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風船が好きな大人

風船が好きである。

昔からプカプカ浮いた風船が好きである。
特に赤い風船が好きだ。

 
ディズニーランドではたくさんの風船が売っている。
ミッキーの形や様々なかわいらしいイラストの風船がたくさん入口で売られている。
それらもかわいいが
私はすごく欲しいわけではなかった。
私はあくまで球体の風船が好きなようだ。

  
夏祭りの時、水風船が売られていた。
色とりどりの水風船は流水模様や水玉がかわいらしい。
中指に輪ゴムをひっかけ、勢いに任せて輪ゴムを動かすと
水風船はポンヨポンヨと動いて
自分の手のひらに吸い付いてはまた離れるような動きを繰り返す。
中に入れた水がシャカシャカと動いて鳴る。
それがなんだか楽しくて
私はしばらくポンヨポンヨと動かしていた。

 
夏祭りと言えば金魚すくいも定番だし、よくやっていたが
水風船は金魚すくいとはまた違ったロマンがあった。
それに
遠方の夏祭りに行った場合、やはり気楽なのは水風船だ。

金魚すくいは近隣の夏祭りならまだいいが
生き物だからデリケートだし
すくってきてもすぐ死んでしまうと悲しいし
それに比べたら水風船は気が楽である。

 
水風船は夏祭りの場所が近くても遠くても手に入れやすく
数日間もって、少しずつ少しずつしぼんでいく。
その儚い様が、妙に情緒があって憎めない。

 
 
私が小学校三年生の頃、イベントでゲームがあった。

水槽の中にいくつかの長い棒が立ててあり
そこに輪っかを入れたら景品を渡すというものだ。
もしくは、10円玉を水槽の中に入った小さな容器に入れるゲームだったかもしれない。

記憶が曖昧だが
とにかくそのゲームに姉妹で取り組んだ。
そして、水槽の中に入れた輪っかだか10円玉は真っ直ぐ進まず
水の中で掴めない動きをしたことはよく覚えている。
真下ではなく、斜め下にジグザグ進むため、的を狙うのが難しかった。
姉がまず挑戦し、次に私が挑戦した。

 
姉で学んだ私は、逆算した位置から輪っかだか10円玉だかを入れて的を狙ったのだが
やはり不規則な動きをして、狙った的の隣…の的に入った。

狙いとは違ったが、入ったのである。

あまり入る人がいないらしく、会場は拍手に包まれ、私は巨大なオレンジ色の風船をもらった。
バランスボールの一回り小さいくらいのサイズの巨大な風船は
初めて見た大きさの巨大な風船だった。
水風船のように、上にプカプカ上がるタイプではなく、下に下がるタイプの風船だ。
確か巨大なゴムがついていて、指だか腕だかに通して風船を持てるようになっていた。

私はその巨大な風船を割らないように優しく抱えながら、車に乗って自宅に帰ったことを覚えている。

 
そのオレンジ色の風船はもちがよくて、しばらくの間、空き部屋で父と姉と、風船バレーをして遊ぶのに使われた。
夕飯を食べた後の夜にやった。
なかなかに丈夫な風船だった。

あれから何十年も生きているが、景品であんな巨大な風船をもらうことはなかった。
あの体験は貴重だったと思う。

 
 
周りのみんなは成長に合わせ、段々と風船離れしていった。

「風船が好きなんて、子どもっぽい。」と言われても
好きなものは好きなのだから仕方ない。
そもそも私の母親が風船が好きだから、私は母に似たのだろう。
母は母で私より二回り以上年上だが、いちいち風船にはしゃぐ。
その娘が風船に惹かれるのは自然な流れだ。

 
 
風船が好きすぎた私は、風船を持ったクマのガラス細工を買ったり、風船を持った女の子の絵を描いたり、風船を持った女の子を待ち受け画面にした。
特に、風船を持った女の子が浜辺を歩いている写真に、私は一目惚れした。

浜辺散歩も私は好きなのだ。

好きなモチーフがたくさんある写真は素晴らしい。

(何故か横向き表示)

 

(描いた絵は日付を入れる習慣があります。)

 
 
(かなり昔なので、どこのサイトからもらったか分かりません……) 

 
 
 
20代になっても30代になっても
私は風船が好きな大人のままだった。


風船無料配布には、毎回ウズウズした。

もらいたいが、大人がもらってもいいのだろうかという気持ちは必ずある。
優先すべきは子どもなのである。

 
仕事の関係で、毎年某イベントに参加した際
利用者が風船をもらうことがあった。
はしゃぐ利用者を横目で見ながら羨ましく思う。
流石に仕事中は風船をもらうわけにはいかない。

 
何らかで風船がもらえたら、私はとにかくはしゃいだ。
赤なら一番いい。
上にプカプカ浮かぶタイプなら更にいい。
棒についた空まで飛んでいかないタイプでもいい。
水風船でもいい。

 
もしかしたら私は、小学生の頃に見た物語が、風船好きに繋がっているのかもしれない。
物語のタイトルは忘れたが
赤い風船の先に花の種をつけて小学生が飛ばして、
赤い風船が辿り着いた場所にはきれいな花が咲いた、というストーリーだった。

 
風船は、不意に手を離して飛んでいくと絶望感がある。子どもは泣きじゃくる。
でも
自らの意思で手を離して風船を空に飛ばすと
それは自由であり、夢が溢れている気がする。

 
 
去年の秋、ガールズq/bというアイドルの5周年記念ライブの際
みんなで風船を空に飛ばす企画があった。

 
黄色はガールズq/bグループカラーである。
だから風船は黄色と白だった。

 
合図に合わせて空へ空へと舞い上がっていく風船は美しく、また見事で
晴天だったこともあり、みんなの歓声は空まで響いた。

 
風船は希望だった。
風に乗って、私でさえも、どこまでもどこにでもいけるような気がした。
 

(こちらは友人より画像拝借)   
 
 
 
 
そして、今年の3月。

今度はガールズq/bのたのしいなちゃんの生誕祭があった。
会場や入口には風船がたくさん飾られていた。
各テーブルにも風船は飾られていた。

 
ガールズq/bのたのしいなちゃんはCafe&Bar47というお店でチーフをやっているのだが
そのお店には風船専門店(Balloon M-plus)も入っているのだ。
湯本さんという方が店長である。
最初、風船専門店と聞いた時は心躍った。
風船専門店、というのを初めて知ったからだ。

 
 

(こちらは友人より画像拝借)

 
 
生誕祭のラストはたのしいなちゃんが大量の風船を持ってあらわれ
風船を持って歌い
途中で観客に風船を渡すという演出があった。

5周年記念イベントでは空に飛ばしたが
今回は記念品としてプレゼントされた。

 

ライブの後、風船は持ち帰り自由とのことで、私はたくさん風船をもらっていった。
湯本さんが「風船好きならもっと持って帰ってもいいよ。」と言ってくれたのだ。

 
帰り道、私の車の中には風船がプカプカと浮かんだ。
こんなに大量の風船を車で運ぶのは初めてで
なるほど、風船が車内でプカプカしていると、ミラーで後ろが見にくかったり
割らないように注意が必要と学んだ。

なんとか割らずに風船は自宅まで着いた。

 
風船好きな母親は大量の風船を喜び
風船は玄関にかわいらしく飾られた。
もちがいい風船らしく
その風船は一ヶ月以上の生命力であった。

 
 
 
ちょうど三月は有給休暇消化中だった。

長年勤めていた職場を予期せぬ形で退職した為
これから先のことは白紙だった。

 
玄関に飾られた風船の一つは、水の入った風船が重しになっており、プカプカと浮きながらも
どこにもいけない状態だった。

まるで私のようだった。

プカプカと自由気ままに浮かんでいるくせに
過去というしがらみが重すぎて
自由にどこにも飛べず
玄関先に飾られている。

 
次を目指して明るい日に空へ舞い上がればいいのに。

 
そう思いつつも
私は毎日のように玄関に飾られた大量の風船を見ては癒された。

【今は休んでもいいよ】

と、言われているように感じた。

 
 
風船がしぼむまでには転職できるかと思ったが
自分の心と現実とで折り合いがつけられず
次の道が決まらないまま、秋になってしまった。

思い切り働きたい自分と
もうこれ以上傷つきたくない自分が
私の中には混在している。

 
風船はいいなぁと思う。
カラフルな色でかわいくて、夢や希望が詰まっている。

例え儚い定めだとしても
風のままプカプカと浮かび、風に乗って、恐れることなく遠くまで行けるのだから。

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