『ダブドリ Vol.13』インタビュー06 藤田弘輝(仙台89ERS)
2022年2月16日刊行の『ダブドリ Vol.13』(株式会社ダブドリ)より、藤田弘輝ヘッドコーチのインタビュー冒頭を無料公開いたします。聞き手はマササ・イトウ氏。
― 試合後に何度もコメントされている通り、優勝、さらに優勝後にB1で戦っていく高い目標があると思います。就任後は、どういうアプローチでその目標を達成しようとされたんでしょうか。
藤田 そうですね。最初に感じたのは、どっちが良いか悪いかではないんですが、桶谷さん(桶谷大。現琉球ゴールデンキングスHC。昨季まで89ERSのHCを務めた)のバスケットが、僕のスタイルと違うことです。選手に提供する部分について、桶谷さんはどちらかと言うと、抽象的な部分に振り切っている印象があって、僕の方はそれと比べると具体的なところと抽象的なところのバランスを重視していて、その具体的なところを詰めることが最初の課題でした。これは今でも課題ではあるんですが、チームでやろうとしているバスケットボールを選手が本当に全力でやろうとしてくれているので、どんどん次のステップが見えてきていて、今すごくやり甲斐もあるというところです。
― スタイルの違いについてもう少し詳しく教えていただけますか。
藤田 あくまで僕の印象なんですけど、例えばピック・アンド・ロールのスペーシングが決まっていて、こういうスペーシングだったらこう攻めましょう、これを具体的に徹底させるようなスタイルじゃなかった気がするんですね。
― 例えば角度であったりとか、タイミングであったりとか。
藤田 スクリーンのアングルとか、ピック・アンド・ロールを使う前のセットアップの仕方とか。このスペーシングだからダイブが狙えるとか、これならポップかポケットパスとか、その枝分かれにあるどういうディシジョンメイク(意思決定)が必要なのかとか。それぞれのコーチのスタイルがありますし、どちらも良い部分はあるんですが、今は僕の描いているバスケットを選手に浸透させるプロセスの最中というところですね。
― 抽象的な方が選手もイメージしやすい一方で、やりたいことの達成には具体的な動きの徹底も必要で、そのバランスを探っていくということでしょうか。
藤田 そうですね。どのコーチも悩んでいると思います。ディフェンスで「ハードに行けよ」とだけ言えばいいときもあるけど、それだけだと「いや、どうハードにやるんですか?」みたいに具体性が必要になるシーンが絶対にあると思います。でも具体的過ぎると「相手がこう攻めてくるからこう守ろう」というのは何百通りもあるじゃないですか。だから「相手が攻めてきたら、こういう守り方があるよね」という最低限の具体的なルールと、後は抽象的な大枠にしないと、選手が迷ってしまうので、そのバランスを探すのは本当に大変だなと思います。
― 序盤ではありますが、就任当初の想定とは違ったものも見えてきてますか。
藤田 僕たちが仙台89ERSでやりたいバスケットに対して、選手が本当にびっくりするぐらい真面目でした。例えば、一つのプレーやコンセプトを選手に落とし込んだら、それしかやらなくなるくらい真面目なんです。それはすごくありがたくて、だからこその課題なんですが、例えばインサイドでミスマッチができてファールトラブルもあると、コーチとしてはそこを狙うじゃないですか。でも相手チームがポストにボールを入れる前から2人、3人寄ってて、それでもパスしてしまったり。チームの目的は「チームとして良いシュートを打ちましょう」です。だから「コーナーが空いてたらパスして良いよ」とか、それを一回一回フィルムで見せないと次のステップに行けないチームなんです。
― 想像以上に伝えるべきことがあったということですね。
藤田 そうですね。でも、チームでやるエクスキューションの部分と、僕が仙台でよく使う「Play basketball」バスケットボールしようよという部分が、良い具合に融合してきたら、めちゃめちゃ強いチームになると思うんです。
― 試合でも良いプレーに持っていこうとしているんですけど、毎回やらなくても良さそうなところもありました。
藤田 例えばスタッガースクリーンからハイピックに、具体的に入るプレーがあるんですけど、その終わり方も具体的にコーチとしては定義するんですけど、そのセットアップの時点でコーナーが空いてたりするんですよ。
― はい、決められたことを続けているように見えました。
藤田 特にB2の守り方がB1では見ない守り方だったりして、ポストに3人寄るのもそうですけど、よりPlay basketballの要素が必要なのかなと思います。ただ、どこまで練習をやるべきか悩んでいます。
― 限られた時間の中で、何を優先していくのかが、B2でのチャレンジになっているのかもしれませんね。
藤田 そうですね。例えばポストアップの練習にどれだけ時間を割くかも悩みました。結局、フィルムを見せて僕なりの理論を具体的に伝えました。ドリブルダウンしてパスアングルを作る、ディフェンスの手が上がってたらバウンドパスが入る、バウンドパスをフェイクして上に入れるとか。ただワークアウトではできても、ゲームの緊迫したシチュエーションで、どれだけポストに入るかが大切です。段々ポストに入るようになってきたので、引き続き良くなってくれればと思います。
― ディフェンスについてはどうですか。こちらも試合では狙っていることができてきているように見えますが。
藤田 そうですね。チームでやりたいディフェンスをやろうとしてくれる意志はすごく強いです。僕らのディフェンスはインテンシティを高めるとか、エントリーをディナイするとか、相手をなるべく不快にさせようというディフェンスなんですけど、方法論的に分かりやすいオフェンスをしてくるチームよりも、単純なワン・オン・ワン、能力でアグレッシブにプレーしてくるチームには苦戦するかもしれません。こういうチームは僕らがやりたいディフェンスをさせないオフェンスをしてくるんですね。うちは、そこまで身体能力とか個人能力が高いチームではないので、そういうときこそ、チームでどう守るかが大事。最近、ヘルプサイドディフェンスを具体的に「このときはこうヘルプしましょう」というのをやったばかりですが、その繰り返しだと思います。広島(ドラゴンフライズ。天皇杯で対戦)さんはちゃんと(ボールを)エントリーしてオフェンスしてくれたんで「フルコートピックアップして、こういうエントリーはこうディナイしましょう」という課題も出てきました。
― 広島戦のお話が出ました。コーチは勝った試合でも「これではトップレベルと戦えない」とコメントされていますが、広島はそのトップレベルのチームの一つかと思います。課題もあったかと思いますが、デビン・オリバー選手の機能したシーンが印象的でした。
藤田 そうですね。「僕らのオフェンスはシュートを打つポイントが決まってるんで、そこを打ち切ってくれないと駄目だよ」という話をオリバー選手にはずっとしてて、そこでファーストシュート、ファーストオプションで打ち切ってくれました。彼はディシジョンメイクが遅れれば遅れるほど後手になるし、1人で打開できる身体能力があるわけじゃない。キャッチ、シュート、そこでクローズアウトがディープに来たら、ドライブで決め切れる能力があるので、そこが見れたの本当に大きかったですね。
― クォーター終わりのあのリアクションは、ずっとやってもらいたかったことができたからだったんですね。
藤田 そうですね。それが出たんで「よっしゃ!」って(笑)。JB(ジャスティン・バーレル)は日本が長いし、ジェロウム(メインセ)はビッグマンでペリメーター寄りの選手よりもシンプルじゃないですか。
― 確かに場所が限定的ですしね。
藤田 オリバーは、スリー打つのか、ドライブするのか、ドライブしたらキックするのか、判断材料が多いんです。ディフェンスもバックペダルなのかステップアウトなのか、スイッチなのか。そこが難しいところです。
― 終盤では、広島からミスマッチを攻められるなど課題も見えました(試合終盤、ニック・メイヨのポストアップを起点に攻撃を展開された)。
藤田 そうなんですよ。スカウティングではメイヨはスイッチ後にエルボーアイソしかしてなかったんですよ。コーチが途中で、ウィングにスイングしてポストアップにしたじゃないですか。ポストアップのトラップの仕方も決まっているんですけど、最近やってなかったこともあって良くなかったです。本当はCJ(チャールズ・ジャクソン)のエンドワンとか、起きちゃいけないプレーなんです。準備不足だったなと思いつつも、チームルールだからやろうよって思いもあります。
― 一方でやりたいことを実行できると良いゲームになるという面も見えました。寒竹(隼人)選手もすごく良かったですね、エントリーパスも上手くて。
藤田 はい。簡単に出してくれますね。
― 寒竹選手、出場時間当たりのスリー試投数、成功数ともB2トップですね。
藤田 あ、そうなんですね。教えてあげますね。カンちゃんに。
― ベンチですが相当打ってますよね。
藤田 うちは、チームで作ったシュートを大事にしてるんで、作った後は打ち切りましょうということは、外国人選手も強調してくれています。「打つべきタイミングで打てばリバウンドも取りやすいし、そこで打たないともう1回クローズアウトシチュエーションを作らないといけないから打とうよ、アタックしようよ」と言ってくれてます。寒竹は思い切りよく打ってくれるから、チームメイトからも信頼性が高いんですよね。だからみんなカンちゃんを見るように既になってて、そういうシチュエーションも多かったと思います。決め切る彼もすごいですし、今とっても助かってます。
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このあとも、今のバスケスタイルにつながったものやプレーオフにむけた準備、「Basketball and Life」の活動などについて語っていただきました。続きは本書をご覧ください。