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更年期、どう乗り越える?
10月18日は「世界メノポーズデー」でした。更年期について理解を関する意識を高め、健康的にその時期を迎えるための知識やサポートを広めるために制定された日だそうです。
更年期は、子育てもちょっと落ち着いた方から、まだまだ思春期のお子さんを抱えて辛いことも多い。自分のカラダにもガタが来て苦しい、仕事上で責任のあるポジションに就く方もいて、お疲れが出てくるころです。
「Dらじ」では昨年に続き、更年期女性たちを応援したい!ということで、婦人科の先生をお呼びして、基本的なところから語り合ってみました。ゲストは大同病院産婦人科部長・高橋千晶医師です。
更年期とは?
イズミン まず「更年期」ってなんぞや、という基本的なところからお聞きしていきます。
タカハシ 「メノポーズ」とはそもそも「閉経」を意味し、その閉経の平均年齢が大体50歳ぐらい。その前後5年ずつを合わせた約10年間が「更年期」と呼ばれています。早い人だと40歳過ぎぐらいから、更年期障害の症状が出る方もあります。症状は多彩で、必ずしも病院にかかる必要はないのですが、それによって生活に支障が出ていて、治療が必要な場合に「更年期障害がある」と呼んだりしています。
イズミン ホットフラッシュとか、イライラしたり鬱々したりという症状が有名ですよね。
タカハシ そうですね、一番わかりやすいのが「ホットフラッシュ」、のぼせ・ほてりというものだと思います。これを感じて「更年期かな」と受診される方が多いですね。
イズミン 私は元々汗っかきだったんですが、頭のてっぺんの毛穴からワーッて沸騰するような感じがしました。汗のかき方もちょっと変わって、少し暑かったり、何かちょっとパニクったりしますと頭からバーッと汗が出て、笑い話じゃなくて「滝汗/タキアセ」という感じです。
タカハシ 同じようなことをおっしゃる方は大井ですね。みんなが涼しい中で1人だけ汗をかいているとか、美容院で快適な温度なのに、ザブザブに汗をかいて「暑いですか」と言われるとか、やっぱりちょっと恥ずかしいっていう気持ちがありますよね。
イズミン ほかにはどんな症状がありますか?
タカハシ 体のいろいろな症状が出ることがあります。めまいを訴える方は多いですね。ほかには動悸、肩こり、関節痛など。「この頃、手の関節が痺れた感じがする、痛いです。リウマチではないか」と心配される方も結構いらっしゃいます。
シノハラ 去年お話した「メノポハンド」、更年期に出やすい手の不調はここに該当しますね。
タカハシ 精神症状が出る方も多いです。よく言われるのはイライラですね。やはり忙しい人が多いものですから、家族に対するイライラ、仕事に対するイライラなどがひどくなるという方、また鬱々するという方も多いです。鬱々して夜眠れないといった情緒不安定的な訴えも多いです。
イズミン わたしは母の介護が大変になったときと重なったので、かなり精神不安定になりました。
シノハラ こうした症状は自然の流れだということを、周囲の人たちも理解してあげる必要がありますよね。そして更年期世代の女性たちを温かく見守っていくことが大事だと思います。
タカハシ 本当にそう思います。まずは身近な存在として夫の理解が必要ですね。職場などでも理解はしてほしいけれど、「あの人更年期だから」って言われるのはちょっと悲しいかな。
イズミン 昔は「更年期障害」という言葉に悪口的な感覚があったように思います。
シノハラ それはたぶん、十分理解していないからですよね。その人固有の資質ではなく、病気でそうなってしまうという概念がないから、悪口になってしまいます。更年期の症状としてそういうものがあって、実は本人も困っているということを周りの人が理解して、どのようにサポートできるかを考えて接していくことが大事ですよね。
原因は?
イズミン 更年期のいろいろな障害の原因というのはやはりホルモンなのですか。
タカハシ そうですね。更年期には卵巣の働きが落ちて、卵巣から出る「エストロゲン」というものと、もうひとつ黄体ホルモンの「プロゲステロン」という、いずれも女性の月経周期を司り妊娠や出産に関係をするホルモンの分泌がガタついて減少し始めます。そして閉経して女性ホルモンが分泌されなくなって起こる症状が更年期症状だと考えられています。
イズミン このエストロゲンは、お肌を綺麗に保ったり生活習慣病などから女性を守ったりしてくれていると聞きます。
タカハシ 女性ホルモンの分泌が減るとコレステロールが高くなってきたり、骨粗鬆症、つまり骨がスカスカになってきたりすることがよく知られています。肌に潤いを与えている作用も確かで、女性ホルモンが減ってくると特にオシモが乾燥したり、潤いが減ったりします。どこまでが女性ホルモンの影響なのか正直わかりませんが、やっぱりエストロゲンは、女性を女性らしく保つホルモンの代表ですよね。
シノハラ エストロゲンの役割とは、体の恒常性(ホメオスタシス)、つまり体の状態をうまく維持することに関連していると言われていますね。手の病気についていうと、関節が腫れたり筋が腫れたりするのは、それまでエストロゲンが抑制してくれていたものが、減ることで関節が腫れやすくなったり、筋がむくみやすくなったりすると言われています。そうやって体にいろんな障害が起こってくると考えられています。
イズミン 更年期の診断方法はあるのですか?
タカハシ そうですね。閉経の診断自体は、月経が1年なかったら、となっています。その前後5年ずつが更年期世代と言われますので、そこに片足を突っ込んでいることはわかりますが、ここがズバリ「更年期世代です」という診断はなかなか難しいです。
ただやっぱり月経周期が「もうこの頃バラバラで、3カ月ないと思ったら月に2回行きます」となると、もうちょっと生理はあるかもしれないけど、確実に女性ホルモンはバラバラしてきていると判断をします。
「採血でわかりますか」とよく聞かれますが、測ると女性ホルモンはそれなりに出ているんですね。ただ脳下垂体というところから卵巣を刺激するために出る卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)も一緒に測ります。これらは、卵巣の働きが悪くなると、頑張っていっぱい出てくるホルモンなので、それがすごく高くなっていれば、もう閉経が近いと判断をします。
シノハラ 総合的に判断するということですね。
タカハシ そうですね。例えば、48歳の人が「このごろのぼせて」と言われたら、月経が順調でも更年期世代かな、となります。48歳ともなりますと、28日周期で正確に来ていますという人は、それほど多くはありません。
治療は?
イズミン 症状はさまざまですが、原因はわかっているということで、治療はできるのですか?
タカハシ 女性ホルモンの分泌が減ることで起こる症状なので、やはり一番はホルモン補充療法(HRT)といって、毎日女性ホルモンと黄体ホルモンを足してあげる薬物療法があります。子宮がある人とない人でちょっと処方の仕方は変わりますが、飲み薬やパッチ(貼り薬)、最近は天然素材でできた黄体ホルモンの塗り薬も出てきていますから、その方の生活習慣に合ったタイプをオススメしています。
イズミン 女性ホルモンを補充するということは、ホルモンが減って、コレステロールが上昇したり、骨密度が減ったりっていう、そういうリスクに対する予防にもなるのですか。
タカハシ そうですね。閉経後の症状である脂質代謝異常などには多少有効ですが、逆にそのホルモンの薬にも副作用がゼロではないので、例えばリスクとしてすごく少ないけれども血を固まらせやすくする作用があるとか、長期で使うと乳がんや大腸がんのリスクが上昇する可能性があるとか、また閉経前の人には投与すると不正出血ずっと続くといったこともあります。個人的には、のぼせ・ほてりにはホルモン補充療法はよく効くので、それで困っている人にはまずそれを試しますが、例えば骨密度を減らしたくない、脂質異常症を抑えたいという人は、いわゆる骨粗鬆症の薬やコレステロールの薬で対応してはという話をしていますね。
イズミン 最近は新しいホットフラッシュの治療薬も出てきていますよね。
タカハシ 当院でも治験をやっていますが、ホルモン剤ではなくて、のぼせ・ほてりを起こす血管の障害を抑える薬です。1日に8回以上、のぼせやほてりを感じている人にその薬の適応があるとされています。
シノハラ 副作用が少なくて、症状を抑えたいという方には、漢方薬も選択肢に入ってくるのでしょうか。
タカハシ 漢方薬は、西洋医学の薬と違って、いわゆるエビデンスが基本的にあまりないものですから、サプリのようなイメージがあると思います。しかし、早い人だと1週間ぐらいで調子が良くなるという方もいて、当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸といった更年期の“御三家”は体格や症状に応じて使い分けています。それに加えイライラが強い、めまいがするといった症状に対し、頓服で別の漢方薬を追加したりします。非常にバラエティ豊かです。
シノハラ 体のバランスが狂う、ということを考えると漢方の考え方が合うのかもしれないですね。
イズミン 精神症状については、どんなお薬を使いますか。
タカハシ 結局、症状に応じた対症療法になるから、漢方薬でいけそうな人は心を鎮める効能のある薬を出すこともあります。「眠れない」という方には相談の上で睡眠薬を試しますし、欝々する症状がメインになってきている方には、心療内科受診をオススメします。
でも、だいたいそのうち、みんな来なくなっちゃうんです。そうなると「乗り越えたんだな」と思います。だから「更年期は忙しいし、閉経前後でホルモンがバラバラしてみんなしんどいけど、いつかは治るのが更年期障害だよ」とよく話しています。
シノハラ 逆に言うと、その時期に何らかの障害なり症状があれば、それに対して対処療法で乗り切るのも大事ですよね。
タカハシ そうですね。その間だけ症状を鎮めれば、比較的穏やかに生活できますし、薬を飲むのは嫌だとおっしゃる方も結構いらっしゃいますが、ある症状に対して治療を受けて、症状を抑えて、更年期をやり過ごしていただくのがいいと思います。
イズミン 女性は長生きしますから、50歳なんていうのはまだ半分ですし、更年期は必ず終わりますので、つらい症状は抑えて、頼れるものは頼って、たまにはゆっくりして、元気にアクティブシニア世代を目指していってほしいですね。
高橋先生、どうもありがとうございました。
ゲスト紹介
高橋 千晶(たかはし・ちあき)
大同病院 産婦人科部長。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医。
医師が死亡診断書を書くのは当たり前。でも「出生届」を書けるのがいいと、産婦人科医を志す。思いやり深く、サバサバした感じが患者さんに人気。コロナ前はママさんバレーにチャレンジしていたが手指を脱臼骨折して最近はゴルフをたしなむ。深夜のローカル番組「道との遭遇」(CBCテレビ)にはまるなど、マニアックな側面も見せる。