天狗の台所
毎週気になるなんて何年ぶりだろう?
アマゾンプライム以外のほとんどのドラマを見なくなった私が見始めたドラマがある。
天狗の台所シーズン2だ。
もちろんシーズン1は見ていないから、
アマゾンプライムで後追いで一気見をしてすっかりハマってしまった。
どこが魅力なんだろう。
やっぱり私は自分が出来ないのにスローライフに憧れているし、なにより食べものがとても美味しそうな作品が大好きなせいだ。
天狗の台所の舞台はとにかく田舎だ。
あふれんばかりの大好きな緑の世界。
その緑あふれる田舎道を大きなトランクケースを引きずりながら歩いている14才のちょっと茶髪な男の子がいる。彼はニューヨーク在住のなんと天狗の末裔らしい。
日本で天狗といえば、高下駄を履いて
背中に大きな翼を持ち、大きな鼻を天高く伸ばして森の木々を飛び跳ねているイメージがあって、
かの源義経が牛若丸の頃に京都の山奥で修行して天狗さまから八双飛びを伝授されたという、牛若丸のお師匠さまであるらしいけど、可哀想に「思いあがった人や態度」の呼称でもある。
このドラマに出てくる天狗の末裔は、世間でのイメージを払拭するぐらいにとても控えめで礼儀正しくて真面目で質素に暮らしてスローライフを実践している。
さっき紹介した茶髪の14才の男の子は「オン」と呼ばれて、この村に住む彼の兄の基を訪ねてやってきた。
基は、この緑深い天狗の村の「当代」と呼ばれる
天狗の末裔で彼によると先祖還りらしくなんと背中に小さな翼ならぬ羽根が生えている。
そんな小さな羽根では、空も飛べないらしい。
この村には先祖代々天狗伝説があり末裔一族の子供たちは、14歳になると一年間人里離れた村でひっそり過ごさないといけないという、きまりがあるそうで、基とオンの両親は、ニューヨーク在住の天狗族の末裔だが、きまりに従って14才になった長男の基を村に送り出して一年間を過ごさせたらしい。
基は当時の先代の元で一年間、まるで「ジブリの魔女の宅急便」のキキが魔女の修行に出たように、天狗のきまりに従ってこの村で人里離れて一年間を過ごし、修行の終わりに高熱が出て、それまでなかった背中に天狗族としては200年ぶりに小さな羽根が生えてしまったらしい。
そのせいかニューヨークには帰らずに、そのままこの村で天狗族の跡継ぎになって、ずっと暮らし続け、
村人には「当代」と呼ばれている。
彼の弟の「オン」は、兄とは、ほとんど一緒に暮らしたことのない年の離れた兄弟だから、天狗の末裔と言われても何を言われているのかわからないと不満がいっぱいでニューヨークから人里離れた村にひとりで送り出されてしまったらしい。
「オン」は、ほとんど記憶になかった兄との村での生活も、刺激の強いニューヨークからやってくると異次元に放り込まれたようで受け入れられない気持ちでいっぱいなのだ。
そんな「オン」が背中に羽根のある兄の基のそばで生活をはじめて、少しずつその生活に馴染んでいくのだ。
基の生活は、ほぼ時給自足。
田舎暮らしの古い一軒家で、畑で野菜を育てて薪を割り、水道も出るが、山の中の清流の湧き水を汲みにいき、その季節で取れるもので暮らしている。
畑の野菜は色鮮やかでつややかで大きくて、
そのとれたての野菜をその日の食事のために、
ザルを持って収穫するのだ。
取れた野菜をひとつ、またひとつと綺麗に磨いてザルに並べる艶やかさ。
野菜を丁寧に洗って、まな板の上で包丁で切っていく美しさ。ガスコンロの火でフライパンに油をひいて料理をする、じゅうじゅうなる音。
手際よく美しい料理を作る時にかかるのんびりした音楽。野菜も料理もそののんびりした音楽に合わせて魔法がかかったように美しく美味しい料理に変身していく。
質素な座卓にところ狭しと並べられた
美しく手の込んだ食事は見るからに美味しそうで、「いただきます」と手を合わせて心からの言葉を言えば、必ず基は「召しあがれ」と言葉をかけてくれるのだ。
そして料理を口に入れた音。美味しい顔。笑顔。
それをひとつひとつ丁寧に取り上げて、美しい映像にしていく。
物語りは天狗の末裔という驚きの設定だし、
緑深い田舎の村の一軒家に住む一見、今どきの真面目な青年は背中に天狗の羽根を持っているし、
その村で人里離れて一年間、天狗族の末裔の14歳の子供たちは過ごさないといけないという驚きのお話しなのだけれど、その生活ぶりは、地に足がついていて、日々の生活や季節の移り変わりが美しくて、やっぱり自然がいいな。自分の食べるものが目の前で取れるっていいな。野菜ってこんなに美味しそうだったかな。
日差しが綺麗だな。
緑が深いと心が和むな。
流れる水が美しいな。
その水で割って飲むお酒やお茶が美味しそうだな。と映像でご馳走をずっと見せられている気持ちになるのだ。
これと言って大きな事件が起こるわけでもないし、
悪い人が出てくるわけでもない。
主人公に上昇志向なんてものはカケラもないし、
丁寧に質素に慎ましく真面目に暮らしていく、
そんな日々の生活を丁寧に見せてくれるだけなのだ。
なのになんて贅沢に時間が流れているのだろうと思ってしまう。
シーズン2の放送が始まったってことは、
そんなふうに思った人が多かったってことだよね。
時は流れていっているのだと思う。
ひさしぶりに見たドラマに出ている若い人たちを
誰も知らなかったよ。
でもみんな素敵な人たちだ。
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