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ギアクマキスで話題のMLSのサラリー・キャップ制について解説する | 浦和レッズサポ日記 #1

2021年からアメリカ留学中(NY在住)のトップです。実は、生粋の浦和レッズサポーターで、普段はニューヨークで弁護士として働いています。

今回は、少し趣向を変えて、ギアクマキス(Giorgos Giakoumakis)の移籍に関連して話題になっているMLSのサラリー・キャップ制度と、その例外のDesignated Player(特別指定選手)制度について解説します。

世間では複雑で理解できないと言われているMLSのサラリー・キャップ制ですが、実は、きちんと条文を読み解いていけば、ルール自体はそれほど複雑ではありません。

簡単にまとめますと、以下のとおりとなります。

①サラリー・キャップ(Salary Budget)制度
MSLの各クラブには、プレーヤー1人当たり612,500ドル(2022シーズン)、合計で4,900,000ドル(2022シーズン)の報酬上限が課されている

②特別指定選手(Designated Player)制度
但し、MSLの各クラブは、3名を上限として、1人当たり612,500ドルという上限を超える報酬額の特別指定選手(Designated Player)を保有できる

③Atlanta Unitedの現状
2022シーズン、Atlanta Unitedが保有する特別指定選手は、Luiz Araújo、Thiago Almadaの2名のみ(zequiel Barcoは、2023シーズンまで、アルゼンチンのCA River Plateに期限付き移籍中)なので、他に特別指定選手を獲得しない限り、ギアクマキスを特別指定選手として獲得することに制度的な障害はない

1. サラリー・キャップ(Salary Budget)制度

Up to 20 players, occupying roster slots 1-20, count against the club's 2022 Salary Budget of $4,900,000 and are referred to collectively as the club's Senior Roster. 【各クラブは、20名を上限として、"Senior Roaster"を保有できる。"Senior Roaster"は、選手登録枠1-20として登録され、Salary Budgetの4,900,000ドルの対象となる。】

Senior Roasterは、JリーグでいうところのA契約選手で、その上限は20名となっています(そのほかに、最低保証報酬で契約する選手や、ホームグロウン選手などを保有することができますが、ここでは深く言及しません)。

Clubs are not required to fill roster slots 19 and 20, and clubs may spread their entire Salary Budget across 18 Senior Roster Players. A minimum Salary Budget Charge will be imputed against a club's Salary Budget for each unfilled Senior Roster slot below 18. 【各クラブは、選手登録枠19-20を使用する必要はなく、Salary Budgetの4,900,000ドルを18名の"Senior Roaster Player"に分配することができる。18名未満の"Senior Roaster Player"しか保有しないクラブについては、未使用の選手登録枠分のminimum Salary Budget Chargeを報酬とみなしてSalary Budgetを計算する。】

要するに、各クラブは、18名未満のA契約選手しか保有しないこともできるけど、その場合には、最低報酬を支払ったものとして、Salary Budgetの計算を行う(ゼロとしては扱わない)ということです。

The Maximum Salary Budget Charge for a single player is $612,500. (See Allocation Money section below for details on buying down a player's Salary Budget Charge.) 【各プレーヤーの最大報酬額("Maximum Salary Budget Charge")は、612,500ドル。】

2. 特別指定選手(Designated Player)制度

Designated Player【特別指定選手】

The Designated Player Rule allows clubs to acquire up to three players whose total compensation and acquisition costs exceed the Maximum Salary Budget Charge, with the club bearing financial responsibility for the amount of compensation above each player's Salary Budget Charge. 【特別指定選手ルールの下では、各クラブは、3人を上限として、当該選手の報酬および獲得費用の総額が"Maximum Salary Budget Charge"を超える選手(特別指定選手)を獲得することができる。その場合、各クラブは、各選手の"Salary Budget Charge"を超える額について、財政的に負担する責任を負う。】

この条項は、3名を上限として、1人当たりの報酬上限(2022シーズンは612,500ドル)を超える報酬金額で、特別指定選手(Designated Player)として、選手と契約できることを規定しています。

Designated Players may be new players signed to MLS via the Allocation Ranking List or the Discovery Process, or they may be re-signed existing players on a club's roster. 【特別指定選手は、①MLSの新規登録選手(Allocation Ranking ListまたはDiscovery Processを通じて)、または②MLSクラブの既登録選手のいずれかとする。】

要するに、この条項は、MLSの既存選手も新規選手も特別指定選手にできるということを説明しています。

(※)Allocation Ranking Listというのは、ざっくりいうと、すごいアメリカ人プレーヤー(代表 or 移籍金50万ドル以上)のうち、現在、MLSでプレーしていない選手(例えば、ペリシッチなど)が登録されているリストで、当該リストに登録されているプレーヤーがMLSでプレーしたい場合、Allocation Ranking上位のクラブが優先契約権を有します。

(※)Discovery Processというのは、ざっくりいうと、MLS外の選手の移籍プロセスのことで、各クラブは7名を上限として、移籍での獲得を希望する選手(交渉中の選手)をDiscovery Listに登録できます。他クラブがDiscovery Listに登録中の選手を新たにDiscovery Listに登録することはできず、そのため、Discovery Listに先に登録したクラブが、優先契約権を有することになります。

→したがって、例えば、Atlanta UnitedがGiorgos GiakoumakisをDiscovery Listに登録しているとすると(誰を登録しているかは非公開なので分かりません)、MLSの他クラブがGiorgos Giakoumakisを獲得しようとする場合、Atlanta Unitedと交渉して優先契約権を買取る等の対応が必要となります。

A player's Salary Budget Charge, and therefore Designated Player status, is generally determined by averaging all guaranteed amounts payable over the guaranteed term. 【選手の"Salary Budget Charge"や「特別指定選手」に該当するかどうかは、原則として、契約期間を通じた支払いが保証されている金額の平均によって判断する。】

したがって、例えば、5年契約で、1年目から4年目の報酬を極端に低くし、5年目の報酬だけを高くしても、1年目から4年目は特別指定選手に該当しない、となるわけではなく、あくまでも契約期間を通じた平均報酬が"Maximum Salary Budget Charge"を超える場合には、全ての契約期間で特別指定選手に該当するということになります。

In 2022, a Designated Player who is at least 24 years old during the League Year will carry the Maximum Salary Budget Charge ($612,500) unless the player joins his club after the opening of the Secondary Transfer Window, in which case his budget charge will be $306,250. 【2022シーズンにおいて、(Salary Budgetの計算に当たっては、)24歳以上の特別指定選手は、"Maximum Salary Budget Charge"=612,500ドルの報酬額とみなす。ただし、第二移籍ウィンドウ開始後に移籍した場合には、306,250ドルの報酬額とみなす。】

この条項は、特別指定選手の報酬は、Salary Budgetとの関係で無視されるわけではなく、実際には"Maximum Salary Budget Charge"=612,500ドルを超えていたとしても、当該額で計算されるということを説明しています。

Clubs may trade a Designated Player or U22 Initiative Player, remain responsible for some or all future out of pocket costs, and shed the Designated Player or U22 Initiative Player slot designation under the following limitations: 【各クラブは、以下の限定の下、①特別指定選手をトレードすること、②トレード後の"Maximum Salary Budget Charge"を超える金額の一部または全部の負担をすること、③特別指定選手枠を空けることができる。】
・Up to one Designated Player traded per year (two total “active” at any given time) 【一年に1名のみ特別指定選手をトレードすることができる。】
・Up to one U22 Initiative Player traded per year (two total “active” at any given time)
・Player may only be traded beginning in his second MLS season 【特別指定選手は、2年目のシーズン以降、トレードの対象となる。】
・Roster Slot Designation (Designated Player or U22 Initiative) must be held by one of the two trading teams 【トレードに参加するクラブのうちいずれかのクラブが、特別指定選手枠を有していなければならない。】

したがって、仮に、Atlanta Unitedが3名フルに特別指定選手を保有していたとしても、いずれかの特別指定選手をトレードに出すことにより、特別指定選手枠を空けることが可能です。

Each club will be allotted two Designated Player roster slots. Clubs with two Designated Players may add a third Designated Player by paying $150,000 to the League, which shall be split among clubs with two or fewer occupied Designated Player slots for use as General Allocation Money in the following MLS Season. Clubs must pay the $150,000 fee every year in which a third Designated Player slot is occupied on the club's roster. 【各クラブは、特別指定選手枠を2枠有する。3枠目を希望するクラブは、150,000ドルをリーグに対して支払う(当該金額は、2枠以下しか使用しないクラブ間で分配される)ことにより、3枠目を獲得することができる。】

If a club uses the third Designated Player slot to sign a Young Designated Player, then the club will not be obligated to pay the $150,000 charge. 【ただし、3枠目を23歳以下の特別指定選手に利用する場合には、150,000ドルの支払いは必要ない。】

Designated Player slots are not tradable. 【特別指定選手枠の取引は禁止。】

かつては、特別指定選手枠を他クラブに譲渡することができましたが(特別指定選手枠の空きがある場合、金銭と引き換えに、枠以上に特別指定選手を抱えたいクラブに枠を売却することができた)、現在では枠の取引は禁止されています。

3. Atlanta Unitedが保有する特別指定選手

2022シーズン、Atlanta Unitedが保有する特別指定選手は、
①Luiz Araújo
②Thiago Almada
③Ezequiel Barco
の3名でしたが、このうち、③Ezequiel BarcoはアルゼンチンのCA River Plateに期限付き移籍中で、CA River Plateの公式サイトでは期限付き移籍期間は、2年(2022年-2023年)とされていますので、Atlanta Unitedの選手として登録されているのは2名のみとなります。

現在は、他の特別指定選手の獲得のアナウンスは出ていないので、特にそのような動きがなければ、現状、特別指定選手枠に問題はないということになります。


いかがでしたでしょうか。普段は、ブロードウェイのことを中心に記事を書いています。励みになりますので、面白かった・参考になったという方は、是非、スキ、コメント、フォローをお願いします!!

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