得意教科は大学教育の何に影響を受けるのか?
「小学校教員の授業実践に関する全国調査」
日本の小学校では伝統的に「学級担任制」が採られてきました。説明は不要かもしれませんが,「学級担任制」とは1人の教員が特定の学級に張り付き,全教科の指導や生活指導を担うものです。国語に算数に体育に音楽に…多数の教科を指導しなければならない小学校教員には,幅広い専門知識が求められます。
大学における小学校教員の養成段階では,当該教科の背景となる学問領域に関する科目(教科に関する専門的事項)とそれらを踏まえて授業設計を行う方法を身に付ける科目(各教科の指導法)を修得することとなっています。1教科に対してせいぜい2科目程度ですが,これら少ない科目の履修の中で,小学校教員を目指す学生の得意教科を規定する要因は何でしょうか?
現職の小学校教員を対象に調査を実施し,得意教科を生む構造を明らかにした興味深い研究があります(小方・高旗・小方,2018)。全国の小学校1,020校をランダム抽出し,質問紙法にて調査を行いました(回答数2,288名,回収率56%)。
まず,年代別に各教科への取組状況(苦労,支障ない,意欲的)を集計し,得意教科は線形的な発達を遂げず,初期キャリア段階で決まっていることを明らかにしました。
それでは,このような構造はどのようにして生まれるのでしょうか?
養成段階の何が得意教科を規定づけるか?
小方らの論文では意欲的に取り組める教科と在学中に所属していたゼミの教科とのクロス集計も行っています。結果,これらには明らかな対応関係があることを認め,以下のように考察しています。
“所属ゼミの決定時に既に学生の得意教科を前提とした構造があり,ゼミの所属期間を通して得意教科が形成・強化され,それが就業後に発揮されると考えられる。”(p.144)
本学の場合,小学校教員養成課程においてピーク制(小学校全教科を学びつつ,特定の教科を深く学ぶ教育システム)を採用しており,所属するピーク(例:国語コース)を超えて他の教科ゼミに所属することができません。よって,ピークの教科とゼミの教科が一致するため,上記論文においてゼミ=ピークと読み替えて支障はないと思います。
したがって,所属ピーク決定時,つまりは入学当初から得意教科はある程度形成されており,4年間のコース科目の履修を通して強化されていく過程がうかがえます。
小方らの論文ではさらに,所属ゼミと取得免許状の関係も分析しており,以下のようにまとめています。
“教科のゼミ所属者は,中高免許とりわけ中学免許取得者が多く,教科内容は圧倒的に所属ゼミの教科である。得意教科は,単にゼミに所属するだけでなく,所属ゼミに関連した免許状の取得が加わる過程で形成される。”(p.145)
ピーク制の功罪
学生組織の観点で言えば,ピーク制を採用することは特定教科に強い小学校教員を養成する点で効果的であると言えます。しかしながら,この調査結果では,教員としてのキャリアを積む過程で他教科も意欲的に取り組めるようになる専門転移説(特定教科への専門性が他教科にも転移する)は支持していません。
本学は令和4年度に教育学部の改組を予定しています。小学校教員の養成に際しては,特定教科の専門性を重視するのか,あるいは小学校教員独自の複数教科の専門性を重視するのか,学生組織の在り方も含め学内で慎重に議論を進めていく必要があるでしょう。
*小方直幸・高旗浩志・小方朋子(2018).大学の教育組織が教員養成に及ぼす影響と課題―小学校教員の複数教科指導に着目して―,名古屋高等教育研究,18,pp135-153.
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