気候変動と世界観の変革を結び付けて考える『これがすべてを変える―資本主義VS.気候変動』(ナオミ・クライン/岩波書店)
著者が本書に書いていることは、ある意味では極めて簡単だ。気候変動(地球温暖化)ということを考えると、人類に残された時間は少ない。だが、今なら間に合う。しかも、現代の世界が抱えている様々な問題を一気に変えるチャンスでもある。
気候変動を問題とする人はもちろんだが、気候変動を否定する人、考え方としても政策的にも折衷派というべき人たちにも著者は取材を重ねながら、事実を積み上げていく。その幾つかについては、漠然と知っていたこともあるが、気候変動派に与していない世界銀行や国際エネルギー機関でさえ、4度ないしは6度の上昇を予測していること、大規模環境保護団体の実質的な背信など、この手の問題に多少興味があるぐらいの私だと、知らないことがほとんどだ。
そして、本書の最大のポイントは、著者がサブタイトルに示したように「資本主義」を、それに支えられた「強欲主義」とも言えるイデオロギーを、気候変動の根本問題として捉えたことだ。気候変動を否定するイデオロギーを発信し続ける右派のシンクタンクに寄付が集まること、気候変動そのものがビジネスチャンスとなっていることなどに対する指摘がそれを示している。さらに気候変動の科学的事実を多くの人が認めながら具体的な動きが進まない、現代社会の在り方に対する問いかけでもある。ただ、著者は単純に「資本主義」を批判しているわけではなく、これまでの社会主義国家の実態、中道左派の経済政策などに潜む従来の採取・搾取主義的なイデオロギーにも批判を投げかけている。そして、科学が発達し、社会も組織化された今だからこそ、この危機を乗り越え、しかも強者がより勝ち、弱者がさらに負け続ける今の社会構造・システムを変えられるのでは、と訴えている。
私事で恐縮だが、平均寿命以下で死んでも構わないと思っていた。それが、最近変わってきた。日本や地球の未来を、新自由主義経済や地球の気候がどうなるのかを自分の眼で見てみたくなったのだ。本書を読んで、改めてその意思が強くなった。