トンボさん、ナマステ
インドカレー屋の前に置かれた看板に、今日のカレーのラインナップが書かれている。
スパイシーチキン[辛い]
マトンカレー[スパイシー]
バターチキン[甘い]
かぼちゃカレー
豆カレー
野菜カレー
「辛いとスパイシーの違いってなんだろうね。」と、奥さんは言った。
「スパイシーの方がヒーヒーしてそうじゃない。」
と微妙に思われそうな返しをしてしまった。
辛い方もヒーヒーするだろうし。
列に並んで15分ほど待って、
やっと席に座れた。
ぼくも奥さんも6種類の中から3種類のカレーが選べるBセットを注文した。
米かナンかを選べて、2人とも米でカレーを食べたかったので、米にした。
ただナンも食べたかったので、単品でガーリックナンを1枚注文した。
ぼくはスパイシーチキン、マトンカレー、バターチキンカレーの3種にした。
全員アタッカー気質の選出だ。
奥さんはスパイシーチキン、野菜カレー、豆カレーを注文。スパイシーチキンを騎馬の上に立たせた、なんともバランスの取れた組み合わせだ。
今日は赤ちゃんすごく元気で、ずっと起きてて「ああぁーーあぁあー」と唸っていた。
なかなかじっとできず、左手で赤ちゃんを抱きつつ、右手で慎重にカレーをスプーンですくって、なんとか食べた。
左手が使えないとナンをちぎれないし、米にしてよかったと食べながら思った。
2人でシェアするガーリックナンは奥さんが小さくちぎってくれた。
赤ちゃんがほんとに寝なかった。
時折り、奥さんが抱っこを替わってくれて、その間にカレーをそそくさと食べた。たまに外に出たりして、数分して帰ってきてもやっぱり寝ていなかった。
スパイシーな香りが赤ちゃんを刺激したのかもしれない。
赤ちゃんを、ぼくと奥さんで何度かパスを重ねても、なかなか入眠という名のゴールネットを揺らすことができず、途中隣に座っていた子連れのお母さんのテーブルに置いてあった、メニューにパスが阻まれ、メニューが落ちてしまった。
横で何度もパスをまわされた挙句、メニューも落としたので、隣からホイッスルを鳴らされるかもしれないという気持ちがここで始めて生まれた。遅すぎる。
「すいません。」と声をかけたら「全然大丈夫です。」と、本当にそんなことないよ、みたい顔で言ってくれた。
謝った人は同じく子連れ、味方チームの人であった。
夫婦間で会話のパス回しはほとんどすることなく、とうとう食べ終わった。
でも、カレーは美味しかったし、赤ちゃんは常にかわいいので、これはこれでいい時間を過ごせたように思う。
お会計は奥さんに任せて、ぼくは先に赤ちゃんと外に出た。
その後は商店街を通り、薬局とスーパーに寄って、少し遠回りしながら、散歩して帰った。
秋晴れだったこの日、いつもより少し透き通ってみえる空を見ながら、秋について話したんだけど、内容は忘れてしまった。
帰る途中、奥さんが指差した先に、日光を背中で浴びている赤とんぼが、人ん家の門にとまっていた。
光が羽に反射して、やけに綺麗に感じた。
赤とんぼの赤は、ほんとにいい赤をしていた。
今日はカレーを食べてトンボ見つけたぐらいしか、目新しいことがなかったけど、結構スパイシーな日だった。
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