対立より未来を 〜公認心理師Gルート問題に思う〜
こんにちは。公認心理師の藤田です。
先日、今年の公認心理師試験の合格発表がありましたね。合格された皆さまおめでとうございます。仕事や家事などをしながらの勉強は大変なので、喜びと安堵もひとしおだと思います。
さて、今回の記事では、心理職周りで度々話題になる「公認心理師Gルート問題」について、私が思うことを書いてみます。
1.Gルート・Gルート問題とは
心理職の国家資格である公認心理師は、2018年に第1回試験が実施されたばかりの新しい資格。受験資格にはいくつかの区分があるのですが、基本的には臨床心理士や、大学・大学院で心理学を学んで来た方々が対象です。ただ、第5回となる来年(2022年)の試験までは経過措置として、指定の講習を受けることを条件に実務経験5年以上の方にも受験資格(Gルート)が与えられています。
で、Gルート問題というのは、Twitter等で一部の臨床心理士さん等がGルートやGルートの公認心理師を叩く→Gルート組が反発・自分たちの正当性を主張する一連の流れを指し、便宜上こう表現してみました。
2.何故問題が起きるのか
私が見てきた限りですが、この問題における臨床心理士さんなど非Gルートの主な主張は、
・Gルート公認心理師は経験や体系的で専門的な知識、論理的思考力等が未熟
・Gルート公認心理師は信用できない
・Gルートは基準が緩すぎる
大きく分けるとこの3つに集約されると思います。臨床心理士さんは受験資格も厳しく、取得後も資格維持のため研鑽が義務付けられているそうで、彼らからすると「公認心理師」「心理職」としてひとまとめにされたくないのかも知れません。
また、こうした4種の業務について、さらなる自らの心理臨床能力の向上と、高邁な人格性の維持、研鑽に精進するために、「臨床心理士倫理綱領」の遵守、5年ごとの資格更新制度などが定められています。(公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会より)
私もGルート公認心理師ですが、2年半前、ある臨床心理士さん(公認心理師も取得)に、今年公認心理師を受験すると話したところ、初対面にも関わらず、臨床心理士がいかに優秀で特別か1時間ほど聞かされた経験があります。同じ職場にいたのですが、その後も物を隠されたり周囲に悪口を吹き込まれたりしました。
何故問題が起きるのか。私は2つの理由があると思います。
①否定で終ってしまう
非Gルートの方々の主張の多くは、「心理職」や「公認心理師資格」が世間からより高い信頼を得るものであって欲しいとの想いからでしょうし、Gルートの私からしても納得できるものもあるのですが、本意ではないにしろ、
・だからGルートは駄目
・だから臨床心理士の方が上
といった否定・批判で終わってしまうことが多いと感じています。誰だって、否定されたら嫌。自分を守りたいという心の動きが働いて、素直に相手の主張を受け入れなくなります。
②SNSだから
SNSは共感(心理職的にいうと同感になるのかな)を得るツール。同じような興味・考えの人と繋がることが出来る一方で、異なる・相反する考えの相手には真意が届かないものだと思います。ましてTwitterは限られた文字数。言葉の鋭さが増し、共感を得やすい反面、意図せず相手を傷つけ得る。だから反発が生まれるのではないでしょうか。
3.Gルートは劣るのか
そもそも、本当にGルートは非Gルートに劣るのか。これまでの公認心理師試験の結果で調べてみました。
第2回合格者内訳、第3回合格者内訳、第4回合格者内訳 (全て一般社団法人日本心理研修センターHPより)
受験ルート毎の合格率(第1回は公表されていないため2〜4回で集計)を計算してみたところ、
・D1ルート→58.8%
・D2ルート→63%
・Eルート→83.3%
・Gルート→49.2%
D1、D2、Eルートは大学院で指定された科目を履修してきた方々ですが、一目瞭然。Gルートだけ圧倒的に合格率が低いです。これは、Gルートの基準が緩いからだと私は思います。
Gルート、つまり現任者とは何が該当するのか。日本心理研修センターのQ&Aにはこのように書かれています。
現任者の要件に職種は含まれていません。業務内容について,勤務先の証明権限のある代表者が,公認心理師法第2条第1号から第3号までの内容があると判断して,受験申込時の実務経験証明書に証明した場合,職種によらず,現任者として認められる可能性があります。一般社団法人日本心理研修センターHPより
要するに、職種問わず勤務先の代表者次第、ということ。さらに、5年以上の実務経験も、その間週1のボランティアでもOKらしい。なので、経験の質も密度もまちまちで、色んな方がいることになります。また、「大学院で学ぶ」という制限もかからないので、地頭・論理的思考力も様々でしょう。
ただ、これはあくまで受験者の話。どのルートであれ合格した以上、公認心理師として認められる水準はクリアした、と言うこと。もちろん「どれだけ水準を超えているか」の差はありますが、それを以て批難されるべきではありません。個人的には臨床心理士の方が難しそうな気はしますが、そもそもが別物なので比べても仕方ないでしょう。
4.対立より未来を
ということなので、少なくとも一定の水準をクリアしたと認められた公認心理師を批難したり、公認心理師同士で対立するのは何も産みません。外から見たら、心理の専門家が何やってんの?となり兼ねません。公認心理師法にも、
第四十条 公認心理師は、公認心理師の信用を傷つけるような行為をしてはならない。(厚労省HPより)
という信用失墜行為の禁止が書かれていますし、まずいよね、と思うのです。
心理職に限らず、仕事とは「誰かを幸せにすること」だと私は思っています。心理職であれば、何かしら辛さ苦しさを抱えた方の支援をし、その辛さを和らげることになるでしょうか。知識もスキルも経験も、そのためにあるものだと思います。
『対立より未来を』
口先だけの胡散臭い政治家感のあるフレーズになってしまいましたが、公認心理師同士、折角なら未来について語り合いたい。議論を重ねたい。もちろん未来とは、いまより国民の心が豊かで幸せな未来です。今、そしてこれからの社会は、多様な生き方・働き方・価値観が認められ、共存していくことになります。それは、裏を返せば成功や幸せのレールが無くなり、各々が自ら歩んで行かねばならない、ということ。そこには多様な不安があるはずで、その支援者も多様で柔軟であるべき、だと思うのです。
なんだか壮大で抽象的で、ますます胡散臭くなってきましたが、未来のためにもまず、お互いを知ることが大事だと思います。というか、私は臨床心理士さんのことも、私とは違う分野で経験を積まれていらしたことも、実際はよく分かりません。
・何を学び、どんな方にどんな支援を行い、どんなスキルを磨いてきたのか。
・どんな成功と失敗を重ね、そこから何を得てきたのか。
・どんな価値観、信念を持ち、どのように人間性を高めてきたのか。
そうした対話の中で、互いの持っているもの・持っていないものを理解して行くこと。少なくとも私は、そこからスタートしたい。そう思っています。
やたらと長く、抽象的な記事になってしまいましたが、最後まで読んでくださりありがとうございます。
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