サスティナブルな世界を実現するグリーンテック5社ー Plug and Play ポートフォリオ
カーボンニュートラルによるスマートシティの創造
皆さん、はじめまして。Plug and Play Osaka Smart Cities Team InternのDoina (ドイナ)です。本記事では、継続可能かつ環境に優しいスマートシティの展開の課題とそれらの課題を解決しようとしているスタートアップ5社を紹介したいと思います。
最近、サステナビリティについて、特に「カーボンニュートラル(carbon neutral)」や「ゼロカーボン排出量(net zero carbon emissions)」について、これまで以上に耳にするようになりました。 パリ協定の一環として、世界中の政府が数十年でカーボンニュートラルを達成する計画を立てています。 当然のことながら、地球温暖化を遅らせ、できるだけ早くグリーン経済へ移行するためには、政府だけではなく、企業も果たすべき役割があります。
我々Plug and Play Japanもサステイナブルなスマートシティの実現に貢献したいと考えており、この信念は私たちの2021年の投資ポートフォリオに反映されています。カーボンニュートラルと廃棄物管理に関する市場のニーズと、それらのニーズに対するソリューションを提供できる5社のスタートアップを詳しく見ていきましょう。
まず、サステナビリティには、カーボンニュートラルと廃棄物管理という2つの重要な柱があります。
カーボンニュートラルとは、大気中の炭素の排出と吸収のバランスをとることです。温室効果ガス(GHG)の排出量の中ではCO2が圧倒的に多いため、多くの機関が炭素排出量に関心を寄せています。カーボンニュートラルを実現するためには、大気中に排出される炭素量を減らすか、大気中から吸収される量を増やす必要があります。炭素を吸収するには、植物、土壌、海洋など、炭素を含む化学物質を無期限に蓄積・保管し、大気中のCO2濃度を低下させる天然またはその他の貯留層である炭素吸収源(carbon sinks)を活用します。
企業がカーボンニュートラルを実現するには、Measure(測定)、Reduce(削減)、Offset(相殺)という3つのステップを踏む必要があります。
1. Measure(測定)
企業はまず、サプライヤーを含むビジネスのあらゆる側面に基づいて、カーボンフットプリント(CFP)を特定しなければなりません。カーボンフットプリントを完全に把握するために、年間のCO2排出量とその発生場所を決定します。企業(または個人、都市、国)の炭素排出量は以下のスコープ1、2、3に分けることができます。
スコープ1の炭素排出量は、測定と管理が最も簡単です。しかし、サプライチェーンが長くなると、説明責任(accountability)とトレーサビリティー (traceability)という2つの問題が発生します。サプライネットワークのどのメンバーがどの排出量に責任を持つのか?排出量を正確に追跡するにはどうすればいいのか?これらは現状の課題といえるでしょう。
2. Reduce(削減)
測定された年間炭素排出量は、削減することができるものであり、削減すべきです。これには複数の方法があります。企業は、エネルギー消費における非効率性を探し、まずそれを解決しようとします。あるいは、製品、製造、オペレーションの過程において、より環境に優しい代替品を探し、あらゆる種類の商品やサービスについて、低炭素オプションを持つサプライヤーを積極的に選択することもできます。また、二酸化炭素の排出量を削減するためのスタートアップによる革新的な技術やソリューションを探すこともできます。
3. Offset(相殺)
炭素排出量を減らせない場合は、炭素吸収による炭素排出量のオフセットに取り組むグリーンプロジェクトへの支援・投資という方法があります。また、再生可能エネルギーの発電、草原の保全、森林再生、埋立地からのメタン回収などのプロジェクトを支援するという選択肢もあります。企業のCFPを完全に減らすことはできないかもしれませんが、他の場所での排出量を減らし、運用上のレバレッジを相殺することができます。特に、重工業(セメント、鉄鋼、プラスチック、化学品)、航空、海運、農業など、脱炭素化が難しい分野では、カーボンオフセットが必要です。
廃棄物管理は新しい概念ではありません。というのも、我々はこれまでずっと廃棄物を収集し、処理してきたからです。しかし最近では、より持続可能な廃棄物の管理方法に注目し、リサイクルが困難なプラスチックの製造・管理の見直しや、材料をできるだけ長期間使用するようにして、埋立てや焼却で処分される固形廃棄物の量を最小限に抑えるようにしています。
廃棄物を作るモデルからより循環型の経済へと移行する中で「3R(Reduce-Reuse-Recycle)」は廃棄物管理の核であることに変わりはありませんが、より革新的な技術やサービスは、これらの基本的な考え方を次のレベルへと引き上げることができます。個人が廃棄物の排出量や消費量を減らそうとしているように、企業もパッケージやリサイクルプログラムの改善に目を向け始めています。
今回紹介するスタートアップは、二酸化炭素の排出や廃棄物処理に新しい技術やサービスで取り組んでおり、サステナビリティに対する取り組み方を確実に変えてくれるでしょう。
Circulor
英国発スタートアップCirculorは2017年に設立され、Traceability-as-a-Service (TaaS)を提供する炭素排出量の測定と廃棄物の管理の両方において重要なプレーヤーとなっています。Circulor社は、ブロックチェーン、IoT、AIを用いて、原材料のサプライチェーンに透明性をもたらし、原材料の供給源から最終製品化までを追跡することができます。TaaSには、サプライチェーンのマッピング、検証、専門家のノウハウなどが含まれます。 このサービスは、責任ある調達を検証し、効果的なリサイクルを支え、効率を向上させることを目的としています。この技術は、特定の製品をサプライチェーン全体で追跡することができるため、排出量に関する問題の解決に期待できます。また、製品の管理過程に焦点を置き、企業は製品に対する責任を負うことが容易になります。つまり、多くのメーカー企業がこの製品を使用し、大きな利益を得ることができるのです。
Circulorのインパクトは、「プラスチック廃棄物・リサイクル」、「採取産業」、「農業・林業」、「電子廃棄物」の4つの主要セクターで見ることができます。Circulor社のプラットフォームのおかげで、スコープ2と3の排出量が簡単に測定できるようになっただけでなく、リサイクルの効率を高めて廃棄物を減らすことができます。さらに、材料の出所を追跡することで、倫理的なサプライチェーンと持続可能な調達を確保することができます。CirculorのTaaS技術は、環境に優しい経済を実現するための全能のツールとなるでしょう。
Heirloom Carbon Technologies(以下:Heirloom)
Heirloomは2020年に設立された米国の比較的新しいスタートアップで、自らをカーボンシンク・クリエーター(二酸化炭素吸収源のメーカー)と位置づけています。2030年までに年間1,000トンのCO2を削減するために、低コストでのネット・ゼロ・エミッションを目指しています。簡単に言えば、企業が直接排出量を削減できない場合、代わりに排出量を吸収することを選択することができるということです。この技術は、炭素の鉱物化を促進し、通常は何年もかかる外気からのCO2を、数日で鉱物に吸収させるものです。この技術は、他の方法ではCO2の排出量を削減することが困難な、航空・海運・農業などの重工業にかかわる企業にとって、特に有効な技術です。
一般的に、空気中の炭素を吸収する技術の開発は難しく、コストもかかりますが、Heirloomは低コストで拡張性の高いソリューションを提供しているため、競争力があります。空気中のCO2を削減しようとする他の企業は、エネルギー集約型で高コストの空気接触器を使用していますが、Heirloomの場合、使用している鉱物が安価で入手でき、リサイクルも可能です。一度カーボンシンクに閉じ込められたCO2はそこに留まり、モニタリングも容易なため、永続的な解決策となります。
二酸化炭素の排出量を削減するためには、新しい技術を導入することが重要です。Heirloomの製品はその完璧な例であり、目的を持ったスタートアップが大手企業に助けを出すこともこれから増えていくでしょう。
Heirloomへの出資担当 Plug and Play Ventures Alberto のコメント:Heirloomは、鉱物を利用して炭素を回収するというユニークなアプローチをとっており、スペースも有効に活用しています。私たちは、気候変動の状況を変えるリーダーの一人として、Heirloomを支援できることを非常に嬉しく思います。
Sylvera
カーボンフットプリントを測定して削減した後、企業はカーボンオフセットを検討することができます。ここに関わっているのが、2020年設立の英国発スタートアップ、Sylveraです。彼らのソフトウェアプラットフォームは、衛星画像、独自のデータセットとAIを用いて、カーボンオフセット取引の測定、追跡、検証を行います。彼らが注目しているのは、植樹や農業プロジェクト、森林保護など、自然をベースにしたオフセットプロジェクトです。カーボンパフォーマンス、追加性、永続性、コベネフィット、リスクなどのデータを分析し、独自の評価システムに基づいてプロジェクトを採点します。これにより、顧客は購入前にプロジェクトを評価し、長期的なパフォーマンスを監視し、プロジェクトを大規模かつ迅速に開発することができます。
Sylveraは、買い手(カーボンオフセットを購入する企業)、仲介者(カーボンオフセットのコンサルタントなど)、プロジェクト開発者(自然を利用したプロジェクトの開発者)など、さまざまなグループにとって有用であり、よりよいプロジェクトの設計やカーボンオフセットのポートフォリオの多様化に必要なツールとなります。
同社は「世界初のカーボンオフセット格付けプロバイダー」と呼ばれており、彼らの技術と意味合いは、カーボンオフセット市場の規模を拡大して真のインパクトを与えるために必要です。この分野で最初に評価されることは競争優位になれるでしょう。
Sylveraへの出資担当 Plug and Play Ventures Nicolasのコメント:Sylveraには素晴らしいチームがあり、大手企業のカーボンニュートラルの目標を達成するために解決しなければならない巨大な問題に取り組んでいます。Sylveraの技術は、プロジェクトからマーケットプレイス、バイヤーまで、炭素市場全体の信頼性と透明性を民主化しており、業界のベンチマークとなる道を歩んでいると信じています。
ByFusion Global (以下:ByFusion)
持続可能な廃棄物管理については、2015年に設立されたこの米国のスタートアップを抜きにしては語れません。ByFusionは、あらゆる種類のプラスチック廃棄物を「ByBlock」という高度な建築材料に変換する特許取得済みのシステム「The Blocker」を開発しました。ByBlockは、リサイクルされたプラスチック廃棄物(多くの場合、リサイクル困難なプラスチックが対象)だけで作られた、初の建築用建材です。The Blocker(ByBlockを作るシステム/機械)は、リサイクル業界の困難な問題を解決する究極の埋立地転換ソリューションです。
これらの製品は、廃棄物処理業者(MRF)が使用することができますが、プラスチック廃棄物は複数の機関が関わる問題であるため、ByFusionは政府、自治体、企業もターゲットとしています。
ByFusionは、リサイクルできないプラスチックに新たな目的を与えると同時に、不足する建設資材の問題を解決しています。代替建材を提供する企業は他にもありますが、ByFusionのプロダクトは、環境に優しいだけでなく、問題を解決するものであり、市場での差別化につながっています。
Litterati
最後に、2012年から「クラウドソース・クリーニング」を行っている米国のスタートアップをご紹介します。これまではB to Bのソリューションを紹介してきましたが、Litteratiのプラットフォームは、企業の従業員や私のような個人など、コミュニティの力を利用しています。
Litteratiは、世界中の人々に地球をきれいにする力を与える、クラウドベースのモバイルアプリケーションです。彼らは現在、Alliance to End Plastic Waste(廃棄プラスチックを無くす国際アライアンス(AEPW)とAEPWのメンバー企業、都市、その他の民間企業と世界中で協力して、廃棄物の漏出がどこで起きているかを追跡し、従業員を巻き込み、人々が協力して運動に参加するように働きかけています。
やり方は簡単です。アプリをインストールし、ゴミを見つけたらそれを写真に撮って、適切に処理し、写真にタグを付けることで、AIが学習してゴミの種類を認識できるようになります。さらに、アプリが収集したゴミデータの進捗状況を示すことで、他の人にも参加を呼びかけることができ、運動を広めることができます。
さまざまなサステナビリティの傾向に関するデータを分析するアプリや企業は他にもありますが、Litteratiはコミュニティ主導のAIに焦点を当てているため、競合他社との差別化が可能です。誰でも(個人、学校、企業、NGOなど)このプラットフォームを利用できるので、ゴミ処理の問題が身近になり、人々に世界を少しでもきれいにする力を与えることができます。都市はこのプラットフォームを使って地域のゴミを監視することができ、企業はCSR活動に取り入れることができます。Litteratiのおかげで、私たちひとりひとりが望ましい世界へと変化を起こすことができるのです。
Plug and Playでは、これら5社のサステナビリティ・スタートアップが、将来のスマートシティの構築に間違いなく大きな役割を果たすと考えています。NGO、政府、民間企業とのパートナーシップにより、ビジネスを拡大し、スタートアップ企業の革新的なアイデアを私たちの日常生活に浸透させることができるでしょう。皆さんは、サステナビリティ・スタートアップについて、どのようにお考えですか?
Plug and Play Japanでは業界トレンドやスタートアップインタビュー、Case Studyなどを日々アップデートしています。公式Websiteはこちら。