ー詩と形而上学ー23.0
線
溜め息さえメロディになる静けさの
ショートヘアの透明なひとが泣いている
美しいものは、あまり見ない方がいいと
教科書に書いてあったのを思い出し
地下鉄の窓ガラスの、脱毛の広告を眺めている
人通りの少ない帰り道に、知らない人を
午後七時の青色のなかに置き忘れてきた
夜の公園のバラ園に、水色の傘の輪郭が
滲んで咲いてビニールとプラスチックの
一輪の花として風景の序文となっていた
夜桜、かたち未満の歴史が徐々にほどけて
青い春の寂しさは疲れた肋骨に心地がいい
雨が結ぶ絲の反射光は散り散りになった線
煙雨はエチュードになり五線譜をはみ出して
消えそうな水面の波紋を極彩色の音色にした
(そういえばこの街には横の線が少ない)
ふと触れた街路樹の硬く閉ざした湿った皮膚
縦に伸びる都市に曲線としての抵抗を示して
叙事詩を忘却した地平線の見えない大地に
消失点の遠い思い出を薬指で指差しながら
線の集積としての幹に力強さを湛えていた
Written by Daigo Matsumoto