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『ダブドリ Vol.11』インタビュー06 佐藤久夫(仙台大学附属明成高等学校)&志村雄彦(仙台89ers)

2021年4月30日刊行の『ダブドリ Vol.11』(株式会社ダブドリ)より、佐藤久夫さんと志村雄彦さんのインタビュー(聞き手:小永吉陽子氏)の冒頭部分を無料公開いたします。なお、所属等は刊行時のものです。

仙台高時代に師弟で日本一を達成し、現在はプロと高校でバスケ界を盛り上げている仙台大学附属明成高(以下、明成)の佐藤久夫コーチと仙台89ERSの志村雄彦社長。このたび、明成のウインターカップ制覇を祝して師弟対談が実現した。仙台高の連覇から20年。指導者と経営者の立場でチーム作りやバスケ界の未来を語り合った。(取材日:2月7日)

「お前らは俺を信じるのか。俺はお前らを信じてるよ」という意志の疎通があった優勝でした。(佐藤)

―― ウインターカップ優勝の話からいきましょう。決勝では最大17点差を逆転しての優勝。志村さんは戦いぶりを見ての感想を。佐藤コーチは優勝の手応えを聞かせてください。
志村 今シーズン、1回も全国大会がないという大変な状況の中で、最後まで粘る明成らしい優勝でしたね。純粋に「バスケットって楽しいな」という思いが凝縮した戦い方で、この日本中が苦しいときに、みんなに勇気と希望を与えてくれました。僕らは高校時代から「久夫マジック」と呼んでいたのですが、最後に勝ち切る久夫先生らしいチームだと思いました。教え子としても、「僕らの先生がまた優勝したよ」と喜んでいました。
佐藤 選手と一緒に戦っている俺にとってもハラハラするところはあったんだけど、毎日彼らが練習を頑張ってきた積み重ねがあったので、「お前らは俺を信じるのか、俺はお前らを信じてるよ」という意志の疎通だけは保ち続けた戦いだったな。あまりいい内容ではなかったけれど、選手たちが自分を信じて、チームを信じて、最後は開き直って、あきらめないで戦ってくれたんだ。
志村 僕のときも初優勝するまでめちゃくちゃ大変で、久夫先生についていくのが必死でした。でも優勝してみて、「先生についていって本当に良かったな」と心から思いましたね。この成功体験のために久夫先生は僕らにたくさん要求して、僕らもそれを信じて乗り越えていったんだなと思います。久夫先生に言われて覚えているのは、「試合は練習みたくやりなさい。練習は試合を想定してやりなさい」という言葉です。だから(ウインターカップ会場の)東京体育館では、仙台高校の体育館でやっているような気持ちで試合ができました。そこは明成になった今でも変わらないんだろうなと、教え子として思いました。
佐藤 そう。同じなんだ。
志村 僕らの時もビハインドから逆転する練習をしたじゃないですか。あのハンデゲームをやっていたので、逆転するイメージを持って試合に臨めました。
佐藤 今回は最大17点差を逆転してみて、ゲームは終わってみなければわからない、ということを新たに経験させてもらった。粘りというのは、ただ頑張ることじゃなくて、戦い方のことを言うんだ。残り何分で何点負けているならどう戦うかという過程の中で、一人一人が役割を出せるように努力することが粘りであって、それを全国大会の決勝で選手たちがみずから出せたんだ。だから俺はいつも選手に言うよ。「君たちは爺ちゃんにいつも声を出させているんだよ。だから、もっと自分たちでやらなきゃいけないんじゃないか」と。
―― 先ほど志村さんの話に出た「久夫マジック」。教え子としてどこがマジックだと感じるところなのでしょうか?
志村 まず、僕らが必死についていけば、先生は絶対に引き上げてくれるんです。練習では色々な場面を想定してやっていたので、先生を信じれば最後は絶対に逆転できると思えるところがありましたね。今回の優勝もそうでしたけど「ここだ!」という勝負所で明成の子たちのギアが入って一気に行ったじゃないですか。先生が「行け!」と言うと、選手は自然とここがターニングポイントだとわかる。結果、ブザーが鳴ったときには勝っている。「なんだこれ?」という感じですよ。それで、大学生になってもっと考えられるようになったとき、「久夫先生は勝負勘を培うためにトレーニングしていたんだ」と気づくんです。正直、練習はめちゃくちゃ厳しいですよ。でも試合になると優しい……じゃないですけど、最大の味方になってくれるんです。
佐藤 試合では「志村頼むよ」と、その一言だけなんだ。戦略とか勝敗の責任はこちらにあるので、選手には思い切ってやってこいと。それだけなんだ。

仙台高は県内選手だけで戦っていたチーム。「大きい選手には負けない」とハングリーさで戦っていた。(志村)

――   仙台高時代、志村さんにとって佐藤久夫先生はどんなコーチでしたか? また、高校時代に学んだことで印象に残っていることは何でしょうか?
志村 久夫先生がいつも言っていたのは「考えてバスケをする」ということ。僕はガードとして、常に一手二手先の展開を読むことを求められていました。たとえば、いいアシストにつながるその1つ、2つ前のプレーを大事にするようなことです。プロ選手になってもこの身長で渡り合えたのは、大きい選手を倒したいと、高校時代から目一杯、頭を使ってやってきたからです。
 正直、高校生のときは「何でそこまで言うの? こんなのバスケに関係ないでしょ」と思うこともありましたが、結果的に優勝させてもらったし、大学に行って、プロになって「久夫先生が言っていたのはこういうことか」とわかりました。指導は厳しかったですけど、それは愛情なんだとあとで感じました。今、若い職員には口酸っぱく言ってるんですが、きっと久夫先生に言われたことと同じことを話していると思います。
佐藤 まあ、俺も若かったからね。君たちにはたくさん練習をさせて本当に申し訳なかったと思ってるんだ。
志村 はい。走りました(笑)。
佐藤 仙台の卒業生と会うと「申し訳なかった」という挨拶から入るわけさ。でもあの頃にやってきたことはすべて財産になっているんだ。
 君たちが高校生の頃は情報が少なかった。だからこちらで問題を定義して、最新の情報を入れてあげないといけなかった。でも今は違う。情報はいろんなところから入るし、余計な情報も入って来る。その中で選手たちに指摘しているのは、「学び方をしっかりしよう」「なぜ注意をされているのか、なぜを考えよう」ということ。今の時代は何でも教えてもらえる恵まれた環境にあるので、教えてもらうまで考えないのではなく、「なぜ」を考えようと言っているんだ。
志村 今は携帯をすぐに見られる環境にありますよね。携帯を見れば答えがあって、教えてくれるのは携帯だと思っている。高校生のときは、久夫先生は僕に何を求めているのだろう、とずっと考えていました。その中でも駆け引きがあって、久夫先生を乗り越えてうまくなって「ギャフン」と言わせたいじゃないけど、そういう思いはありましたね。
佐藤 志村たちの代は学び方がうまかった。こちらが一つ注意すれば、次のプレーはどうしようかと考えていたわけだ。明成ではそうした考え方をもっとうまく教えることができれば、もう2回ぐらい優勝してもよかったんじゃないか、と反省しているところなんだ。
志村 明成ではうまくなりたいという思いで全国から選手が来るじゃないですか。でも僕らは県内だけの集まりで、全国から来た選手がいなかったので、宮城の選手だけで勝ちたい、能代工(秋田)に勝ちたいともがいていたし、ハングリーさで勝負するチームでしたね。
佐藤 仙台時代に言っていたのは、「恵まれない環境の中で頑張ることを看板にしよう」と。選手が集まっている学校には絶対に負けたくない。その思いで戦おうと言ってきたんだな。
 今はありがたいことに八村塁が育ってくれてね。そのおかげで次の八村塁を目指して明成でやりたいという子が来てくれる。その中で感じるのは、うまくなりたい、強くなりたい、夢をつかみ取りたいという思いはあるんだけど、ハングリー精神がまだまだ薄いということ。塁にも高校時代には「アメリカってそんな甘い世界じゃないよ。もっと競争意識を高めて、もっと上手になりたいと飢えた気持ちでやりなさい」と随分言ったな。それでアメリカに行ったら同じように「タイガーになれ」と言われて試練を乗り越えたんだ。
 だから、選手に言うのは、ここ(明成)に来れば何とかなるではなくて、みずからやってほしい。与えられてする努力は努力じゃないから。自分から頑張り抜くことを、強く呼びかけているんだ。
志村 僕もキャプテンをやったり、今は組織のトップに立って思うのですが、誰かに何かをやってもらうという行為はどれだけ難しいことなのかと、日々感じているところです。そういった意味では、先ほど久夫先生が言われたように、孫みたいな選手をついてこさせるのはすごいなあと思います。
佐藤 志村はハングリー精神でやってきたプロセスを生かして、今や立派な球団のリーダーになったな。
志村 いえいえ。久夫先生が教えてくれたおかげで、僕はバスケットで飯を食えていると思うので。
佐藤 いや、俺はお前に「バスケットで飯食え」とは言わなかったぞ(笑)。
志村 いや、あの……その……。
佐藤 お前には「お父さんとお母さんの跡を継いで学校の先生になるんだぞ」と言ったんだ。でも慶應では教員資格を取れる学部に進学しなかったから、別の大学に行って資格を取るんだと。それが高校卒業の時の約束だったなあ(笑)。
志村 そうです。すみません(苦笑)。

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この後も、佐藤先生のコーチングの根底にあるものや、時代の流れをどう見ているのか、そして宮城のバスケへの思いなどたっぷり話していただきました。続きは本書をご覧ください。

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