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従姉妹から紹介された男性に会ってみた~農家の同級生~

これは私が20代後半の頃の話だ。

三年以上付き合った人と婚約破棄をし
次に好きになった人は女癖が非常に悪かった。
当時、私は早く今の報われない恋愛を断ちきり
新しい恋で幸せになりたかった。

 
一部の友達には彼氏の女癖の悪さは言えたが
他の人には情けなくて言えなかった。

「そんな最低男、別れなよ。」

そう言われるのは分かりきっていた。

 
それでも好きな自分が情けなかった。
付き合い続ける為には浮気は泣き寝入りでしかなく
最低男と別れられない私は最低女としか思えなかったし
結婚という未来は見えなかった。

好きな人と付き合えて楽しいのに
そばにいられると幸せで満ち足りるのに
至る所に浮気の証はあり
継続的に浮気は続いており
彼が寝ている間に浮気の証拠を見つけては一人泣いていた。

早く自分の気持ちが冷めるか
相手の気持ちが冷めることを願っていた。

 
 
私は一部の友達には浮気癖のある彼氏がいることを明かし
他の人には彼氏はいないことにして
「異性を紹介してほしい。」と言っていた。

本当にしんどかった。
本来の私は好きな人とずっといたいし
彼氏がいる時に他の異性なんか眼中にない。

 
浮気癖の彼氏と別れられない自分や 
彼氏がいるのに婚活をする自分は
みっともないと思った。

だけど、別れられないのだから仕方ない。

新しい恋をするしかなかった。
彼よりもっと好きな人を見つけるしか道がないほど
私は彼に夢中だった。
彼より好きな人が見つかる気はまるでしなかったが
彼より未来や希望を感じ
安心感を与えてくれる人ならば
世界にいる気がした。

 
私は初めてだった。
今まで付き合った人はみんな一途で誠実で浮気をしなかった。
やましいことはないから、携帯でもパソコンでも好きな時に好きなように見てもいいと言ってくれたし
アパートにも浮気の様子は全く見つからなかった。

付き合った人は私とお揃いのストラップをつけたり
部屋にツーショットを飾ったり
待ち受け画面もツーショットにしてくれた。

  
別れはしたけど
世の中にそんな男性もいると私は分かっていたのに
よりによってアラサーになって好きになった人が
誰よりも女癖が悪いなんて
私は愚かでしかなかった。

 
いや、別れたから、だった。

初めての両想いの人と一年もしないでフラれ
三年以上付き合った人から婚約破棄をされ
私は完全に恋愛における自信をなくしていた。
どうしようもなく、寂しかった。

その時に私のそばにいて
私を好きだと言ってくれたのが彼だった。

私以外の女性にも好きだと言う人しか
私のそばにはいなかった。
私を好きだと言ってくれなかった。

 
私に女性として魅力がないからだ。

 
恋愛における自信のなさは、私の中では常にあった。
人生であった色々が全て線に繋がり
私は恋愛や結婚に期待できなかった。

  
でも、今のままでいい、とも思えなかった。

 
 
そんな時に従姉妹から話があった。

「私の同級生で彼女ほしい人がいるんだけど、ともか、会ってみない?」

私は食いついた。
女癖さえ悪くないフリーの男性なら、それだけで私の中ではイケメンだった。

 
従姉妹から話を聞いてみると
5人兄弟の長男で専業農業をしていて
偏差値の高い高校や大学を卒業していた。
大人しくて真面目なタイプらしかった。

 
私「高学歴で結婚向きなタイプだと思うけど、従姉妹はいいの?」

私は尋ねた。
従姉妹も彼氏募集中だったからだ。

 
従姉妹「私は同級生と付き合う気は全くないし、その人と合わない。ともかとは相性いいかなーと思って。あいつ、いい人だし、付き合ったら大事にしてくれると思う。」

 
従姉妹にその気がないなら、遠慮なくまずはデートをしてみよう。

私の家は兼業農家で
農家跡取りはなかなかにハードルが高いと感じた。
農家は家族一丸となって
休日なく働くものだからだ。
だが
その方は大規模な畑を持っているらしく
人を雇って畑をしているらしい。

【農家の嫁】ということで女性は引いてしまったり
普段出会いがなく
従姉妹に誰かを紹介してほしいと話があったらしい。

確かに地元では農家オンリー婚活があるほど
農家跡取りの方は婚活で苦戦していた。
逆を言えば
農家の嫁が嫌じゃなければ
婚活市場ではいくらでも嫁ぎ先があるくらいだと
私も知っていた。
同僚が私に紹介できる異性は全てが農家跡取りだった。

うーむ……
と、唸るしかなかった。

 
 
従姉妹の話によると、奥さんには農家は求めていないそうだ。
人を雇っているので
専業主婦でも農家でも外で働くでもいいらしい。

 
家が我が家からすごく近いので
例えば私が彼と上手くいき、彼の家に入っても
実家を行き来しやすいし
墓守りができる。

本当は私は実家を継ぎたいが
世の中はなんでも思い通りにはいかない。
折衷案で、その人の条件は悪くないと思った。

 
 
デートの日は、待ち合わせ場所まで農家跡取りの方(以下、Aさん)が迎えに来てくれた。
キレイに掃除された白の乗用車で
車内も整っていた。

私は初めてAさんを見た。
身長が175cmくらいで細身、メガネをかけていた。
白いニットが似合っていて品がいい。
趣味が読書、と言いそうな顔や雰囲気だ。

 
「ここの近くに、お洒落な喫茶店があります。予約しておきましたから、行ってみませんか?」

 
Aさんは車を走らせた。

安全運転だ。
車内はスピッツが流れていた。
私はスピッツが好きな為、スピッツをかけてくれたことが嬉しかった。
まだ私がスピッツを好きなことをAさんは知らなかった。

Aさんもスピッツが好きらしい。
好きなものが同じことが嬉しくて
二人でスピッツの話で盛り上がった。

 
車を走らせること15~20分、そのお店に着いた。

私はその近くをよく通るが
そこに喫茶店があることは知らなかった。
通だけが知るといった趣で
看板は目立たない。
やや入り組んだ場所にそのお店はあった。
外観からして非常にお洒落だ。

一年前にできたばかりの喫茶店らしい。

 
明らかにデート向きな場所だ。
話していると、女性慣れしている感じはない。
多分、今日デートだから色々調べたりしてくれたのだろう。
それが伝わり、私は嬉しかった。

 
そのお店は創作イタリアンか何かだったかな。
サラダやパスタ、スープ、デザートがランチメニューだった。
二人でたまたま同じものを頼んだ。

「美味しいですね!」

二人で笑い合った。
美味しいものは人を笑顔にする。
Aさんは「ずっと行きたかったけど、一緒に行く人がいなかった。今日はかわいい人と来られて嬉しい。」と言ってくれた。

かわいい人!

私はビックリした。
私は自分を容姿が劣っていると自覚しているし
異性から容姿をほめられることはあまりない。

私の容姿を褒める人は
もの好きか、私に惚れているか、口が上手いかのどれかだ。

だから、女性慣れしていないと思われるAさんが
ここまでストレートに言葉にしてくれて嬉しかった。
本心だろう。
誠実さが伝わった。

 
ずっと気になっていたお店に誘ってくれたのは
期待してもいいのかもしれない。

 
店の雰囲気も良く、落ち着いた空間だった。
陽射しや店内に置かれた小物や店員さんやお客さんの様子の一つ一つが穏やかで幸せで
私はイチイチ嬉しくなった。

会計は彼が驕ってくれた。
それもまた、嬉しかった。
男性が絶対に驕るべきとは思わないが
婚活の場合
驕ってほしい自分がいた。
相手が年上ならば尚更だ。

お金が全てではないが
驕ってくれるか否かで
自分を大事にしてくれているか否かを判断していた。

 
食事後、「もう少し話したい。」と言われ
軽くドライブをした。
その日は天気が良くて、青空が広がっていた。
スピッツを聴きながら
あれこれ話すのは楽しかった。

Aさんとは小学校も中学校も同じだったので
学生時代の話にもなった。
同じ時期に学校にはいなかったが
先生の話や学校のあれこれは共通していた。

 
初デートは3時間程度で
心穏やかな気持ちで手を振って別れた。
連絡先を交換し
「また食事でも行きましょう。」と言ってもらえた。
嬉しかった。

 
帰宅してから、お礼のLINEをした。
相手からもLINEが来た。
LINEの文体も誠実だ。

 
もしかしたら、Aさんと付き合うのかな。
本家にこだわっていた私が
農家の嫁になるのかな。

そうしたら今の恋も終わらせられるのかな。

 
私はその日、確かに前向きな気持ちだった。

Aさんとはまだ初めて会ったばかりだし
ときめきは感じなかったが
結婚向きな方だとは感じた。
大事にされているとは思ったし
誠実で真面目で音楽の趣味も合う。

まだ会ったばかりだから恋には発展しない。
だが、前向きに考えてみてもいいとは思った。
Aさんはいい人だった。

 
だが、いい人、だけでは進展しないのが恋愛だ。

AさんからLINEはなかなか来なかった。
私から送ってばかりだったし
送ってもすぐには来なかった。
おそらく、この前のデートで手札を失ったAさんは
会いたい気持ちはあるが
デートプランが分からずに私に丸投げした。
私はいくつか提案したが
なかなか返事が来ず
またAさんは優柔不断さを発揮した。

私は段々と空しさや苛立ちを感じた。

 
Aさんに悪気がないのは分かるし
あまりスマホを見ないタイプなのも分かるし
私云々が理由ではなく
あまりLINEや電話を好まないタイプなのも分かる。

 
そして、だからこそAさんの恋愛が上手くいかないのもよく分かった。

 
 
婚活はとにかく、マメな人が勝者だ。
そして鮮度が大切なのだ。

なんといっても婚活は

会う日に初めて顔を知るのが当たり前
出会ってから三回以内で付き合うことが当たり前
初回デートから二週間以内で二回目デートも当たり前
 
の世界なのだ。
一日に最低一回はLINEを返すのも暗黙のルールだ。

 
お互いに初回デートの印象は

「可もなく不可もない人。」
「二回目のデートはないかな。」
「悪い人ではないけど…。」  

というのがほとんどだ。

 
「まぁ相手から誘われたら次のデートに行ってもいいかな。」

と女性側が思うのは稀で
女性がそう思っている時
男性も前向きに考えているならば
とにかく押さなければ発展はしない。

時間が経つにつれ
過去の恋愛と比べてしまうのも女性なのだ。

 
アラサー女性は大抵元彼がいる。

会ったばかりの人より
元彼の良いところばかり浮かぶし
男友達の方が気楽でいいと思ってしまう。

 
私のように他に気になる人がいる場合
積極性がない新たな恋の始まりだと
途端に色褪せてしまうのが常だった。

 
Aさんがもたもたグズグズしている間
彼氏は私にマメにLINEし、電話し、デートに誘ってきた。

 
浮気癖のある男性は、女心をよく分かっている。
様々な女性を喜ばせるテクをたくさん持っている。
そして、基本的に超絶マメである。

世の中でダメンズと呼ばれる男性が何故モテるのかはこれに尽きるのだ。

 
モテない男性は大抵マメではない。
女性も最初は空気を読んでいい人ぶって頑張って合わせるが
段々と空しさや怒りが沸いて
離れるのだ。
恋愛には発展しない。

もしマメなのにモテない男性がいるとしたら
おそらく相当な何かがあると思った方がいい。

 
私がマメな人だけどダメだったケースで言えば
「刺されそう。」という恐怖感を感じたからだ。
あまりにも私への執着や束縛が激しかった。
私は婚活で、そういった方を惹きつけるものを持っていたらしく
何人もそんな方がいた。

浮気しなくて、連絡マメなら誰でもいい、とは限らない例である。

 
婚活市場において、男性は連絡がマメなだけで好感度は非常に高い。

つまり逆を言えば、どんなに誠実そうでも
連絡がマメではない時点で終わりだ。
先がないのである。

 
「仕事が忙しくなりました。しばらく会えそうもありません。」

私は煮え切らないAさんに愛想を尽かし、そのようにLINEをした。
二回目のデート実現にまで至らなかった。

 
デート日を何日か提案しても
デート場所を何箇所か提案しても
すぐに連絡が来ない。

たまに連絡が来ても「どこもいいですね。」だけでは話が進まない。
私は疲れてしまった。

 
Aさんは不器用なだけで、確かに私を想ってくれていた。

従姉妹経由で、またデートしたい旨を伝えてもきたし
私にも数ヶ月後に、「また会ってもらえませんか?」とLINEが来た。

 
うん…
Aさんがいい人なのは分かっているんだ。
悪気がなかったのも分かっているし
LINEがマメじゃないのも
悪いことではない。

 
ただ、私はときめかない。
恋愛はできない。
付き合いたいとは思えない。

 
何故私に興味があるならば
私が二回目のデートを提案した時に
早めに連絡を返したり、日時設定をしてくれなかったのか。

 
なんで浮気性の彼氏は
マメに連絡をしたり、デートしてくれたり
私の喜ぶあれこれをしてくれるのか。

 
ちくしょう…
ちくしょう………
なんで上手くいかないんだ………

また今回もダメだった…………

 
 
私の婚活は振り出しに戻った。

浮気をしなさそうなマメではないAさんよりも
浮気をするマメな彼氏を私は必要としていた。

 
やっぱり付き合うならマメな人がいいんだよなぁ…
LINEや電話ができて
週一くらいデートできる人がいいんだよなぁ。

 
その思いに突き動かされ
連絡マメな人と前向きに付き合いを検討しようとすると
連絡がマメ過ぎて、LINEや着信が止まらず

「俺だけを見て。」
「男性の連絡先を全て消して。」
「愛してる。愛してるって毎日言ってよ。」

という、一途に見せかけた私への攻撃が止まらなくなり
私は恋愛が怖くてたまらなくなるという
悪循環に陥った。

 
 
恋愛は価値観も大切だが、距離感が合う人がいい。

ところが、友達で価値観や距離感が合う人はいても
恋愛はなかなかに、この距離感で上手くいかない。

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