Cheeeeees!〜栗狩と柿泥棒〜(4)
森の奥の開かれた場所にその大木は立っていた。
夜を想像させる黒く巨大な幹、天を掴まんばかり伸びた無数の枝に咽せ返すような深い緑色の大きな葉、そして最も特色すべきはその巨大な木に実る果実だ。
大きく丸く太ったその果実は形こそ柿だが大きさは子狸の胴体ほどあり、その色ありは夜明けの空を連想されるような青と黒がマーブルとなって混じり合い、無数の金色の星模様が浮かんでいた。
「銀河柿ですね」
彼女は、たわわに実る柿を見て言う。
「さようでございます」
この場所まで案内した猿が相変わらず身を縮めたまま頭を下げる。
「銀河柿?」
子狸は、首を傾げる、
こんな柿見たことも聞いたこともない。
そんな子狸の様子に気づき彼女は説明する。
「最高級の柿ですよ。この時期にしか獲れないけど数も少なくて一般的に出回ることはほぼありません。私も初めて見ました」
そりゃこんなファンタジーな柿が市場に現れたら連日マスコミと女子高生が大騒ぎするだろうな、と子狸は胸中で呟く。
「一口食べると味も極上らしいですが1番の特徴はその滋養強壮で1個でも食べれば大概の病気は治り、怪我の回復も早くなると言われ、昔から魔女の生薬の材料として高値で取り引きされてます。収穫も難しく1番星の輝く夜明けに獲らないと効果がなくなってしまうのだそうです。母も昔購入したことがあると言ってましたが高くて滅多に買えないと言ってました」
「へえ」
子狸は、関心したように言う。
彼女は、猿を見る。そしてこの木を包み込むように生える木々を見る。
姿こそ見えないが木々の隙間からこちらを見る沢山の視線を感じる。
恐らく猿達だ。
「この柿は、貴方達が育てたんですか?」
彼女に声をかけられ、猿はびくりっと身体を震わせる。
「はいっ先祖代々この地で育てております」
「立派ですね」
「ありがとうございます」
猿は、恭しく頭を下げる。
「やはり冬を越すための栄養源として?」
「それもございますが・・・」
猿は、口籠る。
彼女は、眉を寄せる。
「何か言いづらいことでも?」
「いえ、そんなことは・・」
猿は、怯えて身を縮こませる。
「実はこの柿の半分は私どもの友人たちに上げるのです」
「友人?」
「はいっお恥ずかしい話しですが、私の先祖が遥か昔に友人たちの一族に酷いことをしまして・・・」
「酷いこと?」
子狸は、首を傾げる。
「はいっその後は和解し、友好関係を築いているのですが、その時のお詫びとしてこの柿を渡しているのです」
「なるほど」
彼女は、形の良い顎を摩る。
「それを柿泥棒に狙われている、と」
「はいっいつの間にかこの森に住み出して・・収穫期になるのを虎視眈々と狙っていたのです」
「ちなみにその柿泥棒とはやはり・・・」
「小鬼です」
子狸は、彼女の表情に翳りが差すのを見逃さなかった。
「そうですか・・・」
猿は、気づいていないが彼女の手は震えている。
「分かりました。引き受けましょう」
猿は、顔を上げ、喜びに表情を濡らす。
「しかし、対価として銀河柿を1つ頂きますがよろしいですか?」
「もちろんでございます」
猿は、歓喜の声を上げて何度も頭を下げる。
「柿の収穫期はいつですか?」
「明日の夜明けです。それを逃すとただの柿に戻ってしまいます」
「分かりました。それまでに準備をしますので貴方がたは安全な場所に隠れていてください」
猿は、恭しく頭を下げて礼を言うとその場を離れていった。
子狸は、心配そうに彼女を見上げる。
「先生、大丈夫?」
「・・・大丈夫ではありません」
彼女は、小さく声を震わせて答える。
「私は、魔法が使えないので・・・」