遥かなアフリカの大地の風
「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」
サン=テグジュペリの『星の王子さま』にある一節。
大切なことは、自分の心の目で見て感じたことが全てだと思う。自分にとって大切なことは父と過ごした思い出だ。
なぜ大切かと言うと、5歳の頃に父は園芸作物の専門家としてアフリカのケニアに行き、それからほぼ母子家庭のような生活していたから父との思い出は数えるほどでしかない。だから一番大切な思い出だ。
子供の頃は寂しさもあって反発した時もあった。でも大人になり、組織に入ると人間関係の難しさも直面して出来て父の偉大さが分かるようになった。父も家族と離れた寂しさも感じながら、文化が全く違うケニアで孤独に悪戦苦闘してきたのだと。
ケニアに赴任する前の父が若い頃、JICAの青年海外協力隊として現地のタンザニアに赴き、英語が殆ど話せない中、文化が違う現地の方とのコミュニケーションに苦労したそうだ。ある人は父のことを馬鹿にもした。その時、タンザニアのあるムゼー(長老)にこんなことを言われた。
「アフリカで成功したいなら、アフリカ人を尊敬しなさい。」
その言葉を聞いた時に父は、はっと我に返り、タンザニアの人々の目線で物事を考えるようになったそうだ。そしてタンザニアでのプロジェクトも無事に成功させることが出来たそうだ。
そうした思い出が鮮明にあって、アフリカへの思いが捨てきれずケニア再度に行くことになった。子供として父親を見たときに「自分の心に素直な人だった」と思う。
自分の心に素直な人の情熱は、人を惹きつけ、人を喜ばせる。
ケニアに行った時に父の周りには、明るいケニアの人々がいた。父は、大きなホラ話で人を惹きつけていたのだ。父は決して小さなホラは吹かなかった。その大きなホラ話は、やがて現実なものとなり、安倍首相がエチオピアに訪問した際には、父のプロジェクトを紹介した。
父は4年前に癌で去った。しかし、その志はアフリカの大地で奮闘する人々に受け継がれている。父の遺灰の一部は、アフリカの大地に撒かれた。父の命は、アフリカの風と共にその志を継ぐ人々の間で今も生きていると信じる。
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