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【短編小説】卒業

澄み渡る空と、穏やかな陽光に包まれた卒業式の日。
今年は10年に1度と言われるほどの大雪に見舞われたが、厳しい冬の寒さも、春の訪れと共に静かに去りつつあった。雪が溶け、命が芽吹く気配がそここに漂っていた。

舞台に立つ卒業生たちの姿は、まるで花が一斉に開花したように美しく、逞しく輝いていた。その一方で、彼らの眼差しにはまだ少年少女の純真さが宿り、その端々に青春の輝きが滲み出ていた。過ぎ去った日々の思い出を抱きしめながらも、未来への新たな一歩を踏み出そうとしていた。

卒業式の幕引きに、彼らは再び集い、過去の出来事や思い出を語り合った。笑い声と涙が交差し、今まさに失われようとしている青春への切ない思いを胸に宿していた。彼らの心にはこの日の別れの光景が深く刻み込まれるだろう。

校舎を振り返り、名残惜しそうに校門をくぐって行く彼らは、まるで夜空に散りばめられた星のようだった。それぞれの軌道を歩み始め、一人一人が違う星座を描いていく。
こうして当たり前のような日常がある日を境に当たり前ではなくなる。二度としない行為や、二度と足を踏み入れない場所が、静かに背後に積み重なっていく。その重みを感じながら、遠い記憶の中でその当たり前を懐かしく思い出させてくれる。その時、心だけはひととき、この時代に戻るのだ。

卒業式が終わり、生徒たちが居なくなった教室や廊下は静寂に包まれていた。そこには友情や夢、苦労と笑顔が詰まった日々の余韻が、静かに漂っていた。




#卒業式 #短編小説 #掌編小説

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