『パターは打楽器』 メンタルコーチが考えていること(後編)
前編からの続き
「スイングの気持ちよさに点数なんてつけて何の意味があるんだろう」
って思う方もいると思います。そうですよね。意味があるかどうかは、
「何のためにそれをするのか」
「それをどのように活用するのか」
という点が大切なんです。だから点数づけして、良いことがある時もあれば、そうでもない時もあるのです。
僕はTさんが「ハマりパターンから脱出するために簡単に出来そうなこと」を提案してみたのです
考える・分析することで身体をコントロールしようとする→身体をうまく使えなくなる
というTさんの悪循環パターンを壊したかったわけです。
そして、僕は信じています
ある程度ゴルフの経験があれば、気持ちよく良いショットが自然と出来るだけの能力もあるし、乗ってる時はそれなりのスコアが出るはずなのです。だから、ラウンド中のことは身体に任せて、意識は「身体を乗せてあげること」に徹すれば良いと思うのです。
だって、例えば「身体」が試合に参加してる選手だとして、その横に「意識(頭)」というコーチがいて、ずっと分析したりダメ出しをしているわけです。そんな状況で「身体選手」はパフォーマンス発揮できますかね??難しいでしょう
ましてや、頭コーチの言ってることの中には「的外れのこと」も含まれてると思うんです。スイング理論としておかしなこともあるだろうし、コーチング理論(選手のパフォーマンスアップを支える理論)として変なこともある。選手は混乱しますよね。それなら、頭コーチにはラウンド中は休んでてもらった方が良いのです。
とは言え、休むのは難しいだろうから、何か無害な別の業務があればそれをやっていてもらいたい。もちろん有益な業務があるんなら、それをしてもらいたいですが、見つからなければ、無害な何かでも良いわけです。
とは言えTさんの頭は分析がしたいのです。だから「採点だけ」してもらうようにして、それ以上余計なことが出来ないようにテンポよく素振りをしてもらうようにしました。
気持ちよさに注目して素振りをしていれば、気持ちよさが拡大していきます。逆に気持ち悪さに着目してスイングしていると、気持ち悪さが拡大するかも知れない。
メンタルの世界では注目しているものが増えてくる傾向があるんです。
そして、ゴルフにおいて気持ちよさは大切な要素だと思います。
ゴルフクラブを「気持ちよく」振ることが出来ているということは、ゴルフクラブがうまく使えているということです。
グリップの性質を無視した握り方をしていたり、クラブの重心を無視した振り方をしていたら、気持ちよく感じにくいでしょうから。
「ゴルフクラブに仕事をさせる」などと言う表現がありますが、ゴルフクラブは自然に振ったらその性能を発揮するようにデザインされているはずです。
だから、ゴルフクラブが動きたいように動かしてあげるのが大切で、Tさんが気持ちよく振れているなら、ゴルフクラブもうまく機能しているのではないかと仮説しているわけです。
偉そうなことを言っていますが、僕自身はゴルフは下手くそですし、スイング理論もコースマネジメント理論も良く分かっていません。だからこれらはメンタルコーチング的な仮説にすぎません。
余談ですが、僕とラウンドした人に驚かれるのが、持っているクラブの数です。ゴルフではクラブは14本まで使って良いのですが、僕は基本的に4本しか使いません。(7番ウッド、8番アイアン、ウェッジ50度、パター)
うまく使えるものだけ残したらこうなったに過ぎないので、他のクラブも使えるように練習するのが王道なのはその通りです。ただ、僕は練習熱心でないので、そんな人間が本番でパフォーマンスを発揮しつつ、少しは成長もしようと考えてクラブを極端に減らしてみたのです。その結果
クラブ本数が少ないと悩む必要がありません。同じクラブばっかり振るので、経験値は蓄積されます。うまくいく確率も上がります。同じ番手で距離を打ち分ける必要があるので、工夫をする余地が生まれ、クラブの色々な使い方を経験できます。
ということで、楽しくゴルフをしています。
話を戻しましょう
自分のパフォーマンスがあがる
Tさんとちょこちょこ話しながらのラウンドを始めて、すぐに気づいたことがあります。
「あれ?オレ、ナイスショット連発してる!!」
明らかに自分のショット、アプローチ、パッティングと精度が上がってるのです。
これにはTさんも驚いていました。
「だいじゅさんもセルフコーチング始めたんですか?」
なんて言われましたが、下手くそゴルファーとしては自分のプレーと、Tさんの相談に乗ることで手一杯で、そんなことする余裕はありません。でも、どうして自分のパフォーマンスが激変したかの仮説はあります。それは
「共感的理解」です。
僕はコーチングを始めると、共感的理解モードに入ります。簡単に言うとTシャツさんの身体に憑依するようなモードに入るのです(おっかねー
Tさんの身体感覚の中に入り込み、今何が起こっているか、良いパフォーマンスの時には身体のどこで何が起こっているか。Tさん自身も理解できていないことをさまざまな手がかりを駆使して、理解していこうとする関わり方。それを共感的理解モードというのです。
だから僕はずっとTさんの言ってること、やっていることを観察しながら、自分の身体を使って、Tさんの「身体がパフォーマンスを出すためのポイントを探るシミュレーション」を続けているのです。
良いゴルフが出来る身体の状態とはどんなものかを、自分の身体を使いながらシミュレーションしているわけですから、自然と僕の身体もゴルフをやるためのモードに入っていくわけです。
面白いですね。今後も自分のパフォーマンスアップの「ために」同行者にコーチングしたいようなものですが、余計なお世話なこともあるだろうし、ルール上はゴルフ競技中に同行者にアドバイスすることは禁じられているようなので、やめておきます(笑
結果を手放す
一方、Tさんは気持ちよく飛ばしています。左右にバラけることもありますが、高さと勢いのある素晴らしいショットが続いているのです。考えながらプレーしていたときとは大きな変化です
僕は
「ナイスショット!最高の球ですね!!方向は後で何とでもなりますから、もう少しこの感じでいきましょう!」と声をかけます
繰り返しになりますが、僕はスイングに関する理論も知りませんし、分析もできませんから、その点では本当に「方向は後で何とかなるのか」は分からないです
でも、これはメンタルコーチの方便なのです。いずれにしても、気持ちよくショットできる状態をつくり、ボールが気持ちよく飛んでいくことが連発する状態をすくること。
そのベースができたときに、方向性などの次の課題に向き合えばいいわけです。最初から完璧を作ろうとするから難しくなるのです。一つ一つクリアしていけばいい。
そして、思うのです。きっとそれはそんなに難しい問題ではない、と。難しいと思うことが難しくするので、簡単なことだと思っていた方がいいのです。
Tさんは、素振りの気持ちよさをスコアリングするだけで、ナイスショットを連発しているのですから、方向性の問題などは、例えばボールが右に出た時に
「いいですね!次の球はもっと右に気持ちよく打ってみてください」
「なるほど、次は気持ちよく左に打ってもらえますか?」
などとやっていけば、打ち分けのコツも身体が勝手に学んでくれるのです。
だから、まずは今できていること(気持ちよくスイングする)が定着するようにするだけで良いのです。
それでもTさんは「今のはトップ気味(ボールの上部に当てた)だったな」 とか言っています。
僕は「大丈夫ですよ。Tさんの身体はボールをクリーンに捉えることも知っているはずですから、気持ちよく素振りしていれば、そんな打ち方につながっていきます」
などと無責任な反応をします。でもメンタルコーチの理屈としてはそれでいいのです。
アドラー心理学で言うと勇気づけですね。身体選手に活躍して欲しかった、身体選手に勇気づけするのです。あれもこれも要求されたり、ダメ出しばかりされたりすると、誰でも勇気がくじかれるのです。
相手を信じて、できるはずだからやってみよう!できてる!すごい!と関わるのです。
失敗しても、それは単に学習のチャンスですから、責めたり、落ち込んだりするのは無駄なのです。
なるほど!もう一回やってみよう!今度はどうだった!さっきと何が違う?じゃあ、もう一回やってみようか!
でいいのです。それが勇気づけのコミュニケーションです。
パターは打楽器
こんな感じで関わったら、Tさんは後半戦ナイスショット連発になりました。方向性もバッチリです。
ただアプローチ(グリーンに向かって打つ短いショット)が安定していません。他のクラブとはスイングの仕方が違うので、感じが掴めないのかもしれません。
僕はTさんに質問しました。
Tさんは、声を出しながら素振りをしています。気持ちよさそうです。
変な話ですけど、声出したほうが気持ちよくなりやすいんです。また「スッ」とか「ヒュッん」とか音をつけてた方が、その状態に入り込み易いんですよね。声でよい感覚につながる。声でよい感覚を強化する。こうやって、いい状態に入りやすくしていったりするわけです。
いろんなやり方があるんですが、Tさんには、このやりかたがヒットしたようで、ナイスショットやナイスアプローチ連発でラウンドが終わりました。
素晴らしい1日が終わり、お風呂でTさんと話をしました。その中でTさんから
「パッティングってどうしたらいいんですかね」
ときかれたのです。知りません。僕はパターをうまく打つ方法なんて知りません。
でも良い機会なので『フィードバック』について説明しようと思いました。
申し訳ないけど知りません。でもね、考え方としてはこうなんです。
パターの芯に当たったボールは、まっすぐ転がります。フェースのねじれが最小になるから(多分)です。クラブのエネルギーがしっかり伝わるので、たまはしっかりと進んでいくはずです。
「まっすぐ転がる球」「しっかり転がる球」。そんな球を安定して打てるようになることがまずはベースなのではないでしょうか。だから芯で打つことにフォーカスをするのが良いのだと思います。芯で打てているということは、クラブをうまく使えているということです。クラブの性能が引き出せるような打ち方ができているということです。ゴルフはクラブを使って行う競技ですから、道具は上手に使えた方がいいですね。
そしてゴルフクラブには「フィードバック機能」がついているんです。クラブが正しく使えているかをクラブ自体が教えてくれるという機能です。
すごくないですか?カラオケの採点のように、スイングの採点をクラブが正しくしてくれる。だからそれに従って練習すれば上達するのです。
それが「芯に当たったときの打感とか音の違い」なのです(多分)。いい音が出ているなら、クラブが正しく使われているし、ボールは「まっすぐ」「しっかり」転がるのです。もしこの仮説が正しいなら、
練習法は「いい音を求めて、ひたすら打つ」
で良いのです(乱暴)
初めは打ちやすい(降りやすい)距離を打つつもりで、ひたすらいい音を出す練習をする。それが高精度でできるようになったら、長い距離をいい音で打とうとしてみる。短い距離をいい音で打とうとしてみる。
カップに入ったかどうかは関係ありません。そこに執着するのではなく、あくまでも音に意識を向ける。
カップに入るかどうかは、さまざまな要因が絡んできます。パッティングの技術もありますし、心理的要因、物理的な環境要因(傾斜、芝目、グリーンの速さ、風、整備状態など)も大きいです。要は分析してコントロールするのが難しい要素がいっぱいあるのです。
その中で、入った/入らなかったで一喜一憂してメンタルに影響を与えても仕方ないので、まずは「いい音を鳴らせること」にこだわり、高確率でいい音が鳴らせる要になってから次の課題に取り組めばよいと思うのです。
せっかくパターが「いい感じで打ててるよ!」っていうのを音の違いでおしえてくれる機能をもっているのですから、音をよく聞き分けて、5段階とか10段階でフィードバックをもらえるようになったらいいのです。あとは身体選手に任せて実験してもらっておけば、あっという間にいい感じで打てるように仕上げてくれるのではないかな。
そして、Tさんがもしパターでこの練習をして、フェースの芯に当てる感覚を掴んだら、アイアンなど他のクラブにもその学習が広がっていく可能性もあるな。。。そのためには。。。。などとメンタルコーチは考えているのです。
僕は最後に本当のおせっかいをしました。
僕「だからね。Tさん。いいボールを使った方がいいよ。ボールも打楽器なんだから」
Tさんは照れ笑いしていました。ラウンド中にTさんは「OBを恐れて、あまりいいボール(高いボール)を使えないんですよね」と言っていたのです。
もちろん、いいボールだから無くすまいとリキんでしまうこともあると思います。でもね、無くすことを恐れているうちは「否定形の思考=◯◯してはいけない」の中にいるわけです。
いいボールを使って、気持ちよく打ちたいところに打つ。それができるのが自分だと思って欲しい。そう思った方がメンタルとパフォーマンスの好循環も起きますし、プレイヤーとしてももっと先まで行けるのではないか。そんなおせっかいでした。
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