
『ダブドリ Vol.12』インタビュー06 鈴木貴美一(シーホース三河)
日本リーグ2部、アイシン精機シーホース時代からチームを率い、常にリーグのトップを走り続け、日本を担う逸材を輩出し続けている鈴木貴美一ヘッドコーチ。戦術・スタッツ分析サイト“B.League Analytics”を運営するしんたろうがその秘密に迫る。(取材日:2021年6月22日)
「もっとボールをシェアしてスペースを取るバスケをしたい」というのがずっとあった。
しんたろう 今シーズンはこれまでのバスケットボールを大きく変えた1年だったと思います。桜木ジェイアール選手がローポストからオフボールスクリーンを使って、効率良く得点していく、個人的にはデンバー・ナゲッツのニコラ・ヨキッチを彷彿させる、大好きなバスケットでしたが、これを変える構想はかなり前からあったのでしょうか。
鈴木 そうですね。ジェイアールは、やはりローポストのプレーがものすごく得意なんです。その得意なプレーを生かしながら、効率良いオフェンスを考えていくと、ああいう形になっていました。どういうオフェンスシステム、ディフェンスシステムが世界で流行っているか、そういった情報を入手していく中で、ローポストは段々減ってきていることもわかっていました。しかし、それを変えたいなと思いながらも、チームを支え続けてくれた功労者のジェイアールはローポストが好きだし、ピックが好きじゃない。彼を生かしながら、そういうスタイルになっていました。選手の特性を生かしながらそうなっていったということです。
しんたろう そうですよね。
鈴木 元々うちは、昔、『ファイブ』とかね(鈴木HCが指揮を取るアイシンシーホースを舞台にした平山譲のノンフィクション小説)、ありましたけど。リストラになった選手達を集めて、優勝して、そこから選手が来るようになったわけです。その頃から所属選手をどうやって生かすかってことを考えているわけです。そんな中で(橋本)竜馬君と比江島(慎)君の移籍がものすごく痛かったわけですが(18年に両名とも移籍)、探してもそんな選手はいないわけですよ。そこで若い熊谷(航)君、岡田(侑大)君が来てくれた。すると、今までいた選手達と年齢のギャップがあって、彼らも大変だったと思うんです。成長はしてくれたものの、やはり、ベテラン選手がいると、その選手がどうしても仕切ってしまう。20個フォーメーションがあったとして1個だけローポストのフォーメーションがあると、ジェイアールは得意ですからその指示を出すわけですよ。そうすると、ジェイアールの思った通りに、気持ちよく金丸(晃輔)君にパスしたり出来るけど、チームとしてはバランスが悪い。ディフェンスが緩くなった分、チームの成績も落ちてきて、やはり、ディフェンスにフォーカスして、もっとボールをシェアしたり、スペースを取ったり、流行しているオフェンスもやりたいっていうのが僕の中でずっとあってね。そこでジェイアールの引退を期にバスケットを変えようと考えていたところに、シェーファー・アヴィ(幸樹)が候補として出てきた。声を掛けたら「ジェイアールが引退するんですか!」ってびっくりしてましたね。それから一週間後に会社まで見に来てくれて。「うちはビッグマンの代表選手、祐木(毅)、竹内公輔、塩屋(清文)、福手(登成)を過去に育ててきた実績がある」という話をしたら、彼も全部調べてきていて「代表の選手、一番、出てますよね」と言ってました。プレーイングタイムについても聞かれて、そこは自分で勝ち取るものなので答えなかったけど、心の中では育てようという気持ちがあって、悪くても全試合スタートで出し続けようと思っていた。それでやはり期待に応えて育ってくれて、代表でも生き残っていますよね。
しんたろう そうですね。
鈴木 もちろん周りからは「ジェイアールがいなくなったら弱くなるんじゃないですか。アヴィは経験ないでしょう?」と言われました。
しんたろう (笑)。
鈴木 でもスペースを広く取ってボールを動かすバスケットに変えて上手くシフトできたかな、と思っています。
しんたろう ガードナー選手をトップに置いて、ファイブアウトの形になりますよね。そのバスケットは、前からあったということなんでしょうか。
鈴木 僕が最初に来たときは、ファイブアウトをやってたんですよ。
しんたろう そうだったんですか!
鈴木 その後、フォーアウトも試しました。ジェイアールをセンターにすればいいんですけど、どうしてもそこがウィークポイントになるので、ジェイアールを4番で使って、5番のビッグマンを取って、ディフェンス部分では不安材料が残るバスケットになっちゃったんですよ。ただ、ジェイアールの代わりのビッグマンはどこにでもいるわけじゃない。そうすると、やはりそのメンバーで勝つことが我々の仕事なので、ああいうインサイドを攻めるバスケットになったんです。
昔は外山(英明)君というスリーポイントシューター、後藤正規君、佐古(賢一)君、カール・トーマスという3番の選手がいて、ジェイアールがセンターでした。若かったのでセンターができたんですね。
しんたろう コリンズワース選手はシェーファー選手の後で獲得を決めたのでしょうか。
鈴木 そうです。ビッグマンを取ってしまうと、アヴィを勝負所で出さなくなってしまう可能性があるし、1、2番は若くて弱い部分だったこともありました。チーム全体でボールを散らしたい理想があって、パスも上手くてディフェンス、リバウンドも強かったので獲得を決めました。
しんたろう まずはドライブとパスだったってことでしょうか。
鈴木 そうですね。スリーポイントは得意じゃないのは分かっていて、ドライブと、パス、それからディフェンスもかなり良かったです。
しんたろう 外国籍のポイントガードのスターターはB1チームにはなかったですし、途中からの合流というのは大きな決断があったと思いますが。
鈴木 日本人のチームは4、5番が弱いから4、5番の外国人を取りますよね。ウチはガード陣が若くて経験がないから、彼らを成長させるため、そして、その弱い部分を補わなきゃいけないので取りました。新しい選手だし、噛み合わないとかリスクはありますよ。でもアヴィをスタートにする、カイルをスタートにする、そういった思い切ったことをやらないとチームが変わらないじゃないですか。ある意味、賭けでしたけどアヴィが期待に応えて成長して、チームも良くなりましたね。
しんたろう こういったコンセプトの変化について、海外からインスピレーションを受けることもありましたか。
鈴木 NBAのコーチも良く知っていて、練習や合宿も参加したり、プレーブックをもらったり、会社のおかげで長年続けられていますね。その中でハンドオフ、ボールスクリーンのバスケットが流行ってきていて、24秒でアーリーオフェンスをやるとかにシフトしてきたのはわかっていました。今は、練習も全く違う練習になりましたね。強度も変わりました。
練習をきちんとやらない選手は使いません。勝つためにやっているので、彼らには勝ちにこだわる選手であってほしいです。
しんたろう 新しいバスケットに変えると伝えた際、アシスタントコーチ陣や選手の反応はどうでしたか。
鈴木 コーチ陣は「おお、来た、来た」「ディフェンスも違うな」ってノートにメモして喜んでて、選手も喜んでましたね。ジェイアールがいなくなるとダバンテ・ガードナーが上に出てくる(インサイドからトップに出てくる)わけですよ。僕が「こういうバスケットをやりたい」と伝えると、ガードナーも「これは良い!」と言って。元々彼はローポストが得意でパスも出来るけど、上の方からピックアンドロールをやりたかったので、ちょうど良かったですね。ガードナーがローポストだけやりたいってなったら、逆戻りになるので。
しんたろう 選手は戸惑ったんじゃないかと思ったんですが、そうではなかったんですね。
鈴木 練習で「今年はレギュラーオフェンスをこういう風にやる」って言ったら、顔つき見たら「ああ、違うことやるんだ」って感じだったんですけど、みんな喜んでましたよ。選手がやりたいことに近づけてやらないと、良い結果は出てこないんですよ。
しんたろう シェーファー選手を開幕からスターターで使い続けていたというのは、やはり育てるという感覚が強かったのでしょうか。
鈴木 もちろんです。でも、育てるためだけじゃないですよ。彼が勝利するチームの一員として育っていくように、勝利を狙いながらやりました。今までもそうです。比江島君だって1年目は僕に言わせれば全然ダメですから。それを使って、使って、3年目ぐらいに日本代表のスターになったんですよ。
しんたろう はい。
鈴木 竹内公輔君も同じで、1年目から完璧にできる新人なんていないですから。使っていく中で、チームも当然ポテンシャルがあったら、上に上がっていく。そういう考えですね。
しんたろう シェーファー選手は外があるところが素晴らしいですが、前半の30試合で、全くスリーを打たない試合が6試合ありました。
鈴木 ありました。
しんたろう 最後の25試合は本数も増えて、打たなかった試合が2試合だけでした。
鈴木 前半戦は、オープンになってるのに打たなくて、「打たなきゃ駄目だ、打ちなさい」という感じでした。例えば「右に行きなさい、左に行きなさい」これは萎縮に繋がるけど「ノーマークになったら打ちなさい。落ちてもいいから打ちなさい」というのは、嬉しい怒られ方じゃないですか。
しんたろう はい、そうですね。
鈴木 だから、そういうのは僕、叱ってもいいと思うんですよ。逆に喜ぶことじゃないですか。それで打つようになりました。おそらく滋賀にいたときは役割として打っちゃ駄目だった。だけど、僕はスリーポイントを打たなかったら、代表でどうやって活躍するんだと思ってました。
しんたろう 代表を見据えていらっしゃるんですね。
鈴木 もちろん勝つためにやってますよ。だけど、今まで代表選手を育ててきたという自負もあるし、ウチで頑張った選手が、別のチームで頑張っていることも喜んでます。育成して勝てなくてクビを切られてもしょうがない、そういう覚悟でやっているわけです。だから、勝負に対して貪欲じゃない選手は使わないです。その選手のファンは当然怒りますけど、僕は、優勝のメンタリティを持ってない子は使わないですよ。だから、中途半端に携わっていればいいという子はウチにはいられない。厳しいですよ、そういう意味では。
しんたろう 高橋耕陽選手についても同様のコメントがありました。
鈴木 はい、同じです。彼は、ドライブも、パスも、シュートもすごく良いもの持ってる。もったいない、もっと貪欲になってくれと思ってました。
しんたろう そうでしたか。
鈴木 はい。でも、彼は練習をやり出した。練習中に良くなった。それで、途中で使い出しました。
しんたろう 3月の終わり頃に、急にスターターに入りました。
鈴木 それは彼が練習をやったからです。僕は、言葉で暴力的に威圧したりしないし、叱咤激励もせず、どちらかと言えば褒めながらやってます。ただ、練習をきちんとやらない選手は使わない厳しさはありますよ。勝つためにやっているので、彼らには、勝ちにこだわる選手であってほしいです。
しんたろう なるほど。
鈴木 ウチに来る選手はみんなそうだと思うんですよ。優勝する可能性がある選手、そういうマインドの選手が来ていると思ってます。

★ ★ ★ ★ ★
このあとも、20-21シーズンでの変化やチームの信頼についてなど、たっぷり語ってくださっています。しゃべるのが好きな鈴木HCのタイムアウトが短いワケは......?続きは本書をご覧ください。
#シーホース三河 #鈴木貴美一 #アイシン #Bリーグ #バスケ #ヘッドコーチ #戦術 #戦略 #勝負師 #スタッツ #しんたろう #インタビュー #ダブドリ