの利益である

 と言うことです。「クライアントの利益を最優先にする」ことが最重要指針なのです。(守秘義務もクライアントの利益を守るために存在しています)

 クライアントの利益が最優先なので、クライアントの利益と相反することがないかをチェックするのです。

①二重関係に関する利益相反

 「二重関係を避けるべきである」 のも利益相反を起こさないためです。

 二重関係とは、相手との間に、コーチ=クライアント関係以外の関係性が同時に存在していることです。コーチでありながら、上司。コーチでありながら恋人。コーチでありながら親。コーチでありながらクライアント。これらは全て二重関係ですね。

 二重関係でよく出てくる例で「クライアントと性的関係を持ってはいけない」というものがあります。恋愛関係や性的関係があると、それによって、コーチが相手をコントロールしたくなったり、言えないことが出てきたりする可能性があります。それによってクライアントがコーチングから得られる利益が損なわれる可能性があるのです。

 「では部下にコーチングをしてはいけないのか?」と質問されることがあるのですが、利益相反が起こる可能性を前提にしてコーチングをする必要があるということです。

 実際に部下に対するコーチングでは利益相反が発生しやすいのです。上司であるコーチが、クライアント本人の利益よりも、短期目標への取り組みなどに誘導してしまうことなどは典型例ですね。またクライアントもコーチ=上司=評価者となると、自分の評価に不利に働く可能性があることは、コーチに相談できないなどの問題が出てきます。

 僕はこれまでたくさんの社内コーチを育成してきましたし、1on1の後押しもしてきました。社内でコーチングが受けられることは素晴らしいと思うからです。ただしそれはあくまでも上司がコーチング的なコミュニケーションをとっているということであり、二重関係のないコーチのコーチングを受けていることは違うことなのです。

 ですから、社内でコーチングをする場合は「コーチングで聞いた話は評価に反映しない」「コーチとして話をきくことと、上司として依頼をすることをきちんとわける」などの指針を部下に伝えるなどしたほうが良いと思いますし、必要なら外部のコーチを紹介するなどの配慮もあって良いでしょう。

②他サービスに関する利益相反

 プロコーチに関してだと、コーチングのクライアントに、他のサービスや商品を提供する際は注意が必要です。コーチングの関係性を使って他サービスを売ってしまうと、クライアントの利益が損なわれる可能性があるからです。

 コーチとクライアントの間には強い信頼関係が生まれますし、クライアントの価値観や思考パターンをコーチは理解しているわけです。またクライアントはコーチングの中で感情を露わにするシーンもあると思います。そのような環境下で、他の商品サービスに誘導することは、クライアントの利益を損なう可能性があります。気をつけましょう。

 また、クライアントの意思で、コーチング以外のサービスを使っている場合も、そのことがコーチングに影響しないように注意する必要があります。

③他クライアントとの利益相反

 ライバル企業を同じコーチがコーチングすると、利益相反が起こる可能性があります。取引関係がある企業を同じコーチがコーチングすると利益相反が起こる可能性があります。

 個人でもそうです。夫婦に対して、一人のコーチがコーチングをすると利益相反が起こる可能性がありますね。コーチが中立でいるのが難しくなったりすることもありますし、クライアントが相談しにくくなることもあります。

 ですから夫婦に関わるときは、どのように関わっていくかをそのご夫婦と同意してスタートすることになります。また個別セッションと合同セッションを混ぜながら、合同セッションでお互いにコミュニケーションをとってもらい、あたらしい関係性を構築していくための工夫をしたりすることになりますね。

 簡単なガイドラインは既存のクライアントと利益相反するようなクライアントを取らないということです。しかしなんらかの理由でそれをする場合は、両者の合意やコーチングの進め方に関する取り決めをする必要がありますね。

協働関係の維持

 次はクライアントとコーチの関係性についてです。僕たちコーチは、クライアントと協働関係にありたいと考えています。

 コーチングで扱われる課題は、そもそもクライアントの課題です。それを一緒に扱って欲しいので、クライアントはコーチに依頼をしてきているわけです。だからクライアント=依頼者と呼ばれているわけです。

 ですからコーチングでは、あくまでもクライアントが主体であり、それをコーチがサポートしながら、一緒に目標にむかって進んでいくことになります。

 このような関係を協働関係と呼んでいます。アドラー心理学的な表現では「相互尊敬」「相互信頼」で「同じ目標」に向かって「協力」する関係です。これがあるから、クライアントは安心し、自信をもって、自分の課題に取り組めます。

①インフォームドコンセント

 そのためにまずはインフォームドコンセントが大切です。インフォームドコンセントとは十分に説明を受けた上で同意するということです。

 コーチは「コーチとクライアントの関係について」「コーチとクライアントの責任と役割について」「コーチングで提供される価値と費用について」など必要事項を説明し、相手からの質問も受けた上で、合意することになります。

 お互いがゴールや役割について合意して始めるから良い関係になるのです。

②メタコミュニケーション

 メタコミュニケーションとは、「コミュニケーションに関するコミュニケーション」のことです。要は「自分たちのコミュニケーションのあり方について、一緒に考える」ということです。

 コーチングをしていて、当初設定しているゴールからずれていると感じるときや、約束した関係性や役割から離れていると感じた際には、コーチからでもクライアントからでも、コミュニケーションをとり、もう一度関係性について規定し直すようにするのです。

③境界の維持

 踏み込みすぎず、離れすぎず、クライアントと適切な距離感を保つことです。クライアントに過剰に何かをしたくなってしまうコーチは気をつけましょう。相手に依存させたり、反発させたりする可能性があります。契約時間内、回数内でコーチングをしたら、あとはクライアントに任せるのです。

 アドラー心理学では、Warm&Firm(暖かく毅然とした態度)が大切だと教えています。愛情を持ちながらも、相手を信じて、相手が行動を取れるように勇気づける。失敗させないことでなく、体験から学ぶ力があると信じて、それをサポートする。そのための適切な距離感を保つのです。

終わりに

 クライアントが安心してコーチングを活用できるように。コーチングによって成長し、成果を手に入れられるように。僕たちコーチの倫理=ガイドラインがどんなものかについて考えてきました。

 ここで紹介したものは基本的な考えに過ぎませんので、興味をもった方は各団体の倫理規定を見てみてください。そして自分が大切にしたいものを見つけてください。

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だいじゅ@コーチング脳のつくり方
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