講師になろうともがいていた頃(中編)

 コーチングに出会って2年目(2006年)に見た先生の劇的なデモンストレーションに、自分も先生と同じ歳までにはあれができるようになりたいと決意した僕。先輩講師の口添えもあって、先生と一緒に仕事ができるチャンスを得たが、果たして今の自分は参加者にどんな価値提供ができるのかと自問する

あらすじ

 前編はこちらからどうぞ↓

 無意識から「平本さんに勝てるところを探せ」と言われた僕は、それを探し始めました。

どこなら勝てるのだろうか?

 コーチングのデモンストレーションでは当然相手にならない。心理学への造詣の深さでも比較にならない。平本さんはキャラクターやエネルギーも突出している。。。セミナー中に実施するワークを作るのもとてもうまい。

 全然勝てそうなところがない。

 参加者に近い存在である。と言う点では僕のほうが有利だろう。まぁ経験が浅いというだけだけれど。あとはサラリーマンとして組織の中でコーチングを経験しているのも役に立つ。

 あとは。。。。平本さんのコーチングセッションを参加者向けに解説するのは、もしかしたらできるかもしれない。当たり前だがビギナー視点は僕の方がもっている。

 あとは。。。

 勝負ができそうなところは。。。ストーリーテリングかな。平本さんも抜群に上手いけど、コーチングよりは迫れそうな気がする。
 あとは、わかりやすい解説やインストラクションかな。これも頑張ればなんとかなるかも知れない

 みたいなことを考えていました。生意気だけど、講師としてデビューするときから、大先輩であり業界の第一人者である平本さんに勝てそうなところを探していたわけです。

 とにかく「下位互換ではなく、何かは良いところを出していかないとやっていけないだろう」と思っていたわけですが、それは今となってもよい姿勢だったと思います。おかげで自分の強みを磨いていくことができたからです。

だいじゅ、ノリが悪いですね

 一緒にやるクラスの最初の打ち合わせ。表参道の事務所に行きました。平本さんとヒロさんがいます。平日だったので、会社員だった僕は午後休をとって参加しました。

 近況のシェアが終わったら、いきなり平本さんが「では、やりましょうか?」と言いました。そしてヒロさんと、リビングから廊下に出て、玄関付近まで移動したのです。

 突然のことで何がなんだかまるでわかりませんでした。僕としては、当日の分担を決めたり、次回打ち合わせまでにやってくることを決めたりするものだと思っていたのです。でも、突然立ち上がって、廊下に出ていく二人。。。平本さんがいいました

 「じゃあ、タイムラインを歩きましょう。クラスの1ヶ月前の日からスタートします。参加者ポジションからスタートして適宜講師ポジションにも入ります」

 つまりは、セミナーの1ヶ月後から始めて、セミナー当日、終了後までのタイムラインを歩きながらシミュレーションするというのです。しかも参加者役をやったり、講師役をやったりしながらです。

 一応当日のタイムテーブルは持っていましたし、スタッフとして参加したことは何度もあります。でも、講師役をやるなんて、準備を何もしてこなかったので、まるでできる気がしませんでした。すでに不安でいっぱいです。

 とはいえ仕方がありません。なんとなく一緒にやりました。

 平本さんとヒロさんは、さまざまな参加者の役に入ったり、講師役をやったりしながら、セミナーのシミュレーションをどんどんと進んでいきます。とても楽しそうだし、フロー状態というか、クリエィティブというか、よくこんなアイディアがポンポンでてくるものだなと関心しました。

 何十分かかけてようやくタイムラインのシミュレーションが終わりました。そのとき言われたのが

 「だいじゅ、ノリが悪いですね」という言葉だったのです。

 たしかに探り探り参加していたので、平本さんやヒロさんのノリについていけなかったのは事実ですが、凹みましたね。

 当時付き合っていた彼女に「打ち合わせどうだったの?」ときかれて「やっていけるか不安になった」と答えて、励まされたのを覚えています。

 でも、この時平本さんからもらった宿題が良かったのです。その宿題は

 毎日30分でいいからセミナーのタイムラインを歩きなさい

 というものでした。

 セミナー前、セミナー開始時の挨拶、最初の解説、ワーク、振り返り、次のワーク、振り返り、解説。。。。。。。そして最後の締めの一言。。。そしてセミナー後。

 セミナーが始まる前からスタートして、全てのワークや解説を順に行いながら、参加者にポジションチェンジして、参加者側の体験もしてみるのです。

 最初はいくら解説をザッとやっても到底30分なんかでは終わりませんでした。でも毎日寝る前に1回ずつタイムラインを歩きました。

 「当日までは3ヶ月弱あるから、毎日歩いてください。100回歩いたら100回セミナーやったことある講師としてみんなの前に立つことができます」

 と言われていたからです。

センターに立ってください

 引き続き、クラスにはアシスタントとして参加もしていました。アシスタントとして参加すると、講師視点でクラスを見ることができます。打ち合わせにも出ることができるし、振り返りも講師と一緒にやります。講師がどうクラスを見て、どんな意図で前に立っているのかを知ることができるのは、とても貴重な機会でした。

 でも僕が講師をやると決まったら、先生たちの関わりはさらに変化していきました。「この後だいじゅだったらどんな話をしたい?」とか常に実戦に向けて考えさせられるような質問をしてくれたのです。おかげで、より講師としての意識でクラスにいることができました。

 そして、みんながワークをしているときには、平本さんから前に呼び出されました。

 「これから皆がワークをしているときは、センターに立ってみんなの様子をみていてください」

 と言われたのです。普段講師が立っている場所で、みんなが実習をしているのを見ているわけです。

 「ここがだいじゅの場所ですから、とにかくそこに立っていることになれましょう」

 と言う言葉には、本当にありがたいなと思いました。

 慣れって大切ですよね。別に何を話すわけでもなく、ただ立っているだけでも、そこにいることに身体は慣れていくわけです。だから別に普通に立っていられるようになる。

 この時間をもらったおかげで、不思議とデビュー当日も緊張することがありませんでした。

それだけは話さないでください

 講師デビューの前日になりました。会場はお台場の会議室だったのですが、万が一遅刻などないように前泊をして打ち合わせをしようと言われました。

 そして夕方。カフェで待ち合わせました。平本さんはニコニコしています。

 「明日のオープニングはどんな話をしようと思っていますか?」

 ときかれました。

 僕が最初に話そうと準備していたことについて伝えると

 「いい話ですね。でも、明日はそれ以外の話をしてもらっていいですか?」

 と言われたのです。理由がわからず、どうしてかときいてみると、「ちゃんと準備をしてきたものは、エネルギーが乗らないから」というのです。そして

 「明日の朝、参加者みんなの顔をみて、その場で話したくなったことを話してください。どれだけ時間がかかっても構いません」

 と言われました。あらためて平本さんはすごい人だなと思う一方、また不安が高まりました。

 いくらタイムラインを100本歩いてきているとはいえ、そんなことができるんだろうか。。。

 緊張のためか夜もなかなか眠りにつくことはできませんでした。参加者の人に何が提供できるんだろう。タイムラインをひたすら歩いていたので、説明やインストラクションには不安がありませんでしたが、どんな役に立てるかはそれほど自信がなかったのです。

 ベットに入りましたが、寝ているのか起きているのか判然としないような状態で朝を迎えることになりました。

 そして、当日朝にも打ち合わせがありました。平本さんから

 「今日のオープニングでは何を話しますか?」

 と質問されて

 「みんなの顔を見てから決めます」

 と答えたら、満面の笑顔で「いいですね!」と言われました。そして

 「今日は大樹がセンターに立ってください。私は少しズレた位置に立ちます。そうでないと、わたしのエネルギーにだいじゅが負けてしまうと思うので」

 と続きます。さらに

 「10時になったら、だいじゅから話します。けれどもセンターから参加者一人一人の顔を見て、だいじゅの中から何か話したいことが出てくるまで、待ってください。昨日も言った通りどれだけ時間がかかっても構いませんから」

 と言われたので、いよいよまな板の上の鯉のつもりで、その場の流れに乗るしかないと腹を括りました。

 10時。皆の前に僕が立っています。不思議と緊張感はありません。皆の表情も好意的に見えます。一人一人と目を合わせながら、内側から直感が湧いてくるのを待ちました。すると

 「みなさん。おはようございます!!」

 と突然、平本さんが挨拶をしたのです。そして、その流れから滔々と話し始めたのです(笑)

 ずっこけそうになりました。でも「平本さんの中で何か違うな、と感じたんだろう」と冷静に話をききながら、その流れに乗っていく自分がいました。

 本当に初めてとは思えないセミナーでした。終了後にきいたら参加者からの評価もとても高くてホッとしました。こうして僕はセミナー講師としてのデビューをしたのでした。

 まだまだストーリーを語るのも下手くそでしたし、コーチングも皆の前で見せられるようなものではありませんでしたが、ベテランの先生たちと参加者を繋ぐ通訳的な役割や、身近な事例の提供という意味では、みんなの役にたつことができたのです。

 でも、このときのことを思うと不思議な気持ちがします。後継者候補が100人もいたのに、どうして僕だったんだろう。何を見て選んでくれたんだろう。  

 そして僕は、自信なんて何もなかったはずなのに、どうして一切の迷いなく、講師をやると決め、当日まで突き進んでこれたのだろう。

 「こんなにスムーズに行くってことは、やっぱりこれは天職なのかな?」

 なんて思ったりもしましたが、とんでもないことにもたくさん遭遇しました。その話は後編で

僕たちと人生を変えるコーチングカウンセリングを身に付けたい人は

 




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