ピッタリは善?悪?
建築技術を表す一つの指標として、
隙間なくピッタリと納める技が評価されます。
日本では、1000年以上前から木造建築が造られてきましたので、
木を加工する大工技術の高さとして、
隙間の無い加工技術が評価されてきました。
しかし、その隙間の無さについては、
少々勘違いもあるのではないかと思います。
■計算づくの隙間の無さ
1、隙間も計算されている
木造建築の場合、
新築完成時点では隙間があることも珍しくありません。
なぜなら、
将来的な木材などの変形を想定しているからです。
建築の道を志してから、このことを知った時には衝撃を受けました。
木材が乾燥や湿度、日射などによって膨張収縮、曲り、反り、などの変形を起こすことは感覚的にも理解出来ましたが、それがどのように、どのくらい起こるのかと言うのは、予想出来るとは考えもしませんでした。
それらを経験や知識で予測し、
あえて隙間を造り、将来、加工された材料たちが自分で隙間を埋めていく技術は大工技術でも最高峰だと私は感じています。
そろそろ見られなくなってしまうのが残念です。
2、窓の隙間は限りなく少なくなってきました
一方で、
木製の窓からアルミや樹脂のサッシへと変わってきた窓などの開口部では、昔に比べて著しく隙間が小さくなりました(気密性)。
特に、一般的な引違いの窓に比べて
開きタイプの窓については気密性が高く、
最近の新築住宅では多用されています。
若干、開け閉めが面倒なのと、耐久性について心配な面はありますが、
数値重視の家づくりが主流の現代ではしかたのないところです。
■隙間なく置くのは良くない
1、かえって効率が悪くなる
建築本体については、なるべく隙間が無い方が良いのですが、
物を収納する際には、隙間があった方が有利なことがいくつかあります。
例えば、冷蔵庫、
よく言われるように、冷蔵庫や冷凍庫内に詰め込み過ぎると効率が悪くなります。
冷やしたいものの周囲に冷気が回るように隙間(スペース)を空けられるようにゆったりと収納するが効率が良いです。
2、家電製品は隙間を空けて設置する
冷蔵庫で言えば、中の事だけではなく、
設置の際に側面や背面、上方にスペースを空けて設置するのが望ましいです。
その他の家電製品についても、
稼働時に熱を発することもありますので、周囲には隙間を空けて設置しておかないと、製品の劣化を早めたり、効率が悪くなったり、することもありますし、更には、建物への影響も出てくる可能性もあります。
ピッタリ納まっている方が見栄えは良いかもしれませんが、
出し入れもしづらいですし、掃除もしづらいので、
見栄え以外はほぼメリットが考えつきません。
3、家具は隙間を空けないで済むように考える
一方で、
書棚、食器棚、タンスなどの大きな家具の場合は、
なるべく隙間を空けずに配置し、
出来れば、固定する のが望ましいです。
特に、コンセントなどがの配線が必要な食器棚(家電収納)の場合には、
コンセントの差込口の位置などを含めた配置計画をしておくのがお勧めです。
また、ロボット掃除機の普及により、ソファやテーブル・椅子、その他の家具についても掃除機が通れるスペースを確保することも一般的になって行くものと思います。
■隙間 ≠ 悪 ではない
住宅の気密性の高さを売りにしているハウスメーカーはたくさんあります。
「弊社が造る住宅はC値が〇〇cm²/m²ですよ!」
という謳い文句はよく見かけると思います。
気密測定を行い、
その住宅がどれ程隙間があるのか、を調べ、競い合っています。
そして、隙間が無いので、
機械で強制的に換気を行う家 を造っています。
ちなみに、
そうした家では極力、窓は開けないでください。
窓を開けたらせっかくの気密性の高さが台無しになってしまいますので。
過去に、私どもも気密性の高さを売りにした住宅も手掛けていました。
省エネ性能も高く、今でもお施主様には大変ご満足いただいています。
しかし、
時代の変化と共に私どもの家づくりの考えも変化(進歩?)していく中で、無垢材を使った住宅、自然光や自然風をたくさん取り入れた住宅、へとシフトしてゆき、隙間はもちろん減らしていきますが、それだけに捕らわれずに、暮らしやすさを追求していきたいと考えるようになりました。
暮らしやすさを度外視した数値重視の家づくりでは、本末転倒だと思っています。
全てが機械で管理される住宅も悪くはないですが、
自然も取り入れられる【隙間】はちょっと残しておきたいものです。