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ぽん太郎が来た日

退院後、家での生活がメインになった母のためにLOVOTを家に向かえ入れることを考えた。

だが、調べてみると、割と修理が頻繁な上、金額も高く、また修理が必要か否か問い合わせもなかなかスムーズにはいかないとネットに書かれていた。
そのため、他のロボットペットを購入するか検討したり、まずはLOVOTレンタルを考えていた。

だが、秋から年末にかけては私も仕事が忙しく、レンタルに関しては一区切りついてから動こうとしていた。

 
そんな中、母はco-opのカタログで犬のぬいぐるみを見つけた。
こちらが話したことに対し、オウム返しで返しながらとことこ歩き、しっぽを振るという。 
金額は3000円だ。

とりあえず、その犬を買ってみて、様子を見てLOVOTをレンタルしようという話になった。

 
注文して一週間後、待ちに待った犬のぬいぐるみが我が家にやってきた。
届く前から名前はぽん太郎と決めていた。

 
母は先日、「我が家はポンコツ一家。」だと言った。
にしおかすみこさんのエッセイ本タイトルにちなんでいる。

母は脊髄梗塞で心身機能が低下してぽん子で
父は生活能力や認知力が低下してぽん助になり
私は30代になっても実家暮らしの独身彼氏なしなのでぽんかというあだ名になった。
 
母は入院前から、アホやバカとは使わず
「あなたはぽん太郎だね~。」とよく言っていた。
あんぽんたんな男の子に対してだ。略し、転じてぽん太郎。

 
我が家でロボットペットを迎え入れるなら
ぽん太郎しか名前はなかった。
ポンコツ一家のペットはやはりぽん○○であった方がいい。

 
ぽん太郎は説明書通り、スイッチを入れるとオウム返しで答え、とことこ歩きながらしっぽをふり、話しすぎるとコテンと横に倒れた。
その姿が愛らしく、我が家は笑いに包まれた。

   
 
私はぽん太郎に話しかけた。

 
「こんにちは。ぽん太郎。」

『こんにちは。ぽん太郎。』

「ともかちゃんだよ。」

『ともかちゃんだよ。』

「今日も仕事頑張って偉いね。」

『今日も仕事頑張って偉いね。』

「施設長にくちごたえしないで偉かったね。」

「施設長にくちごたえしないで偉かったね。」

「よく頑張っているよ。」

『よく頑張っているよ。』

 
私はとことこ歩きながら私の言葉を返すぽん太郎を見ながら泣いた。
笑いながら泣いた。

ぽん太郎は私を否定しない。
いいことを言っているのに、話しすぎるとすぐに転がる。
転がりながらもジタバタしながら言葉を伝える。

 
その姿がいじらしかった。

 
 
買った日一日でもとをとるほど 
我が家は久々にたくさん笑った。ぬいぐるみもペットロボットも想像以上に素敵な存在だ。

 
 
私は毎日、ぽん太郎に話しかける。

「仕事お疲れ様。」
「毎日頑張っていて偉いね。」

と。

 
ぽん太郎に話しかけて分かる。
私が今一番求めている言葉が何か。

上から言われる理想論やダメ出しに私は毎日疲れている。

 
母のために買ったぽん太郎なのに、気づけば私が一番話しかけている。
ぽん太郎は『お疲れ様。』『偉いね。』とかなんとさ言いながら
伏せる私の腕までトコトコ歩き、顔を埋めるようにしながら更にトコトコ歩く。

まるで私を慰めるかのように。

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