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インドの個人情報管理システムに未来の希望を垣間見た

おはようございます!今日は5日ですね。今回の年末年始は、一部では奇跡の九日間とか言われていましたが、とうとう最終日です。

僕ことだっくは、結局風邪は29日あたりで治ったものの咳をずっと年越しで引きずってきました。今読んでくださるあなたはどんな時間を過ごせましたか?

今回の休暇は民間だけで無く公的機関も同じだったと聞きます。

僕は28日の朝になって図書館が開いていないと気づき「そうだよねえ」と思いつつ身勝手にも取り寄せ済み予約本が読めないことに恨めしさを感じていました。何故か今日から仕事始めらしく喜び勇んで行く予定です。

さて、全く脈絡が無いのですが、今日は今年も大活躍のマイナカード絡みの話をしていきます。それも日本では無くインドのお話しです。


なんとインドにも個人情報管理システムあるんだってさ

僕がその情報を知ったのは、昨日の夜のことです。年末年始の日経新聞のお気に入り特集企画「逆転の世界」にあったのです。

日経電子版はとても便利なのですが、どうも面白いニュースがちょっとすぐ見つからない。同じ特集でも存在に気付かないことがあって焦ります。

「見つけられてラッキー!」と「これ見過ごしてた、危ない!」が入り交じるのです。使い方が悪いのでしょうか?

それで、インドの個人情報管理システム「アーダール」の記事を見つけたのでした。僕は素直に驚きました。

インドってそんな進んでいたのかという驚きと、そもそも他国の個人情報管理システムがあってしかるべきなのに興味を持って調べていなかった自分への驚きでした。

インドの個人情報管理システム「アーダール」とは

インドの個人番号管理システムは「アーダール(Aadhaar)」と呼ばれ、国民の個人情報を一元管理するための重要な制度です。

2009年にインド固有識別番号庁(UIDAI)が「アーダールプロジェクト」に着手され、2010年に登録申請が開始され、国民への番号付与が始まりました。

この制度は、インド政府が国民に対して一意の12桁の番号を発行し、個人の身元確認やサービスの提供を効率化することを目的としています。

アーダールは、インドの国民の約94%が2022年時点で登録しているとされ、これは世界的にも非常に高い普及率とのことです。

この番号は、指紋や虹彩などの生体情報と結びつけられており、個人の身元確認を行う際に使用されます。

単純計算で13億人強です。ちょっと凄すぎですよねえ。サラッと含めましたけど虹彩情報なんて究極の個人生体情報ですよ。

翻って、日本ってどうだったっけ?と調べてみました。

2024年10月20日時点での最新データによると、マイナンバーカードの普及度は着実に上昇しています。

  • 有効申請受付数(累計): 104,654,336件(人口の約83.8%)

  • 交付枚数(累計): 102,495,385件(人口の約82.1%)

  • 保有枚数: 93,880,977件(人口の約75.2%、2024年9月30日時点)

頑張ってはいるけれど、インドよりまだまだな感じですね。開始時期でも普及率でも断然に水をあけられています。

それに色々上手くいかないセキュリティ面や変な想定外動作での不安や不信、健康保険証の統合の強行などに結構反感買われていますから保有枚数に比較して実稼働数は結構低そうです。

アーダールの導入背景

アーダール制度は、ナンダン・ニレカニ氏の指導のもと、2009年に導入されました。彼はこの制度を「個人番号の父」として知られ、インドのデジタル化を推進する重要な人物です。

2023年に、インドのデジタル個人データ保護法(Digital Personal Data Protection Act, 2023)が成立しました。

この法律は、個人情報の取り扱いに関する規則を定め、企業が遵守すべき基準を明確にしています。

この法律の下にアーダールは、政府の福祉プログラムや金融サービスへのアクセスを容易により効率的に提供するための基盤、特に貧困層の支援を強化する役割も果たすべく生まれたそうです

アーダール導入前は、戸籍を持たない数億人もの貧困層が望んだ公共福祉を受けられなかった。戸籍がないので名前や住所を証明できず、運転免許証や銀行口座、携帯電話もなかった。政府からの補助金を役人が中抜きする不正も横行していた。

インド「26億の瞳」で脱貧困 福祉は生体情報の上に

この絶望的なないない尽くし状態は、日本みたいに最初から戸籍制度が行き渡っている状態からは想像つきませんよね。

日本の近代的な戸籍制度は明治4年(1871年)から始まり、明治5年(1872年)の壬申戸籍の作成をもって本格的に実施されましたからねえ。

「アーダール」の父ナンダン・ニレカニ氏は語る

日経からの引用が続き恐縮ですが、すごく勉強になったので紹介します。

――アーダールのコンセプトは。
「インド在住者全員に固有のデジタルIDを与えるというシンプルなアイデアだった。IDはあらゆる確認作業に必要だ。アーダールを基盤として設計し、その上にKYC(顧客の本人確認手続き)を構築した。人々は迅速に銀行口座を開設したり、ネットに接続したりできる。インドでは多くの人が出生証明書を持っておらず、身分証明できなかった。アーダールは人々に最初の『身元』を与えた」

「インドは世界一成長する」 個人番号の父・ニレカニ氏

そう。マイナンバーカードだって同じように思想はシンプルです。

銀行口座の紐付けも同じようにやっているけれど、行政からのお金の授受がスムーズになるというメリットを示したり、餌としてマイナポイントをぶら下げたけれどあまり進んでいなさそうです。

身元証明という意味では戸籍は元々完備していたし、身分証明書は運転免許証を使っていたし、健康保険証はそれだけで完結していました。

ネットに至っては紐付けるなんてとんでもないと思われているのではないでしょうか?

元々何も無い状態から設計するのと、元々それなりに完成度があって普及した仕組みに満足している状態を破壊(或いは取り込んで)差し替える差というのが如実に出ているように思います。

――日本にもマイナンバー制度があるが、アーダールほど普及が進まない。
「日本のシステムを見たことはない。ただ、私がアーダールを設計したとき『どのように使用されるか』『どのようなメリットがあるか』を念頭に置いて設計した。顧客である市民を念頭に置いてデジタル基盤を設計する必要がある。生活に役立つと思えば人々は使用するし、役に立たなければ使わないだろう

「インドは世界一成長する」 個人番号の父・ニレカニ氏

流石は設計者です。本当によくわかってらっしゃる。

要はマイナカードは生活に役に立たないから使われないのです。

より正確に言えば、生活に役立ちこれまで以上に便利になる素地や片鱗はあるけれど、それを信じてもらうだけの信頼性が担保出来ていない状態で走り始めてしまいました

早漏過ぎだったのです。

早撃ちバキューン!

まあ、もっとも時間を掛ければ日本国民に信頼感が醸成できたかというと怪しいものですけどね。

老若男女問わず古くて良かった物に縋り付くのって日本人の国民性として強固だと思います。新しい物好きの面もあって分かりにくいですが、生成AIを例に挙げましょうか?

最初に触ったのがもしOpenAIのChatGPTだとその新バージョンに動くことはあっても別の生成AIは何かとケチを付けて触らない。

Mixedや組込されたものへの取り組みはごく一部の人に限定されます。それどころか未だにプロンプトの生み出し方TIPSで喜んでいる体たらくです。

それはそれで意味はありますが、早々に陳腐化するような領域をこれが先端とばかりに飛びついて有り難がるのは本質的じゃありません。

アーダールは既に他国から買い手が付き生成AIとの親和性も想定済み

始まって2年という短期で日本の12倍強の国民に行き渡らせたアーダールは既に次のフェイズに移行しています。即ち、仕組みの外販やAIへの積極的紐付け迎合です。

アーダールシステムの他国導入状況について

グローバルサウスの盟主を自認しているインドは、MOSIP(Modular and Open Source Identity Platform)というプラットフォームを輸出しています。

アーダールを基盤にしたデジタル公共インフラ「インディア・スタック」のノウハウを海外展開するため、コア技術をオープンソース化しているのです。

フィリピン、モロッコ、エチオピア、ギニアなどがMOSIPによる支援を受けて、自国版アーダールの発行とそれをベースにしたデジタル公共インフラの構築を進めているそうです。

「5年で50カ国にデジタル基盤を導入する『50-in-5』という計画がある。例えばモロッコやフィリピンは(インドのデジタル基盤を導入した)IDを使用している。すでに約20カ国で(インドの)何らかのデジタル基盤を導入している」

「インドは世界一成長する」 個人番号の父・ニレカニ氏

日本の経済産業省でも、MOSIP解説書という素晴らしい情報を公開しています。発行の2021年と言えばまだ河野さんがデジタル庁の所管大臣だったことですね。

2023年5月には、日本の河野太郎デジタル相がインドの英語放送WIONのインタビューでUPI(統合決済インターフェース)に関心を示し、インド国内で話題となった。河野デジタル相はインタビューでUPIについて「非常に便利な決済システムであり、国際間取引の新たなスタンダードになり得る」と評価している。

アーダール基盤のデジタル公共インフラ輸出、「グローバルサウスの盟主」の足固め 日経XTECH

知らなくて申し訳なかったとジャンピング土下座で反省しちゃうくらい、インドはパイセンな訳です。

生成AIへの積極的紐付け迎合

インターネットの紐付けでも遙か日本の先を行っているなあと思っていたら、なんと生成AIに対しての姿勢も先進的でシビれちゃいますよ!

ただでさえ、今は世界中で(特に日本のSNSで)お絵かきの情報や音楽の情報を勉強されてクリエイターの人が大怒りに怒っています。

それどころか声を生業とする声優さんの声を材料にして合成のそれっぽい出力をするので「駄目じゃん!」と声優有志26名が「NOMORE無断生成AI」を訴えるなどは周知の通りです。

そういう感じでセンシティブというか過敏にすらなっている状況だと「虹彩?インターネット紐付け冗談じゃ無い!そのうえ生成AIにも喰わせるとか頭湧いてんの?!」ってなるのが、日本の限界です。

――米オープンAIのサム・アルトマン氏が手がけるプロジェクト「ワールド」のように、一企業が生体情報を収集する動きもある。
「各国の法律次第だが、ユーザーの同意は必要だ。今日、駅や空港には録画カメラが設置され、知らないうちにあなたの顔を収集している。すでに世界中で起こっていることだ。アーダールで我々は公共インフラを作りたかった。(迅速に)実現する唯一の方法は生体認証だった
「アーダールを始めた時は想定していなかったが、生体認証はAIの世界で人格の証明に役立つ。あなたと話しているのが人間であり、ボット(自動プログラム)ではないことの検証にも使えるだろう」

「インドは世界一成長する」 個人番号の父・ニレカニ氏

つまりですね。この流れはもう止められません。不可逆なんです。嫌とかなんとか子どもみたいな我が儘を言っている間に世界はあなたを取り残して先に行ってしまいます

大事なことはきちんと安全な管理を担保することであって、その動きの足を引くことではないのです。

なるほど生体情報をコピーした生成AIが生まれれば、それはあなたの振りをして悪さをするかもしれない。

でも、そのために国があなたの生体情報を管理し保証機関として機能し、不正な存在を不正であると立証してくれる。それがあるべきです。

先日に翻訳に対して生成AIが破壊的に機能するという内容が話題になりましたがこういう観点もあります

僕はこの記事を読んで確かにそういう面もあるよなと思いました。

特に翻訳の受け取り手自身が「ちょっと変なところもあるけれど意味が大体取れるからOK」と取るようになったという下りはドキリとしました。

まさに僕はそういう使い方をしていましたからね。

一応素で英文をそれなりに読める方なので、時間が許せば「本当かなあ?」と原文読み合わせはしています。

でも、ご指摘の通り、結構テケトーで雑を通り越して嘘をついていることもよくあります。

ですので、そうじゃ無い人が訳文だけを見て書いてもいない内容をそのまま受け取って劣化拡散するのは現在進行中です。

僕自身時間を言い訳にその片棒を少なからず担いでいるんだなと気付きました。

ただ、一方で同じ国の中で言語が複数存在し、ただでさえ識字率の低い国々では雑でいい加減で間違えてばかりでも多くの人を幸せにする福音にもなりえるとも思います。

――アーダールの究極の目標は何か。
「全ての人にIDを与えるというビジョンは継続している。最終的には、国のためにAIを使う必要があるだろう。AIで教育、医療、農業、言語コミュニケーションを改善する。アーダールやその周辺技術で得た大量のデータをAIで利用し、現在のデジタル基盤の上にアプリケーションを構築する」
「例えば言語AIだ。インドには22の公用語と数百の言語や方言がある。AI翻訳により、インド人同士のコミュニケーションがはるかに容易になるだろう。取り組みはすでに始まっている」

「インドは世界一成長する」 個人番号の父・ニレカニ氏

日本という国は基本的に日本語のみで回っています。方言はあれどそれが社会問題になるような物では無く文化の一つとして受容される範囲です。

ですから、困るのは海外情報を仕入れたり、外国人とのコミュニケーションの場面です。

海外の場合は自国内の言語が一つとは限らないけれど、だからといって正確性が完全になるまで待っていられる状況では無いのです。

文字か読めなくたってスマホをかざせばGoogleレンズみたいに文字認識するし、聞き取りが出来なくてもマイクから拾って、マルチモーダル処理をして、文字、音声、動画で返してくれる。

そういったことを考えると、一概にAIの不正確性に厳密さを求めてしまうのはそもそもが間違えた捉え方のように僕は思います

正確性を求めていけば今後生成AIの出力精度は上がるでしょう。

けれど、その精度を上げるのも不足を補うのも、そしてどういう局面で何を使い、どの程度の付加価値を認めるかも人間の仕事であり、責務でしょう。

極論を許してもらえるなら、ライターがある状況で火付け石や木を摺り合わせる方が良い人がいないように、変わった中で何を生み出し、どう貢献するかです。

ライターオイルが詰まったから鬼の首を取ったような顔をするのは愚かです。

OpenAIのサムアルトマンも当面のところは大丈夫じゃないかと口にしました。

もちろん、AGIの時点でも神経質になって考えるべきことはあります。ただ、AGIを凌ぐASIが普及した際には、最初の2〜3年間は大きな変化が現れなかったとしても、その後の経済的混乱は予想されるよりも長く、大きなものになるかもしれません。そして恐らく、経済のあり方は変わるでしょう。

私はAIによる大失業時代が来るとは信じていません。私たち人間は常に何かやることを見つけ出すものです。これまでも大きな技術革新が起こるたびに多くの仕事がなくなりましたが、新たな仕事も生まれました。

しかし、ASIの到来時には過去にはなかった速度で仕事の入れ替わりが起きるでしょう。 近い将来、その点については考えなければなりません。

サム・アルトマンに聞く「安全性が不充分だと元従業員が言ってますが?」

まあ、彼の場合はポジショントーク的にもそうせざるを得ないというのもあります。

ですから、イーロンマスクのようにいずれ悪のAGIが人間を支配する脅威に対処しておくべきなのかも知れません。

ただ、僕らはそうやって迷うことが出来るからこそ価値があります。生成AIは迷わないのです。迷わないからこそそれらしい合理しか出来ない。

僕らの迷いは不合理このうえないけれど、決断を迫られた結果に何かを生み出し、礎にすることが出来るのです。

間違えたら駄目だという脅迫観念こそ僕ら日本人を矮小でつまらない存在にしてきたのだから、そろそろ一生懸命やって間違えてみましょう。未来の希望はそこにあります。

さて、こうやって時間を気にせず書ける贅沢なお正月も終わりますね。結局、年明けから明るい未来の話ばかりしてきたような気がします。

明日からは程々に疲れないよう楽しくやりましょうね。

ではまた

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