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ビロードの掟 第7夜
【中編小説】
このお話は、全部で43話ある中の八番目の物語です。
◆前回の物語
第二章 夜の遊園地(4)
夜の遊園地は、昼とはまた異なる様相を見せていた。おどろおどろしさが増していると言えばいいのだろうか。まばゆいばかりのネオンライト、場内で反響するサウンド、ぐるぐると回り続けるメリーゴーランド。
なにかこの世のものではないものが突然飛び出してきても不思議ではない。それがなぜか、一定の高揚感をもたらす。何か新しいことが始まりそうな雰囲気があった。
———どうやら近くに「大人の遊園地」というコンセプトで、夏の間だけ夜の時間帯も営業しているテーマパークがあるらしい———。
小野寺を始めとして優里の提案にみんな乗り気になった。凛太郎は正直どこでも良かったのだが、その提案をしたのがかつての想い人であることに加え、このまま帰るというのも場の雰囲気的に気まずかったので、彼女の意見に従うことにした。
各々が一次会でそれなりに飲んでいたため足取りがフラついていたものの、 各々が一次会でそれなりに飲んでいたため足取りがフラついていたものの、優里が先頭に立って歩き始めてから5分後くらいに目的地にたどり着いた。
彼女の話によれば、その遊園地は建てられてから50年ほどの月日が経っており、長い歴史のあるレジャーランドらしい。これまで雑誌か何かで取り上げられているのは見たことがあったが、実際に足を運ぶのは初めてだった。凛太郎はアトラクションがきちんと動くのか少し不安になった。
中へ入ってみると、夜中だというのそれなりに人が入っている。もしかしたら自分たちと同じように半ば悪ノリで来た人たちが大半なのかもしれない。地図を見て回ると、もう昔を回顧する特集番組でしか見たことのないような、パンダやクマの動く遊具が置いてある。いずれもそれなりに年季が入っているように見えたが、暗かったためはっきりとはわからなかった。
「すげえ。戦後間もなく作られた由緒ある遊園地ってのは伊達じゃないな」と感激したように神木が言う。
「確かに!あ、あのジェットコースター私たちが乗ったら落ちたりしないよね?」とどこか楽しむような様子で芹沢さんが言葉を発した。
「ふふっ、心配しなくても大丈夫だよぉー。毎日ちゃんと点検しているみたいだし。最初に激しい乗り物だと、みんなお酒入ってるから下手したら戻しちゃう恐れあるよね。手始めに縁日コーナー行ってみよう」
ウキウキした様子で優里は手にしているアトラクションマップを掲げた。再び一行は彼女の後にくっついて園内を見て回る。縁日コーナーは輪投げや射的などがあった。
「いい歳して出店にあるようなゲームか」と池澤は言いながらも、結局1回300円の射的を5回もしたのは彼だけだった。凛太郎は輪投げに挑戦したが、5回チャンスがあるうち結局1回しか入れることができなかった。残念賞として縁日コーナーのお姉さんから白い招き猫を受け取る。
「あ、リンくん。相変わらずバランス感覚ないんだねぇ」
と優里がはしゃいだ声を出す。
付き合っていた時と同じ呼び方だった。優里の表情を見て、昔と同じようにドキドキしている自分がいることを凛太郎は自覚した。当然他のメンバーは二人の中を知っているので、どこかニヤニヤした顔で傍観している。どうすればいいのか凛太郎は判断に困った。
「あのなあ、そんな簡単にバランス感覚が身につくんだったらみんな苦労しねぇよ」
ぶっきらぼうな感じで凛太郎は言葉を口にした。そもそも、射的にバランス感覚は果たして関係あるのだろうか。
そのまま一行はいくつかのアトラクションに乗っていく。少し酔いも冷めてきたところもあったが、それでも久しぶりに来た遊園地はなかなか面白かった。最初はメリーゴーランドに始まり、次が水の上をゆっくりと進む白鳥ボート。凛太郎以外の人たちも、いい歳してみんな心から楽しんでいる様子が伺えた。
その中でも特に凛太郎はスペースロードと呼ばれるアトラクションが印象に残った。スペースシャトルに見立てられた発射台のようなレールを伝って垂直に乗り物が上がっていく。一番上まで登った時に、ぽっかりとまん丸の月が浮かび上がっているのが見えた。そして地上には小さくなった街々の明かり。それがなんとも美しい。と同時に胃が揺さぶられて、凛太郎は少し戻しそうになった。
一通り楽しんだ後、次第にみんなぐったりした様子になってくる。飲んだ後で行きつく暇もなくすぐにアトラクションに乗ると、なかなか体力の消耗が激しいらしい。「こりゃなかなか体に堪えるな。俺も歳かな」とポツリ神木がつぶやいた。
閉園時間まであと30分程度。最初のテンションとは裏腹に、もうこのまま帰るかという雰囲気になっていた。そこで再び優里が口を開く。
「皆さん、私のわがままに付き合ってくれてありがとうございます。おかげでとても楽しかったです。……最後にもうひとつだけみんなで行きたい場所があるんですけど、付き合っていただけませんでしょうか」
細い月明かりに照らされた彼女の姿が、やけに神々しく見えた。
<第8夜へ続く>
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