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ミミとララ - ある融合の物語

ミミとララは双子だった。
そしてミミとララは……。

いくら双子とはいえ成長する過程においていつしか個性が芽生え、お互いの特徴も微妙に違ってくるはずでなんとなく区別がつくものだが、二人はあまりにも酷似していた。
体形はもちろん、髪の色も質も、目の色も、爪の形も、好きな食べ物も細部に渡って全てが一緒だった。厄介だったのは、二人が服を選ぶとき、同じタイミングで同じものを着る。
髪型も二人でいつも同じに揃えてくる。どちらかが伸ばし続けたり、どちらかが途中でカットしたりすることもなかった。
そこまで同じようにするのだから二人はどれほど仲が良かったのか…、しかしそうでもなかった。どちらかというと、お互いが無関心であまり仲がいいとは言えなかった。仲良しではなかったので、お互いの存在を気にして余計な感情が起きないように無理をしてでも一緒にしていたのだ。すなわち自分の存在を消していたともいえる。
いつからそんな風になってしまったのか、本人達にも分からなかった。

全てにおいて瓜二つの二人だったが、一つだけ違う点があった。
ミミはどちらかというと、少しおしゃべりで言葉を使うのが上手だった。
一方のララは控えめで一人静かに曲を作るのが好きだった。
ミミは目にするもの、心に感じることを思いのままに言葉で表現することができた。周囲の人々はミミの紡ぎだす言葉の世界に共感し感動した。
ララは人々の様々な思いをメロディーやリズムに変えることができた。その旋律は人々の想いを、その人以上に的確に表現した。

長い間そんな関係が続き、二人はいつの間にか成人に達していた。
「ねぇ、私の詩にあなたの曲を乗せてみない?」
ある日、ミミはララに向かって提案した。ミミは常々ララの作る曲はとても素敵だと思っていたのだ。
「何故?このままお互い好きなようにやっていけばいいじゃない」
話をする機会などほとんどなかったミミからの突然の提案に、ララは少し戸惑いながら答えた。しかし、ララにしてもミミの紡ぎだす詩に惹かれていた。実は、以前ララも同じことをミミに持ち掛けてみようかと思っていたのだが、控えめなララは敢えて自分から話してみようとする熱意が湧かず、そのまま放置してしまっていた。
「あのね、あなたの曲って素敵だと思うの、そこに私の詩が乗ればきっと多くの人を感動させることができると思うわ」
ミミは正直な気持ちを包み隠さずララに伝えた。
ララもまったく同感だったので、それ以上は意地を張らなった。

二人は早速作品作りに取り掛かった。
しかしどうもうまくできない。二人の得意なものを合わせた作品は、それなりの完成度はあるのだが、何かが足りなかった。今までの調子で創ったものは、一人歩きしてしまっているか緩衝してしまうものだった。周囲の人々の反応もパッとしなかった。そして何よりも自分たちが一番納得できず、とてもじゃないが沢山の人たちを感動させるようなレベルの出来ではなかった。
「何かが違うわ」ミミは不満そうに言った。
二人はその原因を一生懸命に考え、そして感じようとした。
ある時、ララが言った。
「私たちには個性が足りないんじゃないのかしら…」
「個性…?」ミミはララの言葉を繰り返した。
「そうよ。私たちが一つになった時の個性!今まで私たち、何でもどちらかに合わせようとしてきたでしょう。あなたと私の関係だけではなく、周囲の環境に対しても。それをまた繰り返そうとしてるような気がするの。お互いが無理矢理合わせようとしているのよ」といつもは控えめなララが言った。
「本当は、私だってあなただって個性があって、やりたいことがある。ただそれを認め合えばいいんじゃない。そうすれば調和が生まれるのよ。それができるようになれば自然と私たちの個性へと進化するわ。あなたが自由に詩を書いて。そこに私が曲をつけるわ」ララは続けていった。
共同作業が始まってから、ララの態度が変わり始めミミの問いかけに応えてくれるようになった。それに伴い、ミミも新しい発見ができるようなった。「でもそうすると、またあなたが私に合わせていることにならない…?」
ミミは心配そうにララに尋ねた。
「ならないわよ!だって私たちお互いを認め合うことにしたんでしょう。今まではお互い、どうなろうと関係なかったじゃない。でも今は違う。あなたの紡いだ言葉に合わせてメロディをつくることはとっても楽しいことになるのよ」そんなことを言いながらまた二人は作業に取り掛かった。

「できたわね!」ある日、どちらからともなく声が出た。
二人は合わせて8曲の歌を作った。
「全部歌ってみましょうよ」ララがミミに言った。
ミミは部屋の窓にせり出しているバルコニーにギターと椅子を持ち出した。
教会が建つ広場の一角に二人が暮らすアパートメントがある。その下を通る路には様々な人々が行き交っている。その中にはミミとララの見知った顔も交じっている。石畳の路面にフルーツを並べて売っている果物屋の女将と常連のお客が、亭主の不甲斐なさについて花を咲かせている。見慣れた光景なのに今日の二人にはそれはとても新鮮に写った。
教会の鐘が時を告げた。
「じゃぁ、歌うわよ」
それを合図のように、そうララに話しかけると、ミミは美しい親指で一度だけギターをつま弾いた。
最初の歌の第二小節まで来ると、人々の視線を感じた。
歌の寂に差し掛かると、さっきまで話に夢中になっていた女将と常連客が上を見上げているのが分かった。彼女たちだけではない。同時に幾人かの通行人も足を止め上を見上げていた。
歌い終えると、下から拍手が聞こえてきた。
ミミは軽く会釈をし、笑顔で応えた。
「もっと何か、歌ってくれないか!」
どこからともなく、男の声が聞こえた。
ミミは二曲目を歌い始めた。
三曲目に入るころには、広場にいた人々や通行人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
五曲目には、二人の住むアパートメントの前の路を埋め尽くすほどの人だかりとなっていた。
路が通れなくなってしまったことに文句を言う人は誰もいなかった。みんなミミの唄う歌に聞き惚れていた。
時間にすると、一時間もかかってなかった。全ての歌を唄い終えたミミは、椅子から立ち上がって深くお辞儀をした。下からは割れんばかりの拍手と口笛が鳴り響いた。アンコールを求める声も沢山聞こえた。

「ねぇ、私たちやったわね!」ミミは満面の笑顔で、人々からの賞賛の声を受けながら、ミミと一緒に生まれ今まで一緒に生きてきた心の中のララに向かってそうつぶやいた。

hih

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