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大倉颯太は名店のステーキを味変できるのか?!

どうも、発行人大柴です。これまではポッドキャストで喋っているだけでしたが、アルバルクの広報さんから「ポッドキャストより記事の方がいいです」と聞いたので今季からは少しずつ観戦記を綴ろうかなと思っています。まずは10月5日に行われた開幕戦、越谷@A東京第1節ゲーム1をお送りします。(大柴壮平)

 突然だが、アルバルク東京と聞いたとき、みなさんはどんな言葉を想起するだろう。好意的な貴方からすれば「王道」かもしれないし、アンチの貴方からすれば「金満」かもしれない。人によってイメージは変わるだろうが、私の中のアルバルク東京は、

「重厚」


である。

 各ポジションにフィジカルエリートが揃っていて、そのエリートたちが死ぬ気でディフェンスしてくる。
 そして一度ボールを保持すると安易に走らずじっくりセットを組んで攻める。

重い。


 相手のうめき声が聞こえてくるかのようなバスケだ。
 今のBリーグのトレンドは走るバスケだから、そんな重いペースに付き合いたくないチームが多いのだが、走ろうと思ってもアルバルクのオフェンシブ・リバウンドがやたら強いのでなかなか走れない。
 いつのまにやら相手の選手たちが根負けしてしまう。それがアルバルクの勝ちパターンである。

「アルバルクさんの遂行力、自分たちの遂行力の無さが少しずつ出て、力の差を見せつけられた試合だったと思います」

 という記者会見での越谷・安齋竜三HCのコメント通り、75対57と快勝で終わった今日の開幕戦も、内容は実にアルバルクらしい勝ちっぷりだった。

 アルバルクは強い。
 しかし、昨シーズンまるまるアルバルクを追った私は、当然のことながら負け試合もこの目で見ている。
 強いアルバルクの数少ない弱点。それは、

流れを引き寄せる手段が少ない


ことだろう。

 その理由を説明する前に、アルバルクの試合内容をもう少し言語化してみよう。

 ペースが遅いということは、1試合に生まれるポゼッションの数が少ないということを意味する。ということは、選挙における1票の格差と同じで、1ポゼッションの価値が高くなる。

 アルバルクの場合は、まず第一にディフェンシブ・ポゼッションの質をとにかく高める努力をしている。
 次に、オフェンスに関してはオフェンシブ・リバウンドを重視することで1ポゼッションをできるだけ長く繋げている。
 じっくり攻めることでポゼッションの数を極力減らしつつ、ディフェンス力とオフェンシブ・リバウンドのパーセンテージを上げて1ポゼッションごとのレーティングを上げる。
 ざっくり言えばこれがアルバルクのスタイルだ。

 このアルバルクのスタイルだと、なぜ流れを引き寄せる手段が少なくなるのか。

理由は二つある。


 一つは、バスケで最も流れをつかみやすいトランジションの片方を放棄していることだ。いい流れで得点を決めて、しっかりディフェンスに入る。これはやっている。むしろ大の得意だ。
 ところが、いいディフェンスをした後のイージーな得点は少ない。よほどのことがなければ速攻を出さずに遅攻を選ぶので、毎ポゼッション流れからではなく自力でズレを作る必要が出てくる。

 もう一つは、スリーポイントだ。トランジションからもがんがんスリーポイントを打つ現代にあって、アルバルクのスリーポイントは、まずアテンプトが少ない。スリーポイントを連発で沈めるような火力のあるチームは流れをつかみやすいが、アルバルクにはそれが無い。
 グダイティスがノンシューターな上に、以前は打っていたはずのサイズとロシターのアテンプトが減少しているので、とにかくスペースが狭いのが理由だ。たまにSNSでシューターの安藤がやり玉に挙げられているのを見るが、私は安藤個人ではなくスペーシングの問題が大きいと思っている。

 ではアルバルクは速攻とスリーを増やせば強くなるのか。実はそう単純な話ではない。

速攻とスリーポイントが増えないのには理由がある。

 
 速攻を増やすと、減らしたいはずのポゼッション数が増えてしまう。ビッグマンにスリーポイントを打たせば、オフェンシブ・リバウンドは減るだろう。
 つまり、アドマイティスHCは速攻とポゼッション数、スリーポイントとオフェンシブ・リバウンドの二つのトレードオフを考慮した上で現在の戦術を取っているのだ。

 おそらくアルバルクの重厚なバスケットボールは大体において上記のような思想に基づいて作られているはずで、その証拠に昨シーズンはオフェンシブ・レーティング3位、ディフェンシブ・レーティング2位、ペース23位という数字を残している。

 開幕戦を見る限り、アルバルクは昨シーズンと同じスタイルをさらに突き詰めていって優勝を狙うつもりだ。

 いや、わかるよ。
 実際強いし。
 でも、たまにこういう時間帯ありませんか?

ちょっと味変欲しくない?


 重厚なアメリカン・ステーキにあえておろしポン酢をかけるような。
 餃子を酢と胡椒で食べるような。
 うな重にワサビをつけるような。
 そんな時間帯があると、相手はよりやり辛くなるのではないだろうか。
 拮抗した状況を打ち破る。
 相手に行きかけた流れを再び手繰り寄せる。
 そのために必要なのは大幅なコンセプトの変更ではなく、ちょっとした変化。
 味変なのだ。

 とは言え、コンセプトがしっかりしている分、簡単にできることではない。
 無いものねだり、高望みの類かと思っていたのだが……。

 いましたよ、味変をやれそうな男が!

大倉「(越谷に元A東京の)竜馬さんがいることで、こっちのやりたいことをさせないようにしてきたんで、そこを壊してから僕らのペースにしようと思ったんですけど、そこで僕のやりたいこととコーチの求めていることが違ったということがあって。後半に入った時はコーチの求めていることをエクスキューションしようと思って入った結果、そこから僕の流れが良くなったので、(前半は)ディシジョンミスかなと思います。僕は正しいと思ってやったんですけど、コーチとの考えの違いがあったのかなと」
大柴「コーチ的には読まれている状況でもセットをやりたかったということですか?」
大倉「そうですね。コーチがリズムをつかみたいんで。(僕の判断は)結果的にミスになったんで。成功したらなんて言っていたかわかんないですけど。ミスをしちゃった僕も悪いんで」

 実は大倉選手には東海大時代にダブドリ本誌で岡田侑大選手(現京都ハンナリーズ)と対談してもらったことがある。
 その時にとても印象に残っているエピソードとして、岡田選手と二人でご飯を食べている時に、どうしても我慢できなくなった大倉選手がパソコンで自分のプレーを見返し「ひとり反省会」を始めたというのがあった。
 とんでもないバスケオタクぶりだ。
 
 大倉颯太a.k.a.バスケオタクは続ける。

「自分の良さを出してアピールしていかなきゃいけないポジションにいるので、怖がらずにチャレンジしているところです」
「ミスしたらミスしたでもちろん言われるんですけど、自分が思ったことをプレーしてそれが結果に繋がれば、そういうオプションもあるんだ、いいディシジョンだったとコーチも思ってくれると思うんで。自分の良さをところどころ出していかなきゃいけないと思いますし、それがポイントガードの役割かなと思っています」

 セットは理解しつつも、戦局を見ながら自身の良さを出していきたい。それがアドマイティスHCの思惑と違う時があるかも知れないが、結果を出せば新しいオプションとして認めてくれるはずだ。
 それが大倉選手の考えである。

 はたして、大倉颯太はアルバルクという名店の重厚なステーキを味変するスパイスになれるのか。
 その期待感で、私のアルバルクを追うモチベーションは上がっている。


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