Cheeeeees!〜栗狩と柿泥棒〜(5)
「私は、魔力発達不全なのです」
柿の木の周りに赤い毛糸で円を描いて行きながら彼女は言う。
「魔力発達不全?」
栗を殻ごと齧っていた子狸は、突然に発しられた聞き慣れない言葉に首を傾げる。
彼女は、毛糸玉が全て解けたのを確認するとリュックから毛糸玉をもう一つ取り出し、お互いの先端を結びつけ、再び円を描き出す。
「生まれついて魔力がない、もしくは魔力が乏しい魔女のことを言います。私は後者です」
「でも・・・魔法なら今までも使っていたんじゃ?」
使い魔になる前にもなってからも彼女が魔法を使ってきたのを何度も見てきた。
不思議な液体を使って失せ物を見つける。
折り畳み傘を使って空を歩く。
今だって暴れる栗をたくさん獲った。
「それは私の力ではなく母が付与してくれた道具のお陰です」
空を飛ぶ折り畳み傘も赤い毛糸も母が魔法を込めて作ってくれたお手製。
魔法薬に関しては調合は自分でするがその効果をもたらす材料等は母からもらう。
見えないものを見る力も母が友人にお願いして作ってもらったコンタクトレンズのお陰だ。
「魔力がまったくない人はそれこそ一般人として生きていくことが可能ですが私のような微量でも魔力がある人間は魔女として働かないといけなくなるのです」
大きな円を描き終わると次に残った毛糸を使って複雑な紋様を描き始める。
「そうは言っても私のような弱い魔女は母のように魔女を本職にしたり、魔女の力を使っての商売をすることも出来ません」
「だから先生になろうと思ったの?」
彼女は、手を止めて首を振る。
「いえ、教諭になるのは子供の頃からの夢です。小学校の時に大好きな先生がいたのに憧れて。恐らく魔力が十分にあったとしても恐らく教諭を目指してました」
彼女の答えに子狸は思わず微笑んでしまう。
しかし、その笑顔は、直ぐに疑問の表情へと変わる。
「それじゃあ小鬼もその毛糸で倒すの?それとも結界みたいに侵入するのを防ぐの?」
子狸の脳裏に学童の漫画で読んだ結界が浮かぶ。
子狸の問いに彼女は、首を横に振る。
「この毛糸は、私の微量な魔力を増幅して頑丈なゴムのようになって好きな形に編むことが出来ます。なので貴方が想像するようなバリアのようなものには慣れません。それに栗くらいなら防いだり、捕らえたりできますが小鬼相手では易々と切れてしまうでしょう」
「じゃあ、どうするの?」
「土の精霊を召喚します」
彼女は、赤い毛糸のお尻を地面に置く。
子狸は、足元を見ると柿の木を中心に一目ではとても覚えるのが不可能な程に複雑な魔法陣が描かれていた。
「毛糸で私の魔力を増幅し、霊木でもある柿の木の力を借りて土の精霊を召喚し、小鬼を追い払います」
子狸は、目を輝かす。
「凄い!さすが先生!」
あんなに不安そうだったのにもう対応策を考えるなんて・・・さすが才女!
しかし、彼女の顔からは不安は、拭えていない。
「銀河柿の木の魔力があるから出来ることです。私だけの魔力では微弱な精霊すら呼ぶことが出来ません。それに・・・」
彼女は、出し掛けた言葉を飲み込む。
これ以上、子狸を心配させるような事は言えない。
彼女の教諭としての矜持が子狸を不安にさせる言葉を飲み込んだ。
「とにかくやってみましょう」
彼女は、にっこりと微笑んだ。
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