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クライアントの無意識にアプローチする2つの方法

 この記事では「睡眠中の歯ぎしり」という意識ではコントロールできない問題への対処方法の検討をします。そしてクライアントの無意識に対するアプローチ(イメージング)についてご紹介します

コーチングで何とかなるかも

 ある合宿研修での出来事です。朝、洗面台の前でBくんは透明のマウスピースを持っていました。(この事例はBくんの許可を得て公開しています)

 僕「マウスピースして寝てるの?」
 B「はい。歯軋りがひどくて」
 僕「そうなんだ。いつから?」
 B「もう10年以上です。歯が割れてしまうくらいひどくて」
 僕「余計なお世話かもしれないけど、コーチングでなんとかなるかもよ」
 B「え???そうなんですか??」

合宿朝のやりとり

 歯軋り自体は「無意識」的にしていることなので、意識によるコントロールは難しいわけです。だから一般的には歯医者さんに作ってもらった「マウスピース(ナイトガード)」をつけて寝るなどの対策になるのです。

 とはいえコーチングでもできることはあります。その際は、ゴールを「歯軋りしない状態」と置くとちょっと難しいので、「寝る際に十分にリラックスしている」と置いてみましょう。

 そして、こんな問いを立ててみるのです

 「そのころは寝る前に十分リラックスしている。現在と何が変わっているからだろう?」

 どうしてこんな質問をするのか、わかりますか?

 「生活や仕事の何かが改善されたことで、心身ともにリラックスしているのが当たり前の状態」をゴールに置こうとしているのです。

 クライアントが例えば

 「仕事が順調に回っているから」

 と答えたとしましょう。その場合は

CO「順調に回っているとはどんな状態か詳しく教えてください」
CL「(具体的な回答)」
CO「もしそうなっていたら、それだけであなたは夜十分にリラックスできていそうですか」
CL「いや、家族との関係の変化も必要です」
CO「では、ご家族と具体的にどのような関係になっていたら良いかおしえてください」
CL「(具体的な回答)」
CO「では、仕事と家族関係がそのようになってたら、それだけであなたは夜十分にリラックスできていそうですか」
CL「。。。。。はい。できていると思います」

状況の変化とリラックスの関係

 このように確認をとるのです。あとは、その状態をゴールにしてコーチングをしていけば良いのです。

 歯軋りは、ストレスや心理的要因が背景になっていることも多いのです。だからカウンセリングでアプローチする場合には、背景にあるストレスや感情的な問題などの解消を狙ったりします。それは上記のように、コーチングでもできるわけです。

 歯ぎしりがどこまで緩和されるかとはまた別に、人生は幸せになりストレスは減っていくでしょう。

カウンセラーならどうするだろう

 カウンセリングにも膨大な数の手法がありますが、いくつか取り上げて考えてみます

アドラー心理学の場合:

 アドラー心理学でいくなら、こんなときにも『目的論』で考えることができます。「歯ぎしりを続ける目的はなんだろう?」と。例えばそれが「未来の問題に備えるため」ということなら「何が目的で、問題(課題)とは何か?」を明確にして、そのための新しい行動を検討するのです。

 また、歯ぎしりは劣等感や過度な競争意識に関連している可能性があると考えることもあります。その場合は「誰と比べてどんな劣等感を感じているのか」に気づいた上で、それを成長の機会にできるように捉え直したり、競争ではなく協力をしながら自分らしく生きていく方法を発見したりするのです。

認知行動療法の場合:

 認知行動療法の中にもさまざまなアプローチがありますが、例えば歯軋りは、ストレスや不安によって引き起こされることが多いため、そのことと関連する認知を発見して、よりバランスのとれた考え方ができるように手助けしたりります。

 例えば「全力を出し切らないと居場所がなくなる」と考えていることがストレスと関係しているなら「ちゃんと認めてくれる人がいる」「協力して進めた方がうまくいく」などと考えられるように一緒に取り組むのです。

 より理解を深めるには、以下の記事が参考になるかもしれません


SFAの場合:

 ソリューション・フォーカスト・セラピー(SFA)は、問題そのものよりも解決策に焦点を当てるアプローチで、コーチングに近しいやり方です。歯ぎしりに対しても、問題の詳細に入っていくのではなく、「どのような具体的な行動が問題を緩和するのか」に注目していきます。

 ですから、コーチングのように望むゴールを明らかにした上で、「ストレスが少ないときはどんな状況か?」「自分らしくやれているときは、どんな状況か」を探り、そんな状況に近づけるための行動を探したりします。

 よかったら以下の記事を参考にしてください。コーチの方は「コーチングを少しだけ変化させるとカウンセリングになる!!」ということが理解できると思います


フォーカシングの場合:

 フォーカシングは、身体感覚を通じて心の内面(無意識)にアクセスする方法です。

「実際に夜中にしているであろう歯軋りを今ちょっと、してみてください。それをしながら、あなたの身体に(いつもと違う)どんな感覚が現れてくるか感じてみてください」

 などとガイドして、その感覚(フェルトセンス)が教えてくれるものを言語化していくのです。歯ぎしりの奥にある、無意識のメッセージを言語化し、それを受け入れて生きることができると、無意識は「歯ぎしり」をする必要がなくなるかもしれません

 またフォーカシングは、繊細に身体感覚の変化を感じる練習にもなりますから、普段から自分の些細な緊張に気づき、リラックスさせることにも役立つと思います。以下の記事でフォーカシングの理解が深まります


イメージングで無意識に働きかける

 僕とBくんの実際のやりとりはどんなものだったでしょうか。

僕「歯ぎしりは10年以上前からって言うけど、そのころ何があったのかしら
B「。。。大学で駅伝部だったのですが、その頃の先生の指導が厳しくて、よく眠れないくらいのプレッシャーだったので、それがきっかけなんじゃないかと思ってます」
僕「そうなんだ。大変だったね。。。ところで、Bくんがどんな状態になったら、歯ぎしりはなくなりそうな気がしますか?
B「え?。。。。。うーん。もうそんなに頑張らなくてもいいとか、自分のペースで大丈夫って、心から思えたら、いいのかもしれません」
僕「うん。何に関してそう思えたらいいのかしら」(具体化)
B「。。。。。。。人生全般なんですけど(笑)。仕事とか、あとは周りの人間関係ですかね」

背景とゴール

 と、まずは背景とゴールを押さえました。

僕「了解。じゃあ10分くらい時間があるから、まずは少しリラクゼーションの練習でもしてみようか」
B「はい」
僕「じゃあ、そこの椅子にゆったりと腰掛けてみよう。。。。。胸の辺りにリラックス感を感じながら、そのリラックス感が深まるように、深呼吸を。。。。。心地よいペースで。。。。。。何度か繰り返すよ。。。。。気持ちよーく。。。。。。」
B「(気持ちよく深呼吸し、全身が脱力していく)」
僕「手足が脱力している。。。。。胸やお腹が脱力している。。。。。背中。。。。。。。首。。。。。。。顎まわり。。。。。目の周り。。。。。。。頭皮。。。。。。全ての力が抜けて。。。。。気持ちいい。。。。。。。」
B「(完全に脱力)」

全身の脱力へ誘導

 これからイメージの力を使ってBくんの無意識に働きかけたいので、まずはリラックスをしてもらいます。そして

僕「では、そのまま少しイメージしてみるよ。。。。あなたは長い長い間。。。。ずーっと走り続けてきました。。。。。よちよち歩きから始まって。。。。。。そのうち、走るのが楽しくなってきて。。。。。。夢中になって走っていた頃。。。。。。それがいつしか、走らなければいけないような気持ちになっていったのかもしれないね。。。。。。走って楽しかったことだけでなく。。。。。時には厳しい坂や予期せぬ障害物に出会ったこともあります。。。。。」
B「(微細な緊張の表情)」
僕「ゆったり呼吸して。。。。リラックスを感じながら。。。。。。。。。。。。。。過去には。。。。あなたをより早く走らせようと、プレッシャーをかける声もあった。。。。。。それを遠くに感じます。。。。。なぜなら、あなたは、もう今は別のコースを進んでいるからです。。。。。だから。。。。。遠く。。。。。遠く。。。。。」
B「(再びリラックスの表情と呼吸)」

”走る”メタファーとタイムライン

 人生をマラソンのように例えて「ずっと走ってきたね。最初は楽しかったのに。。。途中からプレッシャーがあったね」とやりながら

 「それはもう過去のことなんだよ。。。。」とタイムラインの遠くに、その記憶を移動させようとしています。過去の記憶をしっかりと遠くに置こうとしているのです。(NLPで言うサブモダリティチェンジをしています)

僕「夜、あなたがベッドに横になると、あなたの身体は、昔の記憶を呼び覚ましましていました。。。。そこで若い選手は「もっと頑張らなくてはいけないのではないか。。。。」と歯を食いしばって頑張ろうとしていたかもしれません。。。。しかし、今度は。。。。。あなたがあなた自身のコーチになって声をかけます。。。。。「もう大丈夫だよ。。。。。。ここは。。。。。。あんぜん。。。。だから。。。。。」あなたはそうやって。。。。あなた自身を安心させることができるコーチなのです。。。。。。」
B「(リラックス、若干頬に赤みがさす)」

コーチの交代

 Bくんの無意識に「コーチが変わったんだよ」と伝えているわけです。

僕「あなたの顎から首の筋肉は。。。。かつての緊張を覚えているかもしれません。。。。。でも今、あなたは。。。。。その筋肉たちに新しい指示を与えることができるのです。。。。。。。「リラックスしていいんだよ」。。。。。。。まるでクライアントを安心させるときのように、優しく語りかけてみてください。。。。そして気持ちよく。。。緊張が解けていくのを感じます。。。。」
B「(穏やかな表情)」
僕「今夜から。。。。。。あなたが。。眠りに落ちる時。。。。。。あなたの無意識の中で変化が起こり始めます。。。。。。昔の指導者の厳しい声は、次第に遠ざかっていき。。。。。。その代わりに。。。。。。あなた自身の温かく、励ましに満ちた声が聞こえてきて。。。。。。あなたの中。。。。。そして部屋全体に。。。。。気持ちよく響くのです。。。。。その声は、あなたがメンタルコーチとして他の人々をサポートしている声と。。。。同じです。。。。。。」
B「(静かに涙を流している)」

睡眠中のイメージ

 「顎の筋肉は昔の状況に備えようとして緊張しているのです。新しいコーチであるあなたは、その緊張を解くことができるのです」

 と無意識に伝えつつ、新しいコーチの声で気持ちよくリラックスする様子をイメージしてもらっていますね。クライアントはリラックスした表情のままで、静かに涙を流しています。無意識が反応しているようです

僕「そして朝。。。。。あなたが目覚める時。。。。あなたの顎は、まるで最適なペースで。。。。走り終えたランナーのように。。。。。リラックスし、力みのない状態になっているはずです。。。。。。過去のストレスは、夜の間に少しずつ解放されていきます。。。。。そして、新たな一日が、新鮮なスタートラインのように、あなたを待っています。。。。。そう。。。あなたは、あなたの心地よいペースで、スタートしていくのです。。。。。あたたかいコーチの存在を感じながら。。。。。」
B「(穏やかな呼吸と表情)」
僕「そして日々の仕事で、コーチとして人々をケアし、サポートしていくあなた。。。。その経験が、自分自身をケアし、サポートしていく力となっていくのを感じてください。。。。。そうして。。。。あなたの身体と心は、自然と。。。。。さらに調和していくことを学んでいくでしょう。。。。。。そしてそこには。。。。。関わる人の笑顔と。。。。安らかに仕事を楽しんでいるあなたの姿がありますね。。。。。。。そう。。。。あなたは新しい方法で。。。。。。楽しく。。。。歩いたり。。。。走ったり。。。。しています。。。。。」
B「(幸せそうな表情)」

夜が明けると

 ずーっと走ることをメタファーにして、変化を語っていますね。無意識にはこのように関わることで、その世界観を変化させやすいのです

 そして「日常の仕事で人々にコーチングすることで、ますます自分へのケアの仕方や調和の仕方が学べますよ」

 ということを示唆してもいます。

僕「では、しっかりと酸素を吸って!身体に活力を取り戻します。そして指先を少し動かして。。そうです。では、目を開けて、一回気持ちよく伸びをしますしょう。声を出して!!あーーーーーー」
B「(伸びをしながら)あーーーーーーー」
僕「どうだった?」
B「すごく気持ちよかったし、なんだか深く癒された感じがします。。。。。眠る前に今のイメージをしてみたいです
僕「最高だね!!それをしたらどうなると思う?」
B「リラックスして深く眠れそうな気がします」
僕「そっか!!あとは、仕事と人間関係に関してコーチング受けて、そこに向かって進んでいれば、さらに良くなっていきそうじゃない?」
B「本当にそうですね!!そうします!!」

行動とアドバイス

 ここで着地ですね。このワーク単体でも無意識に働きかけをしているので、夜中の筋肉の緊張による歯ぎしりは緩和される可能性があります。クライアントが寝る前にイメージングをしてくれるなら、なおさらいいですね。

 さらに、日常を新しい状態で過ごし、望む未来を手にいれるためのコーチングを受けて日々の行動を変えればもっと素晴らしいことが起こるのです。

 翌日Bくんからは「今までにないくらいぐっすりと眠れたし、爽やかに起きられました」と報告をもらいました。

無意識との相互コミュニケーション

 この記事の最後にフォーカシングとイメージングについて考えてみましょう。

フォーカシングは、身体感覚に意識を向けることで無意識のメッセージを受け取る、いわば「教えてもらう」アプローチです。

 それに対して

イメージングは、無意識のもっていたイメージを新しいものに描き換えていくことで無意識の反応をかえていく、いわば「教えてあげる」アプローチなのです。

 無意識のもっていた「世界観」や「セルフイメージ」につながり、それを用いながら新しい絵を描き込んでいくのがイメージングなのです。それが定着すれば、無意識の世界に対する認識が変化しますから、無意識的な反応(今回は歯ぎしり)も変化していくのです。

 僕は数年間にわたるエリクソン催眠のトレーニングのおかげで、この「イメージの力」を使って、無意識の世界を描き変えていくやり方を学ぶことができました。現在はダイレクトに催眠療法をやることはほぼありませんが、無意識に働きかけるワークをする際にさまざまな形でそれを応用しています。

 イメージングはとてもパワフルなやり方ですので、そのやり方やポイントなどは、きちんと教える機会を作りますね。

 今回の記事ではその雰囲気を掴んでもらえたら嬉しいです。

終わり

僕たちと一緒に無意識に働きかけるコーチングを自分のものにしたい方は







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だいじゅ@コーチング脳のつくり方
お気持ちありがとうございます。資料入手や実験などに活用して、発信に還元したいと思います。