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院内集会 2016/02

 福島第一原発の事故収束を目指す団体が月に一度、参議院議員会館で行っている院内集会が、このところとても充実している。小さな会議室を使っての勉強会の様相で、まさに車座集会だ。平日の昼間の時間とあって参加者もそう多くないのがなんとももったいないと、そう思わせる内容が続いている。
 昨日は、「イチエフ事故収束状況の最新報告」と題して、東京電力のリスクコミュニケーターの原口さん、資源エネルギー庁から加島さん、伊奈さん、原子力損害賠償の監査役山形さんがいらっしゃって、現在の福島第一原発の状況、事故収束の進捗をていねいに説明してくれた。

 まずは東電の原口さんからの説明があった。わかりやすい紙資料をもとに、まさに立て板に水の話しぶりで、汚染水処理や廃炉全般について、または福島第一原発で働くひとたちの労働環境までを、40分ほどの時間で一気に話しきった。そして潔いことにそれ以降の時間、約1時間20分を質疑応答にあて、質問に答えたいとした。
 10人ほどの参加者はみな手をあげる。なかには原発や放射線の専門家もいたりするなか、ぼくはごく単純な質問をした。というのも、原口さんの説明があまりにも通り一遍な印象を持ったからだ。
「いまの原口さんの説明をうかがって、つまり汚染水処理も放射線の管理も、そして当初の予定より遅れてはいるものの、廃炉に向けてのロードマップも、すべてが順調に進んでいると。つまり『すべてがうまくいっている』のだから『心配することなく、飯館にも双葉にも、浪江や富岡にも帰ってきてください』という理解でほんとうにいいのでしょうか。ぼくは今日ここで聞いたことをこの原発事故を心配している友人や、放射能の影響を危惧しているひとたちに、そのまま伝えたいと思うのですが、彼らに『もう大丈夫だよ。』と自信を持っていっていいのですね?」
 原口さんは、それまで合わせていた目をそらしてうつむいた。ちょっといじわるかとも思ったが、正直な気持ちだった。ここに集まっている人たちは、東電や関係省庁をやみくもに責めたてる意思はこれっぽちもない。ただどうしたら事故収束が一番いい形で進めることができるかを考えているばかりなのである。
 ぼくの質問に続くように団体の理事が柔和な口調でうながした。
「いいことばかりじゃない、ほんとのところを聞きたいのです。もちろんみなさんの立場から言いにくい、あるいは言えないこともあるのはわかります。どうか言える範囲で、みなさんの抱いている『実感』を話してもらえないでしょうか?」
それに対して、
「たしかに、課題はあります。」
と、原口さん、エネ庁の加島さんが認めたところから、空気が変わった。彼らにとっての「説明会」というルーティンワークとは違ったものになったように思った。

 そこから矢継ぎ早に質問が続き、とくに建屋をぐるりと囲んだ「凍土壁」についての議論が掘り下げられた。
 ここで報告すると、現在「凍土壁」は完成していて、その稼働をまえに「原子力規制委員会」との議論を重ねている状況であると。そして議論というよりは、エネ庁に言わせると無茶ともいえる難癖を規制委員会から突きつけられていて、それをクリアしないことには、ボタンを押せないのが現状であるが、次回3月3日の会合で、規制委員会を説得できれば、すぐにでも「凍土壁」を稼働したいとのことだった。
 さらにその稼働が全方向の稼働ではないことを知っている別の参加者からは、いま予定している海側だけの稼働では思ったような効果が期待できないのではないかという疑義がでた。そしてそれへのエネ庁側の回答は、やや歯切れが悪いものであったといわざるをえなかった。もっと厳しい質問で、「凍土壁」自体が、使えない、まさに大いなる「無駄」になる可能性について問うひともいた。
 さらに先日あきらかになった「マニュアル」の問題に関連して、情報の公開、周知についての議論も活発に行われた。ロードマップについて、さらにこれからの作業で危惧される放射性物質の拡散について、住民の帰還についてまで話がおよんだころには、閉会予定時間の13時を大幅に過ぎていた。

 東電の原口さんは事故の半年前まで福島第一原発で線量管理をしていて、3月11日には本店勤務だったものの、そのあとまた福一に戻ってリスク管理センターで、身を粉にして働いた経歴をもっている。
 そういった、自らの身体で、あの事故と向き合ってきたひとならではの、現場感覚に寄りそった説明とことばには、とても好感が持てた。たたやはりいまの仕事、リスクコミュニケーターという立場上からくる、齟齬の感触、噛み合わせの悪さというのはあるのだろうと推測した。
 この集会には、福島第一で働いた経験のある作業員の話、東電を辞めて第三の立場から原発事故の収束のために福島でNPOを立ち上げたかた、さらには事故当時の総理大臣菅直人議員も参加して、それこそ元総理を車座に囲んで話が聞けたりする。みなに共通していえるのは、どうにかしてこの未曾有の原発事故を「収束させたい」という気持ちと熱意と行動である。それだけは疑うことなくいえる。

 インターネットにあふれる情報は、ぼくにとっては混乱するばかりだ。いったいなにがどうなっているのかを知りたいと思ったときは、なるべく現場に行くのがいいと、そう信じて、でかけていく。ひとと会って、話をきく。そうすると情報がかたちになって、なにかが残る。この日はふとうつむいた原口さんの顔が印象的だった。
 原発事故という巨大なモンスターに立ち向かうには、表情のある人間が、信じ合い、力を合わせることでしかない。そんな「総がかり」の末席にいるものとして、これからも「自分のこと」として考えたいと思っている。
 

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