経済安全保障-雑感的序論-
日々感じている事
ここ数年(これを書いた時は2018~19年)の日本企業(特に製造業)の業績発表の枕詞には「米中貿易摩擦による中国需要の減退により・・・」がおしなべるように述べ添えられていますね。益々、企業の事業戦略ひいては国全体の産業政策が、外交、政治、軍事、国際情勢と密接不可分である意識が顕在化してきたと思います。
私は普段、製造業を中心とした日本のトップティア企業/経団連系、30~50代後半のミドル~シニア幹部と会話する事が多いのですが、冒頭前述の様な”枕詞”が象徴する、国際情勢が企業活動に及ぼす影響やそれを生み出している歴史的潮流に理解のある方には中々出会う事ができない、というのが日々の感覚であり、それはちょっとした違和感でもあります。
2010年くらいからでしょうか、私が生業としているITサービスの界隈では、”グローバル対応”なるものが商売上の主題になる事が多かったです。グローバルサプライチェーン、グローバルIT標準化、グローバルロールアウト、、はたまたGDPR対応等々、、日本企業が世界に展開した事業の運営基盤を整えようという動きだったと記憶します。それだけ財・モノ・サービス・人が国境を越えて動いてたと思います。
これだけ”グローバル化”した経済活動を営んでおきながら、国際情勢やその情勢を生み出す歴史的な必然・蓋然性、翻ってそれが自身の生業にどのような影響を及ぼすのかについて理解を持つ人が意外に少ないのです。
おそらく日本の企業人の意識には、国際情勢/政治経済は日々の経済活動の外側にあるもので、あまり自分事になっていないのではないかと感じます。国際政治情勢なんぞ雑談ネタに使えば、きな臭いやつとさえ思われそうな空気感もしばしばあります。
少なくとも現下の国際情勢を踏まえれば、日本企業が“グローバル化”そのものの是非や意味を近い歴史も振り返り、そこから今後の情勢に通じる普遍性を得ながら事業運営を行う様な振る舞いがより一層必要になる時代に入ると思います。おそらく、各社の経営企画部や経営幹部も考えている事でしょう。
しかし、実際に表層に見えるのは業績影響に対する枕詞程度のことしかありません。
新たな思考の入り口
“経済安全保障”という言葉に出会い、今のところこれが最も現世我らが捉えるべき情勢を表していると感じます。(ちなみに経済安全保障という言葉や概念は、1960年代から国際政治の界隈で利用されているので、この言葉自体がとても新しい造語や斬新な何かではないのですが、古くて新しい概念なのでしょう)
”安全保障”という語感からすれば、一見、防衛、軍事的ニュアンスに寄っている感もあります。ただ、この古くて新しい概念の発生主因である米中の相互敵対法制、中国の国家大望を踏まえれば、現下は戦時と見て然るべきで、その情勢認識に基づけば経済安全保障が決して局所的なお題ではない事がわかります。
現下の政経混合化した世界情勢と自らが身を置くIT/デジタルサービス産業、また日々接する日本企業の行く末、これらがつながりをもった何かである事を少なくとも私にとっては”経済安全保障”という言葉が一旦規定してくれました。
現世生きる我々企業人にとっての主題として、書籍・見識に触れた際の思考録を残し、2030年以降どこで何をやっているかわからぬものの、何かに活かしたい、そんなノートです。
(初稿2018年中のいつか)