月に1冊も本を読まない人が6割超〈2023年度の「国語に関する世論調査」〉が明らかにしたショッキングな数字ー読書月記57

ここしばらく、出版業界の危機に関するニュースが多い。少し前までは書店減少のニュースが多かったが、最近では雑誌がおかれた状況の深刻さ、さらには赤字化している出版社が増加しているなど、出版業界全体に関わるニュースが目立ってきた。

9月17日、文化庁が発表した2023年度の「国語に関する世論調査」(インターネットで検索すると誰でも見ることが可能である)で、かなりショッキングな数字が明らかになった(この調査は、16歳以上の6000人を対象にしたもので有効回答数は3559人)。それは、月に1冊も本を読まない人が62.6%にのぼるという数字だ(この場合の書籍とは電子書籍を含む。ただし、雑誌とマンガは含まれていない)。2008年度、2013年度、2018年度の調査では、「月に1冊も本を読まない人」(以後、「不読者」と書く)がいずれも40%台後半だったものの、5割を超えることはなかった。それが、今回は5割どころか、一気に6割を超えてしまった。しかも、2018~2023年度の間にはコロナ禍があり、その間、巣ごもり需要によって書籍の売り上げが伸びていたのだ。それなのに「不読者」が増加していたのだ。このままでは、ひょっとすると、5年後にはもっとショッキングな数字が出てくるかもしれない。

読書に関する調査のなかから、いくつか気になるものをピックアップしてみた。まずは「1か月に1冊以上読んでいる」人(全体の36.9%)に対する質問である。
最初は「読む本の選び方」。これは「書店で実際に手に取って選ぶ」が最も多く、57.9%だが、減少傾向にある(2008年は74.0%。以下、断りのない場合、カッコ内は2008年の数字)。一方で「インターネットの情報を利用して選ぶ」は33.4%(2008年のデータはなく、2013年は23.6%)。「図書館や図書室で実際に手に取って選ぶ」は25.0%(23.0%)。「友人や知人、家族などから勧められたものを選ぶ」は11.8%(20.6%)。「既に家にある本の中から選ぶ」は10.7%(6.7%)。
インターネットの情報を利用する人が増え、周囲にいる人からの情報、いわゆる口コミが減っている。これは「不読者」が増えたことと関連しているかもしれない。本を読まない人が増えれば、当然のように本について話をする機会も減少していくからだ。
また「読書量の変化」に関する質問で、全体の69.1%が「減っている」と回答しており、さらにこの人たちに理由を質問したところ、「情報機器(携帯電話、スマートフォン等)で時間が取られる」が43.6%、「仕事や勉強が忙しくて読む時間がない」が38.9%、「視力など健康上の理由」が31.2%。この3つが30%を超えている(12の選択肢から、2つまで回答できる)。他はいずれも20%以下であり、「魅力的な本が減っている」は7.7%、「近所に本屋や図書館がない」は6.0%だった。

このデータから感じたのは、読書離れの原因として、スマホもしくはネットが大きな原因と考えられてきたが、それが正しい、ということである。しかし、同時に意外に数字が高くない、というのが私の印象だ。考えてみると、30歳以下の場合、物心ついた段階でスマホが身の周りにあったはずだ。要するに最初から読書よりもスマホを選択した人にとって、スマホが時間を奪うという考えにはならない。その世代の場合、受験勉強や仕事こそ、時間を奪うものなのかもしれない。
もう一つは、読書量の減少に理由としては、本の内容・質、本と出会う機会の少なさは、必ずしも大きな理由でないということだ(ただし、後者については1冊も読まない理由である可能性は否定できない)。

この調査を読んで感じたのは、私が考えてきたことのいくつかが間違いだったということだ。単純に「本と出会う場所を増や」したとしても、読書量を大きく上げる効果がない可能性があるということだ。また、出版社が優れた内容の本をいくら刊行したとしても、やはり同じだということだ。もちろん、全く無駄ではないが、効果を上げるにはもっと端的なものがあるということだ。
「情報機器(携帯電話、スマートフォン等)で時間が取られる」「仕事や勉強が忙しくて読む時間がない」「視力など健康上の理由」が主な理由だったが、この中で、出版社がどうにかできるのは、「仕事や勉強が忙しくて読む時間がない」だけだろう。ただしこれは、今の日本に蔓延る、受験地獄、働きすぎを変えるということである。
もう一つ大事なことは、この調査は「国語に関する世論調査」であって、読書に関する部分は一部だ。出版業界全体のことを考えるなら、もっと本格的な読書に関するアンケートを行い、調査結果がこれからの対策に結びつくような調査項目や分析がなされなければ意味がない。それなら現在の出版業界でも可能だ。
出版社もマーケティングを行っているだろうし(新雑誌創刊などの時、特に力を入れた場合は必ずしているはずだ)、雑誌などでも毎号アンケートを集めているし、書籍でも読者から届く意見は目にしているだろう。また、私は知らないが、上で書いたようなアンケートが行われたことがあるのかもしれない。。
しかし、それらが本当に生かされているのだろうか?

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