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60代の母がポータブルトイレを買った日
年末年始9連休明けの仕事はじめの日。
母はいつも週に二回デイリハ、一回訪問リハを利用しているが
年末年始はリハビリが休みだった関係で
今週は週に三回デイリハ、一回訪問リハとなる。
休み中、大掃除や料理や庭の散歩はしていても、運動量は下がっている。
更に、気温も下がる。
麻痺足がある人は気温差に弱い。
9連休明けにそのリハのスケジュールは過酷なのではないかと両親に言うが、聞く耳をもたない。
リハを休んだら休んだで体もなまるだろうし、私もそれ以上強くは言わなかった。
仕事はじめの日、新年の挨拶を職場の方にした後、年末の大掃除の用具を片づけることから仕事が始まる。
9連休でも休みに飽きることは全くなく、久々の仕事が億劫だが
行けば行ったで、交流が楽しかった。
年末年始に何をしていたか利用者や同僚と話したり、みんなの前で発表した。
人生初の一人旅をした経験が私は嬉しかったし
広島土産をみんなに配ったり、土産話をしたのも楽しかった。
ただ、その日は寒かった。
午前中も午後も野外で仕事だったし、室内は室内で寒かった。
予報では最高気温8度で晴れのち雨だったが、実際は曇りのち雨で最高気温は5度にとどまった。
予報より雨の降り出しも早く、雪に変わりそうなくらい寒かった。
お母さん、体調不良だろうなぁと仕事中何回も思った。
上は相変わらず腹が立つ言動を繰り返すし、今日誤ってハサミで指を切ってしまうし、プリントは派手に落としてしまうしで
相変わらず仕事は思い通りにはいかず、ストレスがたまる。
残業はどうせサービス残業だし、一刻も早く帰りたかった。
帰り道、雨足はどんどん強くなっていった。
帰宅すると、家は真っ暗だった。
「まだ夕飯の支度してないよ。」 ※母親退院後、夕飯は母親がまえもって作るが、温めたり、配膳は父の役割。
父親が慌てる。
内心イラッとくる。
仕事を休職中で家にいるし、私の帰宅時間もいつもと変わらない。何をしていたのだろうか。
母親は案の定体調が悪かった。
気温差にやられただとか、久々のリハビリだからとか、色々言うが、全て言い訳に聞こえた。
だから言ったのに。
気温差にやられるだろうし、休み明けだし、今週リハビリつめこみすぎだ、と。
母親と会話している間に、父親は私のお弁当用の冷凍クリームコロッケ(小さいもの)を全てレンチンしていた。
私は内心ピキッとした。
お弁当の隙間につめる用にとっておいたものだ。
全て夕飯用に温めるとは何事だ。
「だっておかずがないんだよ。」
私は更にピキッとした。
レンチンでできるサバの味噌煮、パスタ、炒飯、ピザパン、グラタン等各種あったし
野菜室にも野菜はあり
冷凍野菜や冷凍きのこ、冷凍肉もたくさんあった。
冷蔵うどんも冷凍うどんもある。
レトルトカレーやスープもある。
惣菜サラダも、レンチンハンバーグ等もある。
わざわざ!
お弁当用のミニコロッケを全部あたためる必要など一つもなかった。
「…私が夕飯の支度するから。」
私は座る間もなく、夕飯の準備に取りかかった。
母親の話だと、鮭を焼こうと解凍済みだという。
メインのおかず、焼き鮭あるじゃん…
ハァ、とため息を吐く。
父親は鮭が解凍済みとは知らなかったという。
鮭を焼いていると、「キャベツを切ったから使ってほしい。」と母の寝室から聞こえた。
どうやら味噌ラーメンを作る予定だったらしい。
焼き鮭と味噌ラーメンあれば、ミニコロッケ解凍することなかったじゃん…
と、内心怒りながらも
私はキャベツを卵スープにぶち込んだ。
母親は食事時、汁物がないと不満な人で、かつインスタントものを嫌う。
父親は汁物が作れない。
味噌ラーメンでは、明日の朝に繰り越しができない。
明日もデイリハだし、朝は早いし、気温差にやられる可能性がある。
今日多めにスープを作り、明日の朝母親が食べられるようにしたのだ。
母親はデイリハの日は疲れから、夕飯作りができない場合が多い。
通常でさえそうなのだ。
何故今日、お弁当を父親は買ってこなかったのだ。
体調不良は目に見えていた。
父はおにぎりとサンドイッチだけ買ってきた。
母に頼まれたからだ。
父親はケチで、頼まれたものしか買わない。
頼まれたものも、高いと買わない。
頼まれたものも、認知力低下から別のものと勘違いして買ってくる。
つまりは融通がきかない。
母親は朝から体調不良だったらしいし、デイリハ後はグッタリしていた。
デイリハから帰ってくるのは14:30。
……………もっとどうにかできたんじゃないのか?
せめて前もって私に夕飯用意をLINEで頼むとか、父親が夕飯用意できないならおかずも買うとか。
母親は母親で体調不良なら、鮭解凍したり、キャベツカットしなくてよかったんじゃないか?せめてやるなら、父にそれを伝達してもよかったのではないか?
内心苛々が止まらなかった。
そんな中、父親が、母用にポータブルトイレを買った、と言ってきた。
レンタルでも買いたいでもなく、“買った”
私はこれにはさすがに口出しした。
私「ケアマネさんやデイリハの人に相談は?」
父「してない。お母さんがほしいから。」
私「レンタルは?オムツは?今までだって尿取りパッド使っていたし、まずそれから試せばいいじゃん。」
父「レンタルはできないし、お母さんがオムツはしたくないって。」
私「ポータブルトイレの置き場所ないじゃん。今だって部屋も家も物だらけなんだよ?ポータブルトイレ、大きいんだよ?」
父「お母さんがほしいって言うんだから仕方ない。」
私「それなら物捨てなよ。使ってない物、お母さんが捨てないでって言うから山のようにあるんだよ?」
母「分かってるよ。」
私「トイレはいつ届くの?」
父「今週。」
私「じゃあ早めに物捨ててね。もう寄せる場所ないからね。」
そう、ないのだ。
歩行器(室内、室外)置き場所、歩行器の動線、補装具(足全体)置き場所 、入浴マットや入浴チェア置き場所、足浴用バケツ置き場所等母親が退院してから空間確保が必須になった。
物を捨てないで避けるだけではもう限界がある。
母親曰く、最近急激に寒くなり、トイレが間に合わない場合があるらしい。
脊髄梗塞による排泄障害だ。
母親の部屋からトイレは数メートルだが、素早く動けないため、間に合わない場合もある。
だから常日頃尿漏れ対策にパッドはしていたし
長時間外出時はオムツもしていた。
ポータブルトイレに反対なんじゃない。
荷物整理をしない点に怒っているだけだ。
母「ともかには分からないよ。急激にトイレ行きたくなるのは。」
私「分かるよ。私はずーっと!麻痺足の人は排泄障害になりやすいし、冬場に弱いと言い続けてきたでしょうが!
仕事柄、何人見てきたと思ってるの?」
母「布団が寒いんだよ。気温差があるんだよ。多分ポータブルトイレにお世話になるのは冬場だけだよ。」
私「電気毛布入れればいいって前から言ってるし、暖房つけっぱにしなって前から言ってるじゃん。やれることまずやろうよ。」
父「前に電気毛布用意するって言ったらまだいらないって言うから!」
私「天気予報でも今日寒くなるって言ってたし、1~2月は冬なんだから急に寒くなるに決まってるじゃん。
用意だけしといて、使いたくなきゃスイッチ切っておけばいいだけじゃん。」
私はハァ、とため息を吐いた。
そうなのだ。まずは暖房や電気毛布を用意してからでポータブルトイレは間に合った。
一度買ってしまえば、とにかくがさばるし、邪魔になる。
念のために買うのは分かるし、安心したいのは分かるが
だったら荷物を整理してほしいのだ。
ずっとずっとずっともう言い続けているのだから。
仕事はじめの日からドッと疲れた。
私はもう実家にいるべきじゃないのだろう。
両親と距離をおくべきだ。
距離をおいた上で介護をしたり、口出しをするべきだ。
どうしたって感情が入る。優しくなれない。
まだ67歳だよ、お母さん。
それなのにポータブルトイレを使うのか。
その事実にまた、私は打ちのめされた。
「今日はデイで絵馬を書いたり、福笑いをしたよ。」とお母さんが笑う。
(お母さん、私は施設長と新年会の打ち合わせを今日したよ。
お母さんは、利用者側になったんだね。
去年までレク準備側で私と同じだったのに。)
内心そう思い、私は寂しくなった。
夜一人、部屋でポルノのYouTubeを見た。
大好きな推しが歌う。
悲しい歌でもなんでもないのに、私は一人涙がポロポロこぼれた。
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余談。
やはりポータブルトイレを用意する場合はケアマネさんに連絡が必須であり、後日業者との契約時に同伴した。
父が「ポータブルトイレ、ケアマネさん通さなきゃダメなんだな。」と言ったため、両親にはくれぐれも何かを始める場合は勝手に動かずにできれば私に相談してほしいし、それが無理ならケアマネさんには必ず伝えるように言った。
ポータブルトイレを用意してから約二ヶ月以上経った。
結局お母さんは一回も使っていない。
補装具(足全体型)も20万かけて作ったが、ほぼ使わずにオブジェとかしている。
…だから言ったのに。ハァ。