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「日本一勤勉なチーム」はいかにして作られているのか ~ レバンガ北海道 小野寺龍太郎 interview vol.3 ~

「日本一勤勉なチームを作る」その言葉を聞いたとき、いかにしてそのチームを作るのか。その方法論が気になった。2023-24シーズンに伺ったvol.1とvol.2に続き、2024-25シーズンのレバンガ北海道を紐解くべく、小野寺龍太郎HCに話を伺っていく(インタビュー : 9月6日 文: 宮本將廣 写真:三浦雄司)

2023-24シーズンinterview

継続選手のおかげで、新加入選手の理解もスムーズに。

宮本 今シーズンも始まりましたね。先日は台湾での親善試合が行われました。盛實海翔選手、星野京介選手、鈴木悠介選手、ライアン・クリーナー選手、テリー・アレン選手がチームに加わりました。チームビルディングという観点では、台湾での試合があったのでいつもよりも少し早く試合を行うことになったと思います。開幕までのプランはどのように考えていたんでしょうか?
小野寺 おっしゃる通りで、本来は自分たちの準備しているフェーズに合わせてゲームを入れていくのが通常の手順だと思います。その中で今シーズンはありがたいことに台湾の試合にご招待をいただいたので、そこに合わせて準備をしていきました。だからと言って大きな変化があったわけではなく、1週間ほど早く試合があったという感じです。多くのチームが準備をし始めて、5週間目から7週間目にゲームをスタートさせていきます。僕たちにとって台湾の試合は5週目でした。もちろん外国籍選手の合流のタイミングに違いはありましたが、継続選手がレバンガの原理原則を理解してくれていることによって、新加入選手の理解もスムーズでした。
宮本 なるほど。小野寺さんの優先順位としては、まずはディフェンスだと思います。会見でも、昨シーズン勝利した17試合の平均失点は約72点。そして3ポゼッション差で負けた試合が17試合あって、1クォーターずつに切り分けていくとそこまでクオリティとして差があるわけではないという分析でした。(※詳細はこちら)その辺りをベースに台湾での試合を見ていたんですが、僕はむしろオフェンスのクオリティが上がっていると感じました。そこは個人の能力もあると思うんですね。例えば、クリーナー選手はスクリーンヒットの技術が高いですよね。
小野寺 そうですね。
宮本 あとはオフボールの連続したスクリーンプレー。タイミングがすごく合っていたので、ある程度のアドバンテージを作ってオフェンスができていました。その辺はお話しいただいたような積み上げがあるから、新加入選手もスムーズにフィットできたんだろうなと感じました。
小野寺 宮本さんやっぱり見てますね! なんか恥ずかしいです(笑)。
宮本 いやいやいや(笑)!

選手の感覚や天才的なひらめきは必要ない。

小野寺 宮本さんだから話しますが、自分たちはアクションと呼んでるんですけど、エントリーとアクションを組み合わせてオフェンスを構築しています。そして、カウンターを作っているんですね。
宮本 今日もそこの練習をされていましたもんね。
小野寺 そうですね。相手がハードショーであればこうです。フラットであればこうですという形ですね。ピックアンドロールゲーム自体は昨シーズンと同じですが、ちょっと違うのは宮本さんがおっしゃっていただいた部分です。スクリーンゲームだったり、ポストヒットの後のスクリーンアクションですね。そこがスムーズに行えるようにするためには、まずは頭で理解をすることだと考えています。自分たちの原理原則をしっかりと理解した上で、身体に覚え込ませていく。そういう意味では、台湾での試合は遂行レベルが想定していたよりも高かったです。しっかりとスカウティングができない相手に対して、自分たちの原理原則でプレーできたことはすごく評価しています。もちろんまだまだ足りない部分がたくさんありますが、あの段階では満足できるレベルだったと捉えています。
宮本 原理原則というところは、今日の練習を見ていてもすごく勉強になりました。このポジションにポップアウトする。そうするとヘルプがこう来るからここが空きます。そういった細かい部分をここからさらに詰めていくのだと思います。
小野寺 そうですね。それがとても重要です。僕らはそこまでアクションは多くないんです。そのアクションに対しての適切なカウンターを作っていくことを優先しています。だから選手の感覚だったり、今までの経験値、天才的なひらめきは一切求めていません。動く位置は必ずここ、ハンドラーが突くドリブルの回数もディフェンスの状況によって指定します。そして、パスの種類も指定してプレーを作っています。もちろんその通りに行かないことは多々ありますし、選手が窮屈に感じることも多々あるとは思います。それでも、このようにボールを動かしていけばここでオープンを作れるという考えのもとでオフェンスを構築しています。
宮本 聞いといてあれなんですけど、この話はどこまで使っていいんですか?(※だいぶカットしました)
小野寺 ハハハ! そうですよね。僕は全然言ってもらっても大丈夫ですよ。

合理性と再現性を突き詰める。

宮本 その中で盛實選手が加入しました。彼はサンロッカーズ渋谷でルカ・パヴィチェビッチHCのもとで1シーズンを過ごしてきました。ルカコーチのバスケも「この場面ではジャンプパスだ」という決まり事が多くあります。今日、盛實選手がジャンプパスを出して、「やっちゃった!」というシーンがありましたが、現状のレバンガではジャンプパスを良しとはしていないですよね。そこにはおそらくボールを速く展開しつつ、ターンオーバーのリスクを回避するためという理由があると思います。
小野寺 そうですね。
宮本 ジャンプパスが良いとか悪いとかではなくて、このチームの原則としてはNGだと。そこに対する小野寺さんのこだわりや考え方を聞いてみたいなと思いました。
小野寺 そこに関して言うと合理性という言葉が一番合うと思います。これに関してはコーチの考え方で色々とあるとはずです。例えば、オーバーヘルプが来るからジャンプパスを使ってコーナーに飛ばしましょう。そういう方法論も考えられると思います。ただ、僕が最も優先していることは合理的かつスペシャルな選手がいなくても、全員が同じことをやれば同じ結果が得られるということです。例えば……そうですね。B.LEAGUEで言うとパスのビジョンやスキルは田中大貴選手(サンロッカーズ渋谷)だったり、齋藤拓実選手(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)などはスペシャルな選手だと思います。レバンガの選手は彼らのスキルセットには正直及ばない。けれど素晴らしい選手であることは間違いありません。だからこそ特別なスキルで違いを作るのではなく、彼ら全員が遂行できてかつそれによって効果的にオフェンスを進められるものを作ろうと思っています。その中で、もちろん選手たちには特性があります。例えば、盛實には他の選手よりも自由度を少し多く与えているのは事実ですね。
宮本 練習を見ていて、そこは僕も感じました。
小野寺 ただそれを許す以上は責任が伴います。その責任を全うできないのであればその権利はなくなります。中野もそういった選手です。シュートという特別な武器があるので、打てるのであればどんどん打っていいよ。ただ決めてきてね。その中で最優先されるものはあくまでも合理性であり、再現性になることは絶対です。逆の視点で考えれば、全員が一律にジャンプパスで出せるケースもあると思います。しかし、対戦相手のレベルを考えると僕らはB.LEAGUEのクラブと戦うので、グッドディフェンスチームに対して常に同じカウンターを使っていけるようにする必要があります。だからこそ僕は合理性と再現性という表現をしているのですが、このチームだったらできる。このチームだとできないということのないようにしています。よって盛實がいないと成立しないプレーはひとつもありません。もしも誰かにアクシデントがあってコートにいなかったとしても、このメンバーであれば誰を出してもできることが前提条件としてチームを作っています。

むしろちょっと教えてもらいたいなって思います。

宮本 今の話は僕が聞きたかったところにすごく重なります。合理性と再現性という部分は小野寺さんの絶対的な部分だと思いますし、過去のインタビューでもそこの話を伺いました。その中で実際にコートでのプレーに目を向けると、盛實選手が加入したことによって、バスケットボールに広がりが出たと感じています。その理由は左利きのハンドラーだと思っています。僕は左利きの選手って大事だと考えていて、レバンガだと昨シーズンは島谷選手だけでした。右ウイングからのミドルピックを使うときは、左利きの選手の方が選択肢が多いですよね。もちろんどちらの手も同じように使えることがベストですが、それは小野寺さんの言うスペシャルな選手だと僕は考えています。要するにピックアンドロールひとつとっても、選手の特性に合わせて小野寺さんはアクションを加えているはずです。だから、左利きのハンドラーが1人から2人になることは何気ないことですけど、かなり話が変わってくると感じました。
小野寺 そうなんですよね。いやー、宮本さんはやっぱり見てるなー。
宮本 いやいやいや(笑)。
小野寺 おっしゃっていただいた通りで盛實はもちろん、星野もそうですね。ボールを持つことで活きる選手が入ってきてくれたことは大きいです。そういう意味では、昨シーズンはある程度制限をかけていた部分がありました。中野と菊地はシュートが上手で、関野と松下の強みはディフェンスです。そこに盛實、星野、あとはドワイト・ラモスもいるので間違いなく幅が広がりました。僕たちが今日準備をしていたホーンズのアクションに関しては、基本的には2番と3番が使うプレーなんです。昨シーズンはそれを選択させていませんでした。戦術的なアップデートをするにあたっては選手個々のクオリティーは必要な部分なので、そこは間違いなく昨シーズンと違う部分であり、彼らの加入は大きいです。宮本さんが見ているポイントはすごく的確だと思います。
宮本 ハハハ、ありがとうございます。僕はだからこそスタメンに中野選手を使えるというメリットが生まれたと思っています。ちょっと表現がネガティブかもしれませんが、要はハンドラーが増えたことで明確なシューターを置ける。ディフェンスに関しては教育できるところがありますけど、オフェンスに関しては教育できないところもあるじゃないですか。彼のシュートは彼の努力と感覚に依存するところが大きいですけど、ディフェンスを教育することはできる。
小野寺 そうですね。
宮本 正直、中野選手は厳しいのかな……と思っていたんです。でもハンドラーが増えたことによって、彼のシュートという武器がより重要になったと感じています。
小野寺 それはありますね。彼のシュートに関しても実際そうなんですよ。僕はプレー経験がほとんどないので、彼にシュートの打ち方などは一切言いません。感覚的なものはよくわからないし、言語化できないじゃないですか。もしそれができているのであれば、日本にはもっと良いシューターがたくさん現れているはずです。だから、そこに関しては僕がコーチっぽいことをして教える必要はないと考えています。盛實もそうです。彼の見えているビジョンだったり、どこを見てプレーしているのか。今日の練習のように、ここにボールを送りましょう。そのためにこういうパスを使いましょうといった構造的なことは話すことができます。ただ、どこを見てプレーをするのか、どこに視点をおいて駆け引きをするのか……。それは僕に教えることはできません。そういう選手だったり、そういった特性に関しては、ある程度の権利を与えて制限はしないから結果を出してねというのがベストだと考えています。
宮本 台湾のゲーム1だったかな。盛實選手がピックを使って、ペイントに入っていきました。そこから独特のリズムでパーンとパスを出して、松下選手が右のウイングからスリーポイントを決めたシーンがありました。ペイントへの侵入までは構築できるじゃないですか。でも、出したパスはおそらく「こういうパスを使いなさい」というチームの原理原則に沿った中で、彼のリズムで出したパスだったんですね。
小野寺 はいはい、そうですね。あのシーンはおっしゃっていただいた通り、チームの原理原則の中でやってほしいことをやった上で、出してほしいパスを彼のリズムで出していました。あれがたとえ盛實ではなかったとしても、松下はオープンになるはずです。だけど、盛實だったから松下はよりオープンになったとも言えると思います。先ほどもちらっと話しましたが、選手によって自由度の違いは若干あります。ただ僕がレバンガに来てからは、そういう存在は盛實が初めてですね。見ていても、「そういう出し方もあるのか」と思うことがあるし、あのときのレイトパスも本来は要求しません。でも、盛實は要求していることをやってくれた上で超えてくるものがあるので、むしろちょっと教えてもらいたいなって思います。
一同 ハハハハハ!
小野寺 そういう意味でも、オフェンスの幅は今後もっと広がりが出ると思います。そのための準備に関しては僕の中ではすでにできています。

vol. 4に続く

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