スペイン東部の洪水視察の国王、王妃に住民が泥を投げつけた
10月29日から30日にかけて、スペイン東部のバレンシア州などで発生した記録的な大雨による洪水では、車や橋が流されるなどし、甚大な被害となっています。死者数は現時点で220人に上るとサンチェス首相は明かしています。
そんな中、フェリペ6世国王やレティシア王妃が、被害を受けた町の一つ、パイポルタを訪問した際、群衆から、「人殺し」「恥を知れ」といった野次や罵声を浴びせかけられたうえに、拾い上げた泥などを投げつけられたとの報道がBBCから挙がっています。
これは事前に洪水警報を発令がなかったことや当局からの支援が不十分を主張しており、その怒りは政府と要人に向けられた結果です。
この訪問中にペドロ・サンチェス首相とバレンシア州政府のカルロス・マソン長官も国王夫妻の訪問に同行したそうですが、群衆の敵意に身体的な危険を察知し速やかに退避しました。
一方、その後も顔や服に泥が付いたまま、フェリペ国王とレティシア王妃が群衆を慰める姿が見られたそうです。王室一行は洪水で大きな被害を受けたバレンシア州の別の町チバへ向かう予定でしたが、この訪問は延期しました。
国王はその後、王室のインスタグラムアカウントに投稿した動画の中で、抗議者たちの「怒りと不満」を理解していると述べました。
日本に当てはめてみると、被災地を回った天皇や皇后に被災者が泥を投げつけ、罵声を浴びせるような内容で、この怒り具合は相当な異常事態です。
通常こういった慰問的な訪問というのはある程度災害が収まった際に行われるものでバレンシア州議会議員のフアン・ボルデラ氏は「国民が怒っているのは当然であり、今回の訪問がなぜそれほど緊急なのか国民が理解していないのも当然だ」「当局は今回の訪問の中止への諫言に一切耳を貸さなかった」と話しています。
国民を心配するのも分かるのですが、どうも政府や国王側の訪問の意図や危機管理の不足に疑問符が付きます。
現在のスペイン国王は、政治的な権力を持たない「国の象徴」として存在しています。これは日本の天皇やイギリスの国王と似た立場です。国家元首としての儀礼的役割や外交のための要員としての仕事を担う等は行っていますが、それだけです。
日本の皇室と明らかに異なるのは、国民から皇室廃止論が公然として出ていることです。2023年6月にはマドリードで数千人規模の反王室デモが行われたり、次の総選挙が行われる2027年以降も王政が存続することが厳しいと言われている状況です。前国王の暗愚ぶりや現王妃のスキャンダルが特に響いていますし、政府との関係も非常に悪いようです。
ここら辺の背景を鑑みると、同行したペドロ・サンチェス首相が災害対策の非難を政府側に振り向けられないよう、王室を贖罪の山羊にするためにあり得ないくらい早期に被災地訪問に誘い出したという推測も可能です。
勿論証拠はありませんが、観光で多少は経済は持ち直したものの依然EU内でも高い失業率が改善できていないことに加え、カタルーニャ独立派への譲歩、特に恩赦法の問題で憲法に違反するという批判が強く、法治国家としての原則を揺るがす可能性が指摘され、保守層が離脱することで国内が二分され政府の運営は安定的な自治が継続不可能なまでに深刻です。
ここでも分断が色濃く出ており、世界で種類は違えど同時多発的な分断は深刻さを増しています。