蔦屋重三郎関連本がたくさん刊行される―読書月記58
(敬称略)
今年は大河ドラマ『光る君へ』を第1回から観ていて、たぶん最後まで観ると思う。大河ドラマを一年通して観るのは、1979年に放送された『草燃ゆる』以来である。通しで観る気になった理由は単純で、紫式部が主人公であること、平安時代についてあまり詳しくないので興味をそそられたからである。ドラマとして考えれば、可も不可もなしという感じだが、上の2点に関しては満足している。
そして、来年の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺』も観るつもりだ。こちらは、江戸時代の出版に興味があること、18世紀末から19世紀初頭の江戸時代に興味があることが理由だ。
この辺りのことは、『べらぼう』の制作が発表されたあとの『読書月記41』にも書いている。
ドラマについては始まってみないと何とも言えないが、江戸時代の出版について興味がある私にとって、すごく嬉しいのは「蔦屋重三郎」がらみの本が大量に刊行され、さらに増えていることだ。先日、e-honで書名に「蔦屋重三郎」が入る本を探すと、47点がヒットし、なんと27点は2024年7月以降の刊行。「蔦重」でも検索すると8点がヒットし、2024年1月以降が4点(なお、8点のうち1点は、蔦屋重三郎とは関係がない)。要するに、いわゆる「便乗商法」「あやかり商法」なんだけど、とにかく江戸の出版に関する本が刊行されるのは嬉しい。
当然だけど、蔦屋重三郎についての専門書は以前から出ているが、価格がややお高いものが多い。また、専門書なので、内容もそれなりである。東洲斎写楽に関する本は以前から多かったが、メインは写楽であって、蔦屋重三郎ではない。しかし、この時期に刊行されているものは、大河ドラマが前提になっているため、蔦屋重三郎がメインだし、文庫・新書を中心に比較的安価なものが多い。しかも、鈴木俊幸の『蔦屋重三郎』(平凡社ライブラリー)のように品切れ扱いだったもので復刊されたものもある。
これまでに出た「蔦屋重三郎」絡みの本の参考文献には、鈴木俊幸ら研究者の本が並ぶ。それは今後に出てくる本も同じだろう。今回出る本のほとんどは、こういった研究者の仕事がベースになっているようなので、新たな知見がどんどん書かれているとは思われないし、大半は一般読者向けなので、基本的な知識に関しては似たり寄ったりになるのも仕方ない。また、美術史や浮世絵が中心の場合は、私の興味と合わないと思う。それでも、数が多ければ、それなりのレベルのものもあるだろうし、ひょっとすると作者の文章などに魅力を感じて、その作者の別の本に触手を伸ばす可能性もある。ということで、可能なかぎり買う予定だ。
考えてみると、本を読む人でも、「出版」に興味がある人はそれほど多くない。生存や健康に直結する食べ物でさえ、安全性などはともかく、美味しければ、それ以外のことには関心を示さない人もいる。
まして、エンターテインメントやハウツー本、自己啓発本、ベストセラーが興味の中心である人にとって、かつては写本が中心だったとか、印刷の歴史、出版物の検閲や発売禁止などは、どうでもいいことだろう。
ただ、自分が好きなこと、興味があることに、多くの人が興味を持って欲しいというのは、大半の人が抱いている心情だ。
1980年代の半ば、『風雲児たち』にハマったものの、周囲に同作のファンは極めて少なく(2人ぐらい)、新刊を売っている書店はほとんどなく、入手することさえ簡単ではなかった。あの時点で、みなもと太郎が後に「歴史マンガの新境地開拓とマンガ文化への貢献に対して」という理由で手塚治虫文化賞特別賞を受賞することやテレビドラマ化されたり、歌舞伎化されるなんて夢にも思えなかった。
そして『べらぼう』である。もちろん、『風雲児たち』と『べらぼう』に直接の関係はない。ただ、『風雲児たち』の白眉とも言うべき蘭学の黎明期と『べらぼう』で描かれる時代は極めて近い。共通する登場人物もいる。田沼時代の〝自由〟な雰囲気も似ているだろう。
今から楽しみで仕方ない。