シン・仮面ライダー感想・歴史と優しさを映すフィルム
3月17日18時、遂に「シン・仮面ライダー」が封切られましたね。
私はTOHOシネマズ日比谷での舞台挨拶中継で友人2人と鑑賞、三人とも翌日の都合がありあまり語れずに解散となった心残りがありました(汗)。
そして私は18,19日と続けて仕事の後に行きました。
「最低三回は観ないと、その映画を解説できない」
とは、某有名映画解説者の持論ですが、それに則って3回観たので感想をまとめたいと思います。
無論、まだ観に行きますけどもおそらく印象は固まったと思われます。
50年分の、何を見せたか
パンフからの引用ですが、庵野監督は「仮面ライダーへの恩返し」を謳ってこの映画に取り組んでおり、50年の間に作品を重ね様々な色を持っている事を承知の上で制作に臨んでいます。それらを全て2時間のフィルムに収める事は不可能ですので、どこをピックアップするかにかかっていると思うのですが、それは割と明確でした。
これはシン・ウルトラマンでも見せた「エピソード連結型」の構成を以て汲み取ればわかりやすくなります。
今回の映画も、TVのダイジェストの様に怪人を倒すごとにステージチェンジしていく展開です。あくまで個人的主観ですが、そんな感じに見えました。
1・クモオーグ戦
初代仮面ライダー第一話「怪奇蜘蛛男」のリメイクです。
チェイスアクションから始まり、バッタオーグの解説や能力を語ります。いわば掴みの部分なのでインパクトあるカットが多いです。アクションに関してはここが一番凝っているまであります。それを期待していた人にとってはそれが仇になってしまった感もありますが、単純に滅茶苦茶カッコいいファーストシークエンスです。
2・コウモリオーグ戦
政府の男2人との共闘戦線が出来、マッドサイエンティストなコウモリオーグのアジトへ潜入戦を行うパート。
ここは完全に「昭和特撮」です。敵の目論見を計略で潰し、破れかぶれになった敵を圧倒して終わる、流れとしては昭和仮面ライダーでよく見た話です。ここはコウモリオーグの間抜けさとシュールな動きで笑ってしまうところですが、実はこのパートの出来があまり良くない。
本郷が苦悩し、奮起するまでが余りにサラッとしていて盛り上がりません。ルリ子が「実はウィルスは効きませんでした」というオチで敵の裏をかくのもイマイチ弱い。ついでにコウモリオーグに思い切りドロップキックを喰らってるのも痛々しいです。本郷が受け止めはするのですが、蹴られる前に守ってやれよと言いたくなります。
昭和ライダーに馴染みがないと、ここで「なんだよこの映画」となってしまいそうなシーンです。実は公開前に危惧していたのもそれでしたね。
3・ハチオーグ戦
ど派手な爆破シーンで始まった割にはギャグのように出てきて終わるサソリオーグ姐さんの話から、ハチオーグとの戦いに移ります。
ここが「平成仮面ライダー」パートです。
親交のあった敵との決裂、衝突、70年代の映像技術では不可能だった高速戦闘など、明らかに前2戦とは内容も演出も変わります。ついでに某脚本家が多用し平成ライダーでよく見る食事シーンも出てきます(笑)。
ハチオーグへのとどめも、平成ライダーのある要素を使っていますね。
西野七瀬演じるハチオーグがとても可憐で、ルリ子との友情に心奪われました。彼女がルリ子役、べーやん(浜辺美波)がハチでも成立したのでは、と思わせるほど女子陣の美しさが際立っていました。
あ、サソリさんはあのままでいいです。
思うに、ハチとコウモリの順序が逆でも良かったな~とか考えましたが、これは正解が無いのでなんとも言えませんね。
4・シン・仮面ライダーの本題
ここから、ルリ子の兄イチローが羽化しチョウオーグとなって登場します。今回のラスボスですね。その計画や緑川家の過去が明らかになり、さらに第二バッタオーグ、一文字隼人が登場します。
前回のシン・ウルトラマンで言うところのメフィラス以降がここからになり、漫画版の要素を拾いながらも「庵野ワールド」に入っていきます。ショッカー構成員の生体エネルギーであるプラーナという設定がより色濃くなり始め、生命のかかる戦いが続くことになりますね。
ここからがこの映画の本題で、「不条理な暴力」で家族を奪われた悲しみを抱える男達の運命が描かれます。これは現代社会へ投げかけられたテーマの側面もあり、観客の心に訴えかけてくる「課題」が見えます。ここは前後編的な構成になっており、主要人物の一人が衝撃的に画面を去ります。それが本郷猛の決意を促し、物語のクライマックスへ向かわせるんですね。
ゴジラから始まった「シン」シリーズですが、この仮面ライダーが一番、オーソドックスな映画の作りをしていると思いました。そういった意味では万人向けで、理解しやすいと思うのですが基本的に庵野監督の作風が「早足」なのもあってそことの相性は良くないんだろうな、と感じながらの鑑賞でした。
この映画は「優しさ」の物語
遺志を継ぎ、緑川イチローとの決着を付けるべく向かう本郷猛。途中の敵との戦いで一文字隼人も合流、ダブルライダーで決戦に赴きます。
真の姿を見せ圧倒的な力を見せるイチロー、だが二人の粘りがその力の綻びを呼び、やがて兄妹の絆によって狂気の計画を打ち砕くに至る…。
戦いが終わり、在り様も変わったダブルライダー、「スッキリした気持ち」で、まだ続く悪との戦いへ向かっていく…。
この映画は、「戦い続ける仮面ライダー」を称えながら幕を閉じます。
通して思ったのが、
「本郷猛に、色が無い」
という事です。漫画版に近い、とも言えますが藤岡弘、さんの本郷と比べると(あちらはとっても濃いのですが)、全くの別人というほどに性格が違います。ハッキリコミュ障と言われちゃってますし、台詞も棒読み気味で初見時は「これでいいのか?」と思う程でした。
ですが、何度か見るとここが「令和仮面ライダー」な部分なのでは、と感じられるようになったんですね。
突然改造され、超人的な力を得てしまった。
「よし、それなら俺がヒーローをやってやる!」
↑これは、昭和の主人公。
「そんなの困る。…でも、皆のためなら…」
↑これが、平成の主人公。
「辛い。でも、何もしない訳には…」
↑令和の主人公?
だんだん、弱くなっていってる様ですが、リアリティは増していると思います。今作の本郷猛、まずルリ子がいなければ仮面ライダーになる前にバッタオーグとして生涯を終えていました、100%。彼女に連れ出された事で運命が変わる訳ですが、だからといってコミュ障がヒーローになれるものでもなく、「戦わないわけにもいかない」くらいの動機で動き、使命感を持って力強く立ち向かうのは、最後だけなんですね。
これが、映画としてのドラマであり、「わかりやすい成長」ですが、その根底に本郷猛の「優しさ」があります。
最終決戦時「さすがイチローさんだ」と敵を称賛したり、彼の性格の温厚さが見て取れますが、本当に「怒り、憎しみ」を持たない人なのだとわかります。それは過去、大切な人を失った時に燃やし尽くしてしまったからなのではないでしょうか。ある意味欠落した部分があるからこそ人間的に色を感じない、無彩色主人公になったのだと思います。そんな人間に改造人間として悪の組織と戦えとは随分残酷な物語。しかしそれゆえに闇に堕ちた敵の心に触れる事も出来た。
「優しさ」に救われるものは、確かにある。
だから人間を悲観しないで欲しい。
この映画に込められたメッセージは、これではないでしょうか。
私は「衝撃」を期待していましたが、残念ながらそれはありませんでした。1号の変身ポーズを楽しみにしていましたがそれも無く、不満点を挙げるならもちろんいくつか出てくる、満点の映画ではありません。
ですが、「感動」は予想よりかなり大きいものが飛び込んできた。
ゴジラもウルトラマンも、「良かった!」で終われたのですがこの仮面ライダーは「その後」がとっても観たい。というか想像したい。
「仕事仲間」な人間関係のみを描いていた庵野監督が、こんなエモーショナルな「家族」「仲間」を描いた事に驚きですし、それは監督自身がやはり優しい人である事と周囲の人間に感謝している事が映し出されているのだな~と感じ、それはシンエヴァの時と同じ感想でもありました。
アメリカがスパイダーマンなら、日本は仮面ライダーだ。
と、世界に向けて放てる映画だと思います。
というか、大方のアメコミヒーロー映画より面白いし、心に残る。
「シン」シリーズでも、特別な位置付けの一作になりそうです。
公開3日、3回鑑賞での感想でした。