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障害者のやる気と現実

特別支援学校高等部の学生は
一年生の時に施設見学に行き
二年生、三年生の時に施設実習をし
卒業後にどこの施設を利用するか決める。

 
先日、特別支援学校の生徒が実習を希望した。
私の職場である福祉施設は、重度の利用者に人気が高く、既に定員はいっぱいであり
実習は基本的に断っているが
保護者や学校側に頼み込まれ、実習のみ行うことにした。

 
特別支援学校の実習時期は施設側も作業等が忙しい時期であることが多く
普段は職員一人で利用者複数人を見ているのが当たり前な中
実習生は職員がマンツーマンで見ることも少なくはない。

というのも
特別支援学校は先生がほぼマンツーマンで生徒を見ているし
生徒の方は学校と家庭(と放デイ)が中心の世界であり
同学年以外の方と関わることに慣れていない人が大多数であり、未知数であるからだ。
学校や家庭と同じように過ごせる方ばかりではなく、学校や家庭より課題が見られる方も多い。

 
 
実習前に、ご本人、保護者、学校の先生が資料を持って打ち合わせに来るのだが
事前打ち合わせの際、上は「みんなから愛される放デイのアイドル」と言われたらしい。  
 
 
その放デイのアイドルとやらの実習生は、予定通り実習日にやってきた。
やってきた早々、30分もしないうちに課題が多々見られた。

挨拶ができない、荷物を片づけられない、検温ができない、多動であることはまだ序の口で
片っ端から施設の物を箱から出し、床に散らばせだしたのだ。

 
上は面倒を見切れず、私に「今やることないなら見ていて。」と命じた。
今、作業準備をしようとした私は内心ピキッときた。

あまりにも施設の物を片っ端から出すので、私が一つ出したら一つ片づけるように伝えると
奇声を上げ続け
自分の私物と施設の物をグシャグシャと丸めて私に投げつけてきた。

なるほど、強者だ。
たいしたアイドルだ。

 
先生が巡回に来た時にこっぴどく注意したが効果はなく
実習期間中、みんなの前で自己紹介をすることはできないまま(実習生は初日にみんなの前で挨拶をする)
施設の物や利用者の物、作業資材を自分の物のように扱い、収集→破壊し、片づけるように話したり、作業を促したり、その他何かを伝えると
物を投げたり、職員を叩いたり、奇声を上げたり、逃げたりし
どうにもならなかった。

 
学校や保護者側からこのような課題行動の報告は全くなく、私は憤りを感じた。
学校や保護者が全く気づいていなかったわけはないぐらいのレベルだ。
本人は作業を希望していないどころか、実習の理解もできていない。

まだ定員に達していなく、利用希望しているならまだしも
利用者になることはない学生を受け入れる余裕は今の職場にはなく
非常に忙しい状況の中、このような学生を預かり、実習をすることで現場は荒れた。

 
上が注意してもどの職員が注意してもいい方向にはいかず
利用者の私物も作業資材も施設の物も無言で集め、破壊し、奇声を上げ、様々な職員を何度も叩く姿に利用者も不安定になり
実習期間中はさんざんだった。
 
 
 
障害があるからといって夢を諦めることはない。
仕事を諦めることはない。

世間や社会はそう訴えるし
学校や保護者もそれを望むけれど
このように本人にその気がない場合 
ただのエゴのように感じてしまう。

 
ここ数年、年々医療の発達により重い障害の方が増え、重い障害の方でも実習希望が増えた。
昔なら長く生きることや作業希望さえ難しかったであろう人が
今は生かされ、作業を本人というよりは保護者や学校が希望する。

 
実習をして分かることはある。
作業や施設は多様だし
どんなことが向いていたり、不向きかが分かることもある。

だからこその実習だ。
それは分かっている。

 
ただ、作業資材や施設の物や利用者の物を連日壊し、職員を叩き、奇声を上げ続ける方を見て
どんな人にも作業を提供しなければいけないのかと途方に暮れる。

 
本来ならば、保護者や学校の先生が実習期間中こっそり様子を見に来たり、巡回回数を増やす事例だったと思う。
福祉施設は特別支援学校の実習を一度引き受けると、施設側からは原則中断できない(特別支援学校以外の実習の場合、課題が見られると実習中断の判断や権利がある)。
だけど保護者や学校の先生はそうはしなかった。
上が全てを報告しなかったこともあるだろう。
それが腹立たしかった。

実習中は長い戦いだった。
利用者によってはストレスから施設を休んでしまった。そんなことは初めてだった。

 
上は現場に押しつけ、現場が混乱しているのに
上は加害者側の利用者や実習生に甘く、保護者や学校には十分に報告しなかった。
私が前の職場で実習生を担当していた時にはあり得なかった話だ。
実習担当職員は学校と施設と家をつなげる役目だというのに、上はいい顔をしすぎている。

 
 
そもそもが、基準がないことに私は前々からモヤモヤしていた。 

前の職場は、事業ごとに目的や利用基準があり、そのレベルに達しているかいないかによって実習生側に伝えることや接し方が変わった。
今の職場は、事業ごとの目的や利用基準が曖昧であり、課題行動を現場が上げても「まだ若いのだから可能性がある。」と言い、現場が混乱していても現場に丸投げで、課題行動がある利用者や実習生の保護者や学校に伝えなかった。

 
それにより、保護者や学校側は問題の大きさに気づけず
課題行動はエスカレートし、利用者との関係性が悪化したり、日課が回らないということが多々あった。

 
前の職場と今の職場を比較した時、工賃額にしてもそうだが
前の職場の方がレベルが高いのだろう。

課題行動がある利用者でも受け入れてもらえると、特別支援学校側や保護者間で情報が出回っている可能性がある。
特別支援学校の親同士の繋がりは狭く、深い。

 
 
非常に申し訳ないが
実習が終わった時、定員割れしていなくてよかったとホッとした。
利用者になることはないんだとホッとした。

 
レベルを上げすぎると、結局は本人が一番辛くなる。

施設も福祉サービスも世の中には多々ある。
障害者が作業をすることを学校や保護者側はよく考えた方がいい。

障害者施設はマンツーマン対応できるほどゆとりはないのだから。

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