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「とるに足らない生き物」2024年10月31日の日記

 講義室の窓から差し込む午後の日差しが、教授の白髪を金色に染めていた。

「では最後に、最初のレポート課題について説明します」

 スライドが切り替わる。教室の空気が一瞬で緊張に包まれた。必修の教養科目「都市生態学」、その最終講義である。僕は机に置いたスマートフォンの画面をそっと確認した。4月28日、残り2週間というタイミングでのレポート課題。まあ、間に合わなくはない。

「テーマは『都市における生物の生存戦略』です」

 教授の声に合わせて、ノートにペンを走らせる音やスクリーンを撮影する音が響く。

「都市に生息する生物を一種類選び、その生存戦略について考察してください。A4用紙3枚以上。提出期限は5月12日までです」

 誰かが小さくため息をついた。確かに、3枚は少し多い。でもまあ、何とかなるだろう。そう気楽に構えていた矢先だ。

「ちなみに、提出すれば単位がもらえるわけではありません」

 教授は付け加えた。

「最低限、レポートの体裁を保っているのは前提です。評価の対象は独自性にあります。ネコ、ハト、ネズミ、ゴキブリ、カラス……いずれも都市生態学においては定番ですから、学生諸君のレポートも先行研究と比較されることになります。それらを踏まえ、なるべく私の興味を惹くような内容であること。以上」

教室がざわついた。この教授は点が辛いことで知られている。要は「ありきたりなレポートには点をやらん」と言っているに等しいわけだ。

 講義が終わり、学生たちが三々五々と教室を出ていく。レポートのことは、まあ後で考えよう。そう決めた僕は、その場で最悪の選択をしていたことになる。

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