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中長距離走に必要な能力 ~生理学的な観点から~⑤
こんにちは。運動生理学シリーズ第5回目はランニングエコノミーについてです。
ランニングエコノミー(RE)という言葉を聞いたことはありますか?どこかで聞いたことが人は多いと思います。そして何となく「効率の良い走り」というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。ざっくり言ってしまえばそうなのですが、ランニングエコノミーって意外と難しくて、よく分かっていないことも多いです。
①ランニングエコノミーとは
REとは、「走の経済性」、つまりどれだけ経済的に走れているか=省エネで走れているかの指標です。この「経済性」は酸素消費あるいはエネルギー消費を指します(厳密には効率とは異なります)。
通常REはO₂コスト(1km走るのにどれくらい酸素を使うか)で評価します。
計算式 O₂コスト=VO₂/km・minー¹
例:18km/h(3分20秒)の時のVO₂が60ml/kg/minの場合
60/0.3=200
この数値が低ければ低いほどエコノミーが良い、となります。
VO₂maxは基本的に高ければ高い方が良いですが、O₂コストは低い方が良いです。同じペースで走るなら酸素をあまり使わない方が省エネですよね。
②ランニングエコノミーとパフォーマンス
REはパフォーマンスと相関が強いです。その理由は一定以上のレベルのランナーはVO₂maxがあまり変わらないからです。VO₂maxは私自身も研究で何度か測定したことがあります。すると5000mが15分台のランナーでも70ml/kg/minを超えくる場合がありますし、逆に14分台のランナーでも60ml/kg/minしかない人もいます。世界レベルのエリートランナーでも70ml/kg/minくらいの人もいてVO₂maxだけでは競技力の差を説明できません。
その差を説明する主な要因がランニングエコノミーです。VO₂maxが同じ3人のランナーを比べてみました。最大値は同じでもある速度でのVO₂はCが最も低いですよね。よって高い速度でVO₂maxが出現します(vVO₂max)。したがってCが最も速く走れる可能性が高い、と言えるでしょう。
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③ランニングエコノミーとVO₂max
一般的にはVO₂maxとREはトレードオフの関係と言われています。どちらも優れているのが理想ですが、VO₂maxが高くREも高いランナーはなかなか存在しないのです。
実際には分かりませんが、もしどちらも優れたランナーが存在するならエリウド・キプチョゲでしょうか。
④ランニングエコノミーを決定する要因
・生理学的要因
VO₂から算出するので、必然かなと思います。私はvVO₂maxが高いほどエコノミーが良い、と考えていますが、エコノミーが良いからvVO₂maxが高いのでしょうか?鶏が先か、卵が先か的な感じですね。解糖系の寄与率も関わってきそうなので筋線維組成も影響するでしょう。
・バイオメカニクス的要因
REはバイオメカニクス的要因によって50%説明できると言われています。バイメカはランニングフォーム的な領域ですが、ランニングフォーム=見た目のきれいさではない、ということは重要です。
地面反力や関節角度、ストライド長やストライド頻度(ピッチ)、上下動など見た目だけでは判断できないからです。バイメカは専門でないため詳しくはありません。ただ興味はあるので、勉強していきたいと思います。
・解剖学(人体の構造)的要因
筋、腱などの形態のことです。例えばふくらはぎは細い方が良いと言われますよね。確かに、末端が重い→内的エネルギーが大きくなる→エコノミーが悪くなる可能性はありそうですね。このあたりも全然詳しくないので勉強していきたいところです。
・心理的要因
心理的要因は関係あるの?と思います。実際にはあるっぽいですが。良い精神状態によってVO₂を低く抑えるホルモン分泌みたいなものがあるのか?なども今後勉強していきたいと思います。
以上のようにランニングエコノミーって色々な要素が絡み合っていて、実際よく分かってないんですよね。それに本当に必要かも分からないです。マラソンは2時間以上走り続けるので必要なんだろうと。でも5000mは15分くらいで終わりますよね。経済性が必要なのでしょうか?このあたりも含めて科学で説明できることって以外と少ない?と思います。
⑤ランニングエコノミーを改善するために
REを改善するために、筋トレしましょう!、プライオメトリクストレーニング(ジャンプ)しましょう!、ドリルをしましょう!と言われます。 これらは全て効果がある、というよりも走練習含め全ての練習においてREを向上させることは可能であると思います。
私的には、ランニングエコノミーを高めよう!と思ってトレーニングすることはあまりありません。筋力を向上させる、パワーを向上させる、スピードを高める、ゆっくり長く走る、、、全てのトレーニングを適切に行なった結果、自然とエコノミーが良くなるのではないか、と考えています。
こんなところで終わります。読んでいただきありがとうございました。