感情的付加価値とブランディングデザインの関係性をサッカーコーチの経験から考察する
ブランディングデザイナーとして、企業の価値を見極め、それをどのように効果的に伝えるかを考えるのが私の仕事だ。その中で、「感情的付加価値」の重要性を強く実感するようになった。この概念を深く理解する契機となったのが、私自身のサッカーコーチとしての経験である。
サッカー指導から得た洞察
約1年前、私は小学3年生のサッカーチームのコーチを引き受けた。当初、このチームは試合で勝つことが少なく、選手たちのモチベーションも低かった。前任のコーチの影響もあり、周囲の大人たちからも「この学年は弱い」と見なされていた。
しかし、指導者が「このチームは弱い」と決めつけていては、選手たちの成長は望めない。そこで、私は選手たちを「できる存在」として扱い、目指すべきレベルを基準としたコミュニケーションを徹底した。
当初、選手たちは厳しく感じたかもしれないが、時間が経つにつれ、意識が変化していった。少しずつ試合に勝つようになり、ついには小規模な大会で優勝を果たすまでに成長した。何よりも大きな変化は、選手たち自身が「優勝を目指す」と口にするようになったことだった。これにより、「勝てたらラッキー」という受動的な姿勢から、「勝つためにどうするかを考える」という主体的な姿勢へと変わったのである。
この変化は選手だけでなく、保護者の意識にも影響を及ぼした。「この子たちは弱い」と思っていた保護者たちが、「サッカースクールに通わせた方がよいか」と相談するようになり、チーム全体のマインドセットが劇的に変化した。
感情的付加価値とは何か
この経験から、「感情的付加価値」とは何かを考えた。それは単なる結果ではなく、「一体感」や「つながり」から生まれる価値である。
「優勝すること」＝機能的価値（目に見える成果）
「自信を持つこと」「チームとしての一体感を得ること」＝感情的付加価値
この概念は、ブランディングにもそのまま応用できる。
「売上が向上する」＝機能的価値
「社員がブランドに誇りを持つ」「顧客がブランドに共感する」＝感情的付加価値
ブランディングとは、単にロゴや広告を作ることではなく、「ブランドがどのような感情を生み、どのように人とつながるか」を設計することなのである。
これからのブランディングデザイナーに求められる要素
ブランディングデザイナーにとって重要なのは、「感情的付加価値」を意識し、それを創出するためのデザインを行うことである。
目に見えない「意味」をデザインする
ただのロゴではなく、ブランドのアイデンティティを象徴するものを作る。
ただの広告ではなく、ブランドの哲学や世界観を伝える。
「共感」と「一体感」を生み出すストーリーを作る
企業の存在意義や価値観を明確にし、それを発信する。
商品だけでなく、ブランドに共感を生む文化を形成する。
「既存の価値」を超えて、新たな価値を創出する
Dysonが「掃除機」ではなく「掃除の概念」を変えたように。
Patagoniaが「アウトドアウェア」ではなく「環境保護のライフスタイル」を提案したように。
企業が持つ価値を再定義し、新たな可能性を見出す。
「体験」をデザインする
開封の瞬間のワクワク感、商品の触感、店舗の空間設計など、五感を通じてブランドの価値を伝える。
「企業の内側」にもブランディングを浸透させる
社員自身がブランドの価値を信じることが、本物のブランドにつながる。
「テクノロジー」と「感情」のバランスを取る
AIが進化しても、「感情を動かすデザイン」は人間にしかできない。
データを活用しながらも、「心が動くかどうか」を基準にする。
結論
「ブランディングデザインとは、企業やブランドの“目指すべき姿”を提示し、人の感情を動かし、一体感を生み出すこと」
サッカー指導の経験を通じて得た最大の学びは、選手たちの目標が「試合に勝つこと」から「優勝を目指すこと」へと変わったように、ブランドもまた「商品を売ること」から「人とつながること」へと進化するということだ。このプロセスこそが、ブランディングの真髄である。