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俳優に癖を気づかせるワークを考えました。

演技のトレーニングについて、少し書きます。

さまざまなトレーニングがありますが、俳優はそれぞれに必要とされるものがあるはずです。
その俳優が必要としている適切なワークをすることで、演技は修正され、良くなっていくものだと考えます。
ここに書くのは、その一つの例です。

○相手に触ってセリフを言う癖がある俳優に、自分の癖を気づかせるためのワーク。



☆状況
若い俳優たちの稽古を見ていたら、シーンの中で頻繁に相手役に触って演技をする人がいた。
あきらかに不必要な時でも、同じアクションを繰り返してしまう。

意図したものではなく、無意識での行動に思えた。
その俳優に「必要のない時に、あまり相手に触らないで」と指示を与える。
もちろんその俳優は、「わかりました」と言うけど、またシーンをやると、同じことをしてしまう。

それは当然のことで、無意識でやっているのだから、すぐに修正することができるわけないのである。
演出も、俳優もストレスを抱えてしまう瞬間だ。
演出は、なぜできないと思う。
俳優は、やろうとしているのだが、またやってしまい、精神的にネガティブになってしまう。

これをうまく修正する方法がないのかと考えた。

一つのゲームを思い出した。
インプロのゲームに『コンタクトゲーム』と言われているものがある。
即興のシーンをやるときに、「相手に触っていないとセリフを言ってはいけない」というルールのものだ。
これはセリフをしゃべりすぎる俳優に自分の状態を気づかせるという効果があるゲームだ。
コントロール防止のために開発されたものである。

このゲームが使えるのではと思った。

相手を触る癖がある俳優に、相手を触ることでしかセリフが言えないシーンをやってもらうことで、無意識でやっていた行動を、意識化するのである。
いったん意識化されたものは、無意識にも影響をおよぼす効果があるのではないかと思った。

☆エクササイズ
当事者の俳優と、もう一人の俳優の二人のシーンを即興でやってもらう。

☆手順
二人の関係性を与えて、なんについてのシーンをやっているのかを決める。
ルールは、セリフを言う時には、相手にかならず触っていなければならない。
触る理由は、感情的に必然でなければならない。

☆シーン
とまどいながらもシーンをはじめたのだが、必然的に触るということがなかなかできずに、無理やり触ってセリフを言ったりするということが認められた。
ついつい触っていないときにも、セリフを言ったりすることもあったが、それに気づいて、アッとなるということもあった。
二分~三分でシーンを終わらせた。

☆結果
予想していたように、俳優が自分が相手を触るということを意識化することには成功したようだった。
次に、もとの台本のシーンをやってもらったら、見違えるほど、無意識に相手に触るという行動パターンが消えていた。
無意識の癖を意識化することで、癖を取るという実験は成功したと思えた。

☆まとめ
今回のエクササイズは、インプロのゲームを、本来の使い方とは違う目的で使ったものだったが、俳優の一つの癖を取るのに有効だということがわかりました。

しかし本質的な問題解決ではないのかもしれないとも思っています。
新人の俳優が演技をするときに無意識に両手で自分を抱くような動きをしていたり、相手に触ってしまうという行動をすることの根本的な原因というのは、その俳優が無意識に抱えている不安感であろうと思います。

これは人間の行動生理から来ています。無意識に不安感を表しているのです。
根本的にこれを改善するためには、演技に対する無意識の不安を解消することが必要になります。

この無意識の領域を変えていくには、経験値をあげたり、成功体験を積み上げていくことが大事です。
人前にたって、緊張しなかったり、むしろそれを楽しいと感じたりする領域まで無意識を変えていくためには、さまざまなトレーニングを積み重ねることが必要だと思います。
そのトレーニングで最も有効なものが、インプロ(即興)のトレーニングでということを、僕は確信しています。

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