日本バスケを世界10位に導いた男たち〜 杉本天昇 ムードーメーカーが見た初めての世界 後編〜
男子日本代表が東京オリンピックに出場し、FIBAバスケットボールワールドカップ2023でアジア最高位となり、パリオリンピックでは世界を驚かせた。史上最強の日本代表、日本バスケの夜明けと言われる彼らだが、それ以前にも日本バスケの力を世界に知らしめたチームがあった。2017年に開催されたFIBAU19バスケットボールワールドカップ日本代表。彼らは当時のFIBA主要大会における日本代表歴代最高位となる世界10位に輝いた。この企画はエジプト、カイロの地で日本バスケの歴史を作った男たちに話を聞いていく。彼らはあの日、何を感じ、そして今何を思うのか。2回目はファイティングイーグルス名古屋で活躍する杉本天昇。プロキャリアのスタートで膝の大怪我を負い、そこからカムバックを果たした。世代屈指のエースとして、その輝きを取り戻そうとする彼が今振り返るあの大会とは。（文：宮本將廣 写真：FE名古屋）
2017年FIBAU19バスケットボールワールドカップメンバー（当時の所属）
ヘッドコーチ トーステン・ロイブル
#4 三上 侑希 (中央大学 2年)
#5 増田 啓介 (筑波大学 2年)
#6 シェーファー アヴィ幸樹 (ブリュースターアカデミー)
#7 水野 幹太 (法政大学 1年)
#8 八村 塁 (ゴンザガ大学 1年)
#9 榎本 新作 (ピマ・コミュニティ・カレッジ)
#10 津屋 一球 (東海大学 1年)
#11 重冨 周希 (専修大学 1年)
#12 杉本 天昇 (日本大学 1年)
#13 鍵冨 太雅 (セント・トーマス・モア・スクール)
#14 西田 優大 (東海大学 1年)
#15 中田 嵩基 (福岡大学附属大濠高校 2年)
杉本天昇選手の前編はこちら
前回までのインタビューはこちらからお読みください。
そこで世界との差を肌で感じました（笑）
宮本 では、FIBA U19バスケットボールワールドカップ2017（以下U19W杯）の話を聞いていきたいと思います。FIBA ASIA U-18男子バスケットボール選手権大会(以下U18アジア選手権）で2位になって、U19W杯の出場権を獲得しました。これは僕の視点なんですけど、当時は試合を見ていて、「この世代はアジアでは負けないな」という印象を持ちました。それまではフィジカルで勝てないとかいろいろ言われていたけど、フィジカルも劣っていないし、しっかりと戦術で凌駕していく。U19W杯では最初にスペインと対戦しましたが、何か覚えていることはありますか？
杉本 八村塁（NBA /ロサンゼルス・レイカーズ）がすごい点数を取りましたよね？（この試合両チーム最多の20点） アジアを戦ってある程度の結果を出せたから、個人的には割と戦えるんだろうなと思ってたんですけど、本当に歯が立たなかった。塁はアメリカでずっとやっていたから、一人だけ通用していたっていう感じでした。
宮本 最終的には10点差ぐらいで負けたのかな？(67-78で敗戦）
杉本 そうですね。戦術うんぬん以上に、最後のショットもちょっとビビっちゃってました。スペイン戦に関しては、自分も含めてやってきたことが出せなかったっていう印象強いですね。
宮本 その中で八村塁が1人でゲームをなんとかしたっていう感じ？
杉本 そうですね。ちょっと困ったらパスを出しちゃうみたいな。
宮本 それこそ三上選手のインタビューで、「ロッカールームに戻ったら、塁が持っていたペットボトルを投げつけて、めちゃくちゃ悔しがってた」って。そのシーンは見ていない？
杉本 見ていないですね。むしろ三上さんのシュートがU18アジア選手権から入らなすぎて、めちゃくちゃ病んでいたことは覚えてます（笑）！
一同 ハハハハハ！
杉本 三上さんってウインターカップでシュートを決めらなくて、泣いていたじゃないですか。U18アジア選手権のときもシュートが入らないと俺とか西野（西野曜/福井ブローウィンズ）が「泣いたら入るかも！」ってよくいじってました（笑）。そんなことをしてたら、本当になんかの試合で結構当たったんですよ（笑）。あの人って入るときはめちゃくちゃ入るから。ロイブルも三上さんの調子は関係なくずっと使い続けていたんですごいなって思ったし、それに応えようとする三上さんもかっこよかったです。これは伝えてください、天昇がめちゃくちゃ褒めてたって！
一同 ハハハハハ！
宮本 伝えておきます。むしろこれを読んでくれるはずだから（笑）。それこそU19W杯から八村塁選手が招集されて、メンバーが若干変わった。U18アジア選手権で頑張ったインサイドのメンバーが外れて行くのは、杉本選手的にはどうだったんですか？
杉本 U19W杯が決まって、そこからはまたセレクションが始まった。友達だし仲間だけど、セレクションがあるからバチバチする。八村塁は別格でしたけど、あとは本当に誰が残るか分からなかった。メンバー発表はミーティング室みたいなところで各ポジションごとに名前が出されていました。U18アジア選手権を戦ったインサイドのメンバーはほとんど落ちて、そこに塁が入った。そのときは複雑な気持ちでしたけど、同時に自分は選ばれたのですごく嬉しかったですね。
宮本 今はプロ選手だから気持ちの持ち方が全然違うと思うけど、当時は仲の良かった西野選手などが落ちたっていうのはどういう心境だったんですか？
杉本 声はかけなかったはずですね。肩をポンポンって叩いて終わり。その後にご飯を食べて帰るみたいな感じだった気がします。まだプロではなかったけど、やっぱり勝負の世界なので。複雑だけど受け入れないといけないって感じでしたね。
宮本 なるほどなー。話を戻して、U19W杯では2戦目でマリに勝利します。（76-73で勝利）
杉本 マリ戦はアヴィ（シェーファー アヴィ幸樹/シーホース三河）が頑張っていた印象が強いです。あのときのアヴィは八村塁のバックアップなので、プレータイムもそこまでなかった。それでも頑張っていた印象が強くて、彼のおかげで勢いづいて勝利したっていう記憶があります。
宮本 そして、予選の最後はカナダです。
杉本 これはめっちゃ印象に残ってますわ！ やばかったです！ 当時の僕はベンチから出て、ディフェンスから流れを変える役割だったんですけど、RJバレット（NBA/トロント・ラプターズ）！ トップから抜かれてスラムダンクをかまされたんですよ。今でも覚えています！ 桁違いな動きをしてたんで（笑）。あの大会ってカナダが優勝したじゃないですか。最終的には、「すげーなー」で終わらせましたね（笑）。結構な点差で負けましたもんね。
宮本 75-100かな。
杉本 ですよね。ちょっとやばかったです。多分、僕らのことは舐めてたんですよ。カナダが優勝候補って聞いていたんですけど、1クォーターがいい勝負だった。まだ学生だったし、「これ、勝てるぞ」みたいな感じでふわっと2クォーターに入ったら、孫悟空がスーパーサイヤ人になったぐらいのレベル差で、「えー！！！」みたいな（笑）。そこで世界との差を肌で感じました（笑）。
イタリア戦で、頭が真っ白に……
宮本 予選が終わって、ラウンド16の初戦はイタリアと当たります。これもすごい試合だったよね。（55-57で敗戦）
杉本 確かイタリアは……僕、スタートで出た記憶があるんですけど。
宮本 いや、違うね（笑）。
杉本 あれ（笑）？ 西田がどっか痛めてスタートで出た記憶があるんですよね。
宮本 基本的には、バックアップのスコアラーっていうイメージがあったな。
杉本 そうです、そうです。何かの試合でスタートで出た記憶あるんですけど……。
宮本 このラウンド16のイタリアは、最後に八村選手が2本のスリーポイントを決める。しかもえげつないやつを（笑）。そこから最後にタップショットみたいなのを残り2.4秒で決められて、逆転される。
杉本 あ、そうだ！ 俺がついてた選手に……（笑）。あの日、「やべえ、俺のせいで……」って、もう頭の中が真っ白になって……。左サイドから決められたやつですよね？
宮本 そうそう。でも、この大会は決勝がイタリアとカナダだったから、むしろこのゲームで日本の評価はすごく上がったっていう。
杉本 そうです。その当時、大会のインタビューで来てくれていた青木崇さんからも、「勝てたよ！」って言われた記憶があります。
宮本 まあ、杉本選手としては苦い思い出ということで（笑）。
杉本 そうですね（笑）。
宮本 次の韓国戦は15点差ぐらいで勝利します。（77-64で勝利）
杉本 韓国戦は印象に残ってますね。何かのフォーメーションプレーから僕と八村塁でアリウープをかましたんですよ。その写真は実家に飾ってあります！ 家宝です！
一同 ハハハハハ！
杉本 2人で喜んでるシーンもFIBAかどこかが撮ってくれたんですよね。それも秋田の実家に飾ってます。アジア同士の対決ってやっぱり負けられないじゃないですか。特に韓国にはってなるので、みんな気合いが入っていましたね。
宮本 イタリアをあと一歩まで追い込んだ中で負けてしまって、チームの雰囲気はどうだったんですか？
杉本 そんなに落ち込むことはなくて、次だって感じでしたね。僕は真っ白でしたけど（笑）。そういう意味では、メンバーもすごく前向きだった記憶があります。どの試合が終わっても、「次だ、次！」って感じで、みんな前を向いていましたね。
宮本 韓国の次は開催国のエジプトに勝利します。（76-73で勝利）
杉本 あ、そこで三上さんが爆発しましたよね？（この試合で三上侑希が17得点）みんな自分のことのように喜んでいた記憶があります（笑）。三上侑希がいつも以上の三上侑希だったんで、もうお祭り騒ぎでしたね（笑）！ ロイブルもめちゃくちゃ喜んでいました。明成の三上侑希はめちゃくちゃシュートが入る印象だったんだけど、代表の三上侑希はめちゃくちゃシュートが入らない印象だったから（笑）。彼は常に半端ない重圧にやられていました（笑）。
宮本 そこは年上だけど、やっぱりお構いなしにいじったりしてたの？
杉本 はい、めちゃくちゃいじってました（笑）！ いじるとガチで落ち込んでいたときがあったんで、ギャグになってないときもありましたけどね（笑）。
宮本 このチームのキャプテンだからね（笑）。
杉本 そうですよ！ 三上さんのキャプテンは、今じゃちょっと考えられないですね（笑）。
宮本 今、このメンバーでチームを組んだとしたら、彼をキャプテンには……？
杉本 できないです（笑）！ 今だったら、津屋とかがやるんじゃないですか。
一同 ハハハハハ！
宮本 最後にプエルトリコと対戦します。（67-68で敗戦）三上選手のインタビューのときに、「これ、勝てたんだよな」ってさらっと言ったら、「僕がエンド1を決められて逆転負けしたから、めちゃくちゃ悔しかったんです」って言われました（笑）。
杉本 あー、そうだ！ それもいじった記憶があります。三上のせいだって（笑）！
宮本 いじりすぎだろ（笑）！ 当時の記憶で他に覚えていることってある？
杉本 アイザイア・マーフィー（名古屋ダイヤモンドドルフィンズ）もU19W杯からメンバーに入ってきて、当時は八村塁と常に一緒にいましたね。
宮本 波長が合うのかな？
杉本 めちゃくちゃ合ってましたね。ずっと騒いでいた印象があります。それこそ、僕はU18アジア選手権からずっと津屋（一球/三遠ネオフェニックス）と同じ部屋だったんですよ。アジアで2位になって、表彰式で「よっしゃ！世界大会に行ける」って思っていたら、横で津屋が号泣してて……。喜んじゃダメなのかなと思っちゃった記憶があります（笑）。
宮本 津屋選手からすると、優勝できたのにっていう気持ちが強かったんだろうね。
杉本 そうでしょうね。決勝がイランだったんですけど、予選ではイランに勝ったから勝てたかもしれない。でも、僕は2位になれたことが嬉しくて。そういえば、U18アジア選手権はイラン開催だったんですけど、治安がすごい……あれでした（笑）。控室にでかい鏡があって、いろんな人が覗いてくるんですよ。やばかったですね（笑）。
バスケをしたい、コートに立ちたい。
宮本 この大会からさらにステップアップした選手もいれば、三上選手のようにこの大会から何かが噛み合わなくなってしまった選手もいる。（三上選手のインタビューはこちら）そして八村塁選手のように、この大会をきっかけに世界のトップまで駆け上がっていった選手もいる。この大会からいろんなストーリーが続いていきました。杉本選手にとって、この大会は自分自身にどんな影響を与えましたか？
杉本 まずはU18もU19も楽しかったなっていうのが一番大きいですね。普段はやれないメンバーと切磋琢磨することで、自分の成長にも繋がったし、あの時間があったから上のカテゴリーでもやりたいっていう目標に繋がりました。当時はB.LEAGUEができたばかりだったけど、この大会を終えて、明確に「プロでやりたい」と思いました。フル代表にも選ばれたいと思いましたね。大学に戻ってからは意識が変わったし、それこそ大学を途中で辞めて、プロに行きたいなとも考えたんですよ。
宮本 へー！
杉本 でもわざわざ大学へ通わせてもらっているのに、辞めるのはもったいないなって。結果的にはちゃんと卒業しようって思いましたけど、あの代表活動があったから今があることは間違いないですね。
宮本 そんな中で、前回インタビューをした三上選手に杉本選手への質問を考えてもらいました。1つ目が、大きい怪我をしたときの心境を教えてください。
杉本 僕は特別指定選手として群馬クレインサンダーズに行って、ある程度試合に使ってもらいました。状態も良くなってきたときに前十字靭帯を断裂したんです。僕はあまり怪我をしてこなかったので、頭が真っ白になりましたね。それでも平岡さん（平岡富士貴/当時の群馬クレインサンダーズHC）が、「待ってるから！」って言ってくれて……。でも、1週間経っても何も考えられなかった。ちょっと歩けるようになってから試合を見に行って、「やっぱりもっとプレーをしたいし、コートに立ちづけたい」と思いました。このままじゃダメだと思って、リハビリを頑張ろうって。あとは同じタイミングで群馬に加入したてる（菅原暉/群馬クレインサンダーズ）の存在は本当に大きかったです。プロでも一緒にやりたいねって同じチームに行ったので、やっぱりてると一緒にバスケがしたいと思いました。しんどかったですけど、純粋にバスケをしたい、コートに立ちたいっていう気持ちだけでしたね。
宮本 三上選手は自分が同じ立場だったら、精神的にしんどいから無理だと思うって。
杉本 いや、精神は狂いましたよ（笑）。全然関係ないけど、それと同時に卒業論文にも追われてて、頭がパンクしそうでした（笑）。思い描いていたプロキャリアのスタートじゃなかったのはマジでしんどかったです。
宮本 菅原選手とはほとんど一緒にできなかったしね。
杉本 そうですね。今年はコートで対決したいですね。
宮本 三上選手からの質問はまだあって、そこから復帰をして新潟アルビレックスBBで結果を残していく。天昇らしいプレーは見れたけど、今度はチームがちょっとうまくいかなかった。個人としてはすごく気持ちよかっただろうけど、そのバランスはどうでしたか？って。
杉本 三上さんはアナリストでもやってるんですか？ すごい調べてるな！
一同 ハハハハハ！
宮本 なんだかんだでちゃんと見てたらしいよ。
杉本 やっぱりいい奴だな！ 俺たちの永遠のキャプテン！
一同 ハハハハハ！
杉本 群馬のときは膝が完治するのにすごく時間がかかりました。思っている2倍は動けないんですよ。しかも痛いし……。新潟に移籍が決まって、足の状態も良くなった。スタッツも伸びたし、自分としてはすごく満足したシーズンだったんですけど、それで降格するっていうのは怪我とはまた違ったしんどさでした。あのシーズンの新潟は勝てなくて、ヘッドコーチがシーズン中に変わったり……。チーム自体もモヤモヤしている時期が続きました。それを立て直してくれたのは、コフィー・コーバーンでしたね。強烈なインサイドがいなかった中で、プレーはもちろんですけど、すごく明るくて周りにいい影響を与えてくれる選手でした。あるときに彼が、「勝ちたいんだ」って涙を流していたんですよ。感情をストレートに出してくれたことで、一体感が生まれましたね。結局は降格してしまったんですけど、彼の加入は本当に新潟を救ってくれました。
宮本 そうなんだ……。これが最後の質問です。「いつ北海道にくるの？」って。会いたいらしいです！
杉本 ハハハ！ 僕も会いたいですね！ 三上さんって今は北海道で働いているんですか？
宮本 そう。北海道のテレビ局で働いてる。
杉本 え、そうなの？！ 僕も三上さんに会いたいけど、ちょっと二人は嫌ですわ！
一同 ハハハハハ！
宮本 じゃあ、俺も北海道だから、3人で（笑）！
杉本 そうっすね！ でも、今シーズンは北海道での試合がないんですよ。僕、特別指定選手で北海道にいたんですけど、きたえーるから徒歩2分ぐらいところに住んでたんですよね。
宮本 豊平公園駅ほぼ直結じゃん（笑）！
杉本 それです（笑）！ 三上さんを元気づけよう会しましょうよ。お願いします！
宮本 もう元気だけどね（笑）！ じゃあ、大学のときも会ってはいないんだ？
杉本 会ってもいないし、連絡も取ってないですね。「三上は？」って感じにはなってたんです。だけど、連絡するもんでもないなっていう。みんなから連絡が来たらもっと嫌になるかなって。僕と西野は結構気にかけてたんですよ。よくいじらせてもらってたんで（笑）。三上さんの話をしてたらちょっと会いたくなったんで、これが終わったら連絡しときます（笑）。（このあと、三上選手にボイスメッセージで「取材受けたよ」と連絡が来たらしい）
宮本 今はもう社会の荒波に揉まれて、シュートが入らないこともネタですよって言ってたわ。
一同 ハハハハハ！
宮本 僕が外しても、塁が取ってくれたんでって（笑）。
杉本 最強のチームメイトがいますからね（笑）！ 泣き虫シューターめ！
一同 ハハハハハ！
宮本 じゃあ、この後連絡してみてください。また違う選手に話を聞いていきたいんですけど、この選手の話を聞いてみたいとかある？
杉本 うーん……水野幹太（京都ハンナリーズ）でお願いします！ あの時の幹太はあんまり試合に出れていなくて、結構しんどかったと思うんですよね。あとU18の代表から一緒だったんで、感じていたことを聞いてみたいです。友達同士だと逆に深い話ができないので、宮本さんがちょっと掘り出してください！
三上侑希選手は3x3で現役復帰を果たしました。
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