第4回 発掘調査はブートキャンプ③
展覧会をもっと楽しむ!“古代エジプト文明専門家”河合望先生インタビュー(全5回)
発掘調査では、まだ見ぬ古代の時代の遺物を誰よりも先に目にすることが喜び、と話す河合先生。長年の調査の中で、技術や手法などに変化はあったのでしょうか。
取材・構成:渡辺鮎美(朝日新聞メディアプロダクション)
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河合 望(かわい のぞむ)先生 プロフィール
金沢大学新学術創成研究機構教授。金沢大学古代文明・文化資源学研究センター副センター長。専門はエジプト学、考古学。30年以上にわたりエジプトでの発掘調査、保存修復プロジェクトに参加。
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――調査の中で好きな作業や時間はありますか。
いまは現場の責任者という立場ですから、自分が直接掘り出すことはあまりなくなりましたが、何か新しいものが見つかったり、掘り出されたものを確認したりする時は、やはりなんともいえません。
ローマ支配時代のものであっても紀元後1世紀ごろですから、今から2千年近くのあいだ、埋もれていたわけです。それを誰よりも先に目にする瞬間、感情は高ぶります。
サッカラ遺跡のカタコンベ入口周辺の撮影 © North Saqqara Project
――今回の新発見の瞬間もやはり「やった!」と高まりましたか。
といっても、実際に何かが出土する時というのは、冷静さを保つように努めてもいます。
発掘というのは手術と同じで、一度地中を掘る行為を始めると、二度と同じ状態には戻せません。考え方によっては破壊行為にもなってしまうので、真剣に慎重に掘り進める必要があります。発掘作業時の記録がしっかりとれているかも気にしていなくてはなりません。
どんどん掘り進めて新しい展開がある度に、その先を読みながら、メンバーと議論して取り組むのが調査のやりがいであり、面白さでもあります。
発掘現場で議論をする河合先生 © North Saqqara Project
――30年以上発掘調査を重ねる中でどんな変化がありましたか。変わらないことは。
どの分野でもそうでしょうが、アナログ技術からデジタル技術への移り変わりが一番ではないでしょうか。踏査の時にGPSで分布図を作成する際も、かつての発掘調査ではメジャーを引いて、平板と呼ばれる台の上に広げた方眼紙に図面を描いていましたが、今ではレーザー測量機ですし、対象を色々な角度からデジタル撮影し、ソフトが3Dに変換してくれる「フォトグラメトリー(写真測量)」というツールもあります。
発掘現場の3Dモデル作成のための撮影 © North Saqqara Project
ただ、大事なのは、機械で測れるようになったからなんでもできるわけではなく、自分の目で観察し、手を動かすということは今も変わらず大切です。
技術の進歩で多くの情報が得られたとしても、それが何を意味しているのか判断するのは人間ですから。私たちの側が「目利き」でなくてはならないと思います。手段の進歩に任せず、絶えず努力をしていかなくてはいけないな、という感想を持っています。
しかし技術の向上は、記録の精度の高さもさることながら、プレゼンテーション、つまり発信や発表のクオリティーを上げたといえるでしょう。本展でも、CTスキャン画像をみなさんに見てもらうことができますし、さらにミイラの内部の様子を3Dプリンターで立体的に見てもらうこともできる。それこそ技術の発展によるものだし画期的。隔世の感がありますね。
どういう形で生かすかは研究者自身の実力によるのです。
3Dモデルから作られた発掘現場の立面図像 © North Saqqara Project
――研究者としての、これからの展望を教えてください。
いまサッカラ遺跡で掘っているエリアは、調査できているのがわずか幅20m、高さ10数mの範囲と大変ピンポイントで限定的です。
サッカラという巨大なネクロポリス、広大な墓域の一部なのですが、このあたりがどういう場所だったのか、どのように墓地が形成されていったのか、周りに一体何があるのか――。さらに調べて古代エジプトの墓や埋葬習慣について明らかにしてきたい。
そして願わくは、自分が本来対象としている、ツタンカーメン王の時代の高官の墓の発掘をめざしていきたいなと思います。
――サッカラで、ツタンカーメン王時代の遺跡は見つかると思いますか。
可能性としてはかなり高いと思っています。
希望を持って、取り組んでいきたいですね。
(第5回につづきます)
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特別展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」
会期:2021年10月14日(木)~2022年1月12日(水)
会場:国立科学博物館(東京・上野公園)
※会期等は変更になる場合がございます。
※開館時間、休館日、入場料、入場方法等の詳細は公式サイトをご確認ください。