7000ネコカンを失った夏
7000ネコカン。
ネコカンとは・・・主ににゃんこ大戦争というゲームアプリにおいて、ガチャを回すなどに使うゲーム内通貨。ガチャ1回150ネコカン、11回1500ネコカン
運営から配布される戦後の配給制より少ないネコカンと毎日の積み重ね、そしてコラボステージのクリア等で稼ぎ、毎日欲を抑え抑え、修行のように貯めたこのネコ缶はいつか、大事な時のために取っておく。そう誓った。
大切な人を守るため、大切な何かを得るためにそのネコ缶を大切に大切に取っておこう。
そう思っていた。
来たる7/18日、私はいつものようににゃんこにログインし、ログインボーナスを獲得しながら夏の始まりを感じていた。
ん?なんだこれは夏限定ガチャ?
開いてみるとそこに居たのは新限定キャラ、妖賢女リリンの夏衣装、ナイトビーチリリンだった。
普段から魔性のオーラを放つ彼女が夏の魔力を纏い一段と輝いて見えた。毎日朝に浴びる陽の光よりもiPhoneから出ている光は小さいもののはずなのに、何倍も、何十倍も明るかった。
ずっと欲しかった彼女の限定衣装、既に私の脳内は支配され、
我慢すれば後に確定ガチャが来ること。
今、回すべきではないこと。
今までの理性高い自分は世間で言う『推し』の前に全て崩されていた。
ネコ祭のために取っていたチケットを全て回し終え、1連30ネコカン、11連750ネコカンの半額キャンペーンを使い果たした時に1度、昔の私が川の向こう岸で叫んでいた。
しかし私は見向きもせず、夏の魔力に取り憑かれ、気づいた時には全てを失っていた。
手元にいたのは私が絶望している前で夏休みキッズのように夏を満喫してやがるチビ女とイルカを召使いにしているビジュアルはいい女、そして錨を携えたツインテ女だった。
私はこの一夏の夢をまだ現実と捉えられないでいる。
だが、真顔の猫の下に映る148の数字はそれが夢でなかったことを確かに証明している。
『泣きたい時は泣けばいい。逃げたい時は逃げればいい。人はそんなに強い生き物じゃないにゃ』
そう語る真顔のにゃんこは今の私の状況をまるで察してくれているかのようだった。
不思議と後悔は無かった。だがそこにあるのは3人の見知らぬ女と、莫大な喪失感。そしてこれから始まる夏への希望の喪失だった。
夏はまだこれから。
私はこの夏を無事生き延びられるのか。それを考える余地も今の私にはなかった。
空を見上げれば快晴の中に明るい日が照っていた。にゃんこのガチャマシンのように、黄金に照っている気がした。
私は四角い画面の中にいる彼女を見て、私にはもうこの光を手に入れることは出来ない。
そう思った。
とても眩しくて彼女を直視出来なかった。
私は再び照っている夏の光に目を向け、こう思った。
貴方が放つ光は眩しすぎて今の私には直視できない。その代わり夏はいっぱい外に出て、貴方よりは弱いかもしれないこの夏の太陽の光を沢山浴びて、その光に慣れた頃、また眩しすぎる貴方に会いに行こう。