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『ダブドリ Vol.10』 インタビュー04 浜口炎(富山グラウジーズ)

2021年1月22日刊行の『ダブドリ Vol.10』(株式会社ダブドリ)より、浜口炎HCのインタビューの冒頭部分を無料公開いたします。インタビュアーは、HCインタビューといえばこの人、マササ・イトウ。

リーグ屈指の得点力で開幕から好スタートを切った富山グラウジーズ。就任1年目から結果を出した浜口炎HCにその秘訣やルーツを聞きました。

タレントは揃っていた。最初に考えたことは、どうやってそれをチームにしていくか、チーム力を上げていくか。

― 京都ハンナリーズを去られて、次のステップをどう考えていたのですか。
浜口 基本的には、僕はコーチが好きなので、将来的にもGMになりたいとか、フロントスタッフになりたいとか、そういうのは全然ないんです。現場が好きなので、できればコーチをB1で続けたいというのが一番の目標でしたけど、そんな簡単な世界じゃない。B1にこだわらず、学生、B2、どんなカテゴリーでもコーチができれば、とは思っていました。
― 複数のオファーがある中で、決め手は何だったんでしょうか。
浜口 まずはすごく熱心に誘ってくれたことが一番大きかった。「浜口さんが来ればこのチームは良くなる」って、熱心に誘ってくれたので、お世話になろうかなと思ったのが一つと、もう一つは、家族との時間も考えた時に自然が豊かなのびのびとした環境で子育てしたいなというのもありました。
― 一般的にはコーチがチームを選ぶ際は戦力や、やりたいことができそうかとか、いろいろと考えてから決めるかと思うんですが、富山で「自分だったらこうするな」とかありましたか。
浜口 そんなになかったですね、僕だったらこうするだろうなとか。
― 選手も決まっていましたよね。
浜口 もう全員決まっていましたね。
― 与えられたチームで何ができるかということを考えられたわけですね。
浜口 そうです。
― 最初に何を考えましたか。
浜口 タレントは揃っていました。「こういうことをやりたい」というより、どうやってチームにしていくか。個の力だけじゃなくて、チーム力として、いかにステップアップさせていけるか、ということを考えましたね。
― 去年のチームではなくて、新しい目で選手を見た上で、どうしていくかといことですね。
浜口 そうですね。元々、良いものは凄くあったチームで、僕が京都にいるときも、どこの強豪チームにも勝てる力のあるチームだなと感じていました。去年はジョシュア(スミス)が怪我をしてしまったので、なかなか大変なシーズンだったと思うんですけど、それがなければもっと上位だったと思います。良いところは残しつつ、あとは自分が大切にしてるようなことをやって、チームにしたいなっていうイメージでしたね。
― ある程度出来上がっている部分もありつつ、新しい部分もあって、やりたいことを全部やるというよりは、調和を考えるというイメージが近いですね。
浜口 そうです。別に僕が来たからって、全てを変えたいとかは全然なくて、徐々にチームに僕が入り込んで、徐々にチームになっていけたらいいかなと。
― なるほど。試合では「これは絶対こうしろ」という指示を出されているので、やりたいことは結構あるのかなと。
浜口 そうですか(笑)。
― 試合後のコメントでも「このタイミングはおかしかったから、まだやっぱりここは話さなきゃいけない」とかコメントされていました。
浜口 確かにそうですね。
― なので、まだやりたいことは色々ある中で、どこまでをどのタイミングでやってもらうのか、そういったことを考えてらっしゃるのかなと。
浜口 そうですね。チームの最初のミーティングで、僕もいきなり距離をぐっと縮めるタイプではないんです。選手も最初は僕のことを様子見していて、私も私で少しずつ、お互いが「どんな人なんだろうな?」というところから始めました。今日も選手と個人面談をするんですけど、そこでバスケット的なことも全部話します。僕がこうしたい、ああしたいと言うのではなくですね。例えばこれはバスケット以外のことですけど、チームルールについて、僕は結構うるさいんですが、基本的には、選手と一緒に僕が持ってきたものをどうするか話をしてます。
― 例えばどんなものですか。今まで富山になかったルールになると思います。
浜口 例えば移動のときに、どういう服装でチームとしては移動するかとか、身だしなみですね。髭とか、髪型とか、そういうものをどうするか。
― 髪の色とかも。
浜口 そうですね、髪の色とか。
― 宇都(直輝)選手は髪の色、かなり凄い色をしてますけど(笑)。
浜口 ねえ(笑)。
― それは大丈夫だったんですか。
浜口 はい。そういうのも含めて話して、じゃあこうしようか、ああしようかっていう感じで。僕がこうしたいということと、選手がこうしたいということがあるので、練習のときの服装、遠征のときの服装、チームの一員としての身だしなみやプロとしての意識を含めて全部です。                               ― プレー面で最初に絶対にやりたいことは何でしたか。
浜口 まず一つは、ハードワークして、スタンダードを上げたかった。今までおそらく個人でも、チームでも、富山グラウジーズというスタンダードがあったと思うんですね。例えば直輝なら直輝のスタンダードがある中で、それぞれのスタンダードを、ハードワークして、ちょっとでもいいから上げましょうということ。次にコミュニケーション。これはすごく重要だと思っていて、みんなでしっかり自分の思っていることは口に出す、人の話は聞いてあげるという部分ですね。最初の就任記者会見のときに「見えない力」という言い方をしましたが、バスケットって全部数字に表れるスポーツなので、オフェンスでもディフェンスでも、数字に出てくるスポーツなんですね。ただ、僕は数字で表れない部分が、すごく大切だと思っているので、そういう部分をチームとして理解すれば、このチームならそれだけで自然とステップアップできると思っていました。なので、ハードワークとコミュニケーションという部分は、最初に強調していきました。

同じシステムでも選手が違うだけでやれることも違う。自分でも驚いている。

― ステップアップという意味では、去年のグラウジーズは怪我もありましたので単純には比較できませんが、相対的に良くなっています。大きく変えたり、特殊なシステムを導入したりしましたか。
浜口 実はシステムも含めて、京都時代と全く同じで、プレーコールの種類も、逆にちょっと減らしたぐらいなんです。
― そのまま持ってこられたんですね。
浜口 コールもシグナルも、全部一緒で、考え方も含めて同じことをやってます。僕も選手によって幾つもシステムを使いこなせるようなコーチではないので、自分が自信を持って教えられるもの、伝えられるものを導入しています。でも選手が違うだけで、見え方や、やれることもだいぶ違うので、僕もすごくびっくりしているんです。
― 一番びっくりされたのは?
浜口 ハンドリング能力がある、ドリブルできる選手が多いので、幅が出ましたね。サイズもあるし、単純にアスリートな選手が多いですね、動ける選手が。
― シューターは京都にもいましたが。
浜口 そうですね。KJ(松井啓十郎)も、(岡田)優介も、(内海)慎吾も。たくさんいいシューターがいましたけど、ドリブルとか、単純に飛べるとか、走れるということを考えると、タイプが違いました。
― そうですよね。今ってスリーを打たないといけない時代にはなってると思うんですけど、富山はスリーがすごく多いわけではないです。それでも攻撃力が上がっている。そもそもバスケットカットとか、レイアップが相当増えていますが、どういう効果でそうなっていったのか教えていただけますか?
浜口 やっぱり単純に1対1に強い選手が多いのと、ボールをプッシュしてテンポ良く動ける選手が多いので、躍動感があります。アクティブにカットもできるし、ドライブもできる。スピード感が違うとは思います。
― 未だ15試合なのでデータ量は少ないですし強豪との試合が控えてはいますが、ツーポイント成功率が60%ぐらいで、他のチームも真似できない攻撃力になっています。宇都選手も去年までツーポイント成功率は40%台でしたが、今年は60%で決めています。
浜口 アウトサイドシュートを打とうという気持ちが出てきたのが良いのではないかと思います。それでもまだ本数的には打ってないですけど、練習ではかなり良い感じで打っていて、試合でもチャンスがあれば打ちなさいという話をしています。相手チームの選手も、前に出てくる回数が多くなったと思うし、スペーシングや周りの選手のスペースの兼ね合いで、そういう良い部分が出てきてると思います。
― 前田選手を筆頭にシュートがちゃんと打てる選手がいますから良いスペースができてますね。
浜口 良い時は本当にそうですね。
― スリーポイントが重視される中、このままインサイドが強い形が続くとかなり珍しいチームになると思います。
浜口 もともとジョッシュもマブンガもいますしね。ソロモンは初めてでしたけど、複合的にペイント内でパーセンテージの高い選手ですからね、リバウンドもプットバックも多いですし。
― すごく良い回転で来ていると思いますが、スタメンは固定されていますね。
浜口 そうですね。そこは練習も見ていろいろ考えようかなと思っていました。マブンガが開幕前に1人先に合流したのもあってまず主力としていて、他の選手がどうついていくかという形で練習を見ていました。うちは(阿部)友和が怪我してたし単純に人数が足りず、5対5ができたのはプレシーズンのゲームだけだったので、スタートを毎回変えて組み合わせを見たり、個の選手の状態を見たりしながら、ポイントガードは自然と直輝になりました。あとは2番、3番ですよね。(橋本)晃佑を入れて、ビッグラインアップにするのか、(岡田)侑大が2番でボールハンドラーを入れるとか、ベテランの(水戸)健史・(城宝)匡史を絡めるかチョイスは沢山あったと思うんですけど、開幕の京都戦の前日ぐらいに、決めました。
― スタメンの出場時間は結構長くて、他のチームと比べても、相当スタメンに寄っている。疲労も考えると、変えていくのかなとも想像できますが。
浜口 常に選手のコンディション・チームの状況を考慮して何がベストなのかを考えないといけませんがプレータイムのシェアをするのは実はあまり考えていません。例えばですけど、レブロン(ジェームズ)がいるのにレブロンに25分しかプレーさせないというのは違うんじゃないかと思っていて。レブロンはレギュラーシーズンでも40分近く出ている。そういう意味では、ゲームメーカーが出ていた方が、長い時間彼らが自分の身体をコントロールしながらゲームをしてでもコートに立ったほうが、チームとしては有利だと思っているので、そういう風に長い時間になった。基本的にはそういう考え方です。
― はい。
浜口 もちろん強度を落とさず、高いレベルを維持することがベストだと思うし、水曜日にゲームが入ってきて、ゲーム数が増えたりすれば、勿論そういうことも考えますけど、基本は、取りにいけるゲームはしっかり取りにいく。例えば次のゲーム、その選手に疲労が出ていたら、違う選手にすれば良いですから。
― レギュレーションが変わったので外国籍3人もベンチに入れます。
浜口 そうですね。そこは助かる部分。今シーズンは四分の一、15ゲーム終わった時点で、バイウイークに入って、次も14ゲーム終わると、バイウイークに入るので、1クォーター、2クォーターという感覚で終われば、少し休めるし、上手く乗り切って頑張れるんじゃないかなと思ってるんです。ただ、この時間はこの選手を入れようとか、最後はこの選手で行こうとか、実はあんまり考えてなくて、自然とそうなっているというのが現状です。
― 課題面のお話を伺いたいのですが、三河戦でも、リバウンドの部分やソロモン選手がアウトサイドに出てしまうとか、まだ息が合っていないというコメントがありました。
浜口 はい。
― これから強豪との連戦も控えていますが、後半戦に向けて、やるべきことを教えてください。
浜口 ディフェンスは大分改善してきていると思っていて、オフェンスばかりフォーカスされるんですけど、選手達もディフェンスをしないと、一つ上のレベルに行けないっていうことは感じてくれていると思います。今はすごくハードに取り組んで、チームルールも守りながら、意識が高くなってきたと思ってます。これから強豪チームとやるには、ここをもう少し突き詰めて、細かい部分を意識していくと、もう少し良くなるかなと思っています。
― ディフェンスにおける細かい部分の意識とは具体的にはどういうものですか。
浜口 オフェンスマインドの選手が多くて、オフェンスの話が8、9割を占めていました。どこの選手もそうだと思いますけど。
― どう点を取るかという話題ですね。
浜口 そうです。例えば個人面談をしても、オフェンスがこうだ、こうしたい、質問もオフェンスのことが多かった。僕が黙っててもこのチームは点数は取れると思っているので、もう少しディフェンスにフォーカスしていった方が、良くなると思っています。選手もかなり良くなってきたと思うんですけど、継続的に、もっともっとディフェンスのことを意識していくと良いと思ってます。
 例えばシュートを入れたら、ハリーバックできる、スプリントバックできるとか、そうではなくて、ミスした後にしっかり全力で戻るとか、当たり前のことを、如何にチームとして当たり前にできるかが、すごく大切じゃないかなと思うんです。野球で内野ゴロを打たせても、キャッチャーが必ずエラーにならないように走るとか、打つ前に、ピッチャーが投げたら、自然と野手は全員、毎回膝を曲げるとか。
― 細かいところですけど、毎回準備をしっかりしておく。
浜口 そう。そういう当たり前のことをしっかりできるチームが良いと思っているので、そういう細かいところを意識しながら、コンシスタンスにやっていきたいなとは思ってます。
― 決められた動き、例えばピックアンドロールでも、どこまで出てどう下がって守るのか、どうコミュニケーションをどのタイミングで取るかとか、常に意識になければ、このポゼッションではできなかった、抜けていたという事態になりますね。
浜口 本当にその通りだと思います。シュートが結果として入ったとしても、それが良いディフェンスだったのかは、コーチとしてきちんと判断しなきゃ駄目だし、相手チームのシュートが落ちたとしても、悪かったんなら悪かったという判断。オフェンス、ディフェンスもそうだと思うんですけど、そういう部分をコーチとしても、チームとしても、しっかりジャッジしてやっていかなきゃいけないなとは思います。
― チームは若手も多いですが、アジャスト能力に長けている印象です。例えば川崎ブレイブサンダース戦では、ゲーム1とゲーム2で、ディフェンス、オフェンスを変えてしっかり対応されていたと思います。時間のない中でアジャストできることはすごいことだと思いますが。
浜口 そうです。本当にアジャストの能力がすごく高いなと思っていて、川崎戦でも、2戦目はピックアンドロールの守り方も、当日に変えました。
― 当日ですか!
浜口 はい。試合を見て、どうするか考えて、ぎりぎりでピックアンドロールの守り方を変えたんですけど、うまく本当に対応してくれて、そういう能力は、オフェンスだけじゃなくて、ディフェンスでもできる、そういう対応能力のあるチームだなと思いましたね。
― 能力はあって理解もできる、という意味では、実行するにはマインドセットが凄く大切という風に感じてらっしゃるように思います。
浜口 そうですね。マインドセットがすごく大切で、オフェンスだけじゃないんだぞ、オフェンスからじゃないんだぞと考えています。
― かなり多用しているゾーンの飲み込みも結構早かったですか。
浜口 ゾーンは上手ですね。でも新しいゾーンを、彼らに求めてるわけじゃなくて、同じことをやっていても、今までとは違って、アクティブでボールを引っ掛ける回数も多かったり、手も長いし、違うものになってますね。

浜口炎締め用

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この後も、今シーズンの戦い方やコーチになった経緯など語ってくださっています。続きは本書をご覧ください。

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