犬の生食ごはんについて

「加熱vs生食」
細菌SNSでこの論争をよく見ます。(特にThreads)

よく喧嘩状態になっていますが、「愛犬においしくごはんを食べて、なるべくずっと健康になってほしい」という想いは全員同じであり、悲しい論争でもあります。
実際に「ドライフードはよくない」「生食は良くない」どちらの意見も理解できます。「生食がいけない理由」「ドライフードがいけない理由」を述べている方は意外にほとんどいないこともこの論争が激しくなっている一因でもあります。

今回は変わった視点から、ペットフードの開発・製造を行っている私の見解を述べさせていただきます。

生食のメリット

生食の文化は実はヨーロッパ系とニュージランド・オーストラリアではあります。

生食を上げている人の意見は以下の通りです。
①犬が美味しそうに食べる!
②ドライフードに入っている添加物やよくわからないものを摂取させてくない。
③うんちの量が減り、ドライフードより栄養吸収ができる。

①犬が美味しそうに食べる!

生食をあげ続ける飼い主が犬ということはこれも合っているのでしょう。(私は愛犬に生食をあげたことがないのでわからないですが。)この意見はかなりを占めていますね。

②ドライフードに入っている添加物やよくわからないものを摂取させてくない。

私もこの意見は同意です。実際に市販のドライフードでは4Dミートが使われているケースがあります。私も〇〇にも使用していますよ!という言葉を添えて4Dミートの営業を受けたことがあります。

③うんちの量が減り、ドライフードより栄養吸収ができる。

こちらは生食ではないが、手作り食ではドライフードと比べて消化吸収がよくなるという論文が実際に存在します。ですのでこのような意見が出ることも同意します。

生食をあげるには十分すぎるメリットが総揃いですね。では、生食のリスクを考えていきます。

生食のデメリット

生食のデメリットは「死ぬ可能性がある」ということです。
2019年にとあるメーカーのペットフードが加熱不足が原因で、サルモネラ菌汚染が起こる大事件がありました。
少なくともそのペットフードを食べた犬猫20匹が亡くなっています。
生食にはこのような細菌がいることが大きなデメリットとなっております。

栄養や嗜好性の面ではなく、「衛生面」から見ると生食は非常に危険なのです。公衆衛生のプロである獣医師が生食を反対するのは消化などではなく衛生面が大きいと考えられます。
汚染されたペットフード・ごはんを食べると食べた犬が保菌者となり人間やその他の犬猫へ移しアウトブレイクする可能性があるのです。

組合員の皆様へ:ペットフード「犬・猫用ササミ姿干し 無塩」ペットへの健康被害に関する調査結果とお詫び

流石に「死ぬリスク」を負って生食をあげるメリットはないのでしょうか。
ちょっと大袈裟じゃない??と思いますが数年前にメーカーレベルで事件が起きているので大袈裟ともいえないのです。メリットよりもリスクを回避するのは製造者レベルでは至極当然のことです。

生食がやめられない方へ

とはいえ、ドライフードを全く食べず困っており、生食しか考えられないという方も中にはいるでしょう。理由があって生食にしているはずです。そんな方へ向けて少しでも細菌リスクを減らす生食の食べ方を提供します。

低温調理

リスクのある菌を退治することが重要になります。
中心温度75度1分間加熱をするようにしましょう。

https://www.city.sumida.lg.jp/kenko_fukushi/eisei/syoku_eisei/sumidako/syokutyuudoku_tyuui/rawmeat.files/2021teion.pdf

絶対に加熱したくない

低温加熱も絶対にしたくない。低温加熱したら生食ではなくなってしまう。そんな考えの飼い主様もいらっしゃると思います。そんな時はこれを使ってください。
超簡易的ですが細菌を測るキットです。(↓こんなやつ)
これを使いながら、菌汚染がないか確認しながら生食をあげましょう。

生食にもメリットデメリットがあります。この場合はデメリットが生じるリスクを下げる施策は絶対に行っておきましょう。

そのほかにもジビエや内蔵など感染リスクが高い部位はなるべく避けるようにしましょう。

最後に

実は生食を与えている方は超少数派なのです。
少し古いが2016年アメリカで実施された大規模調査では犬の飼い主の3%、猫の飼い主の4%が生のペットフードを上げている。逆にいえば95%以上の飼い主は生食を上げていません。

栄養学はみなさんにとって身近でありながら、いざ勉強をしてみると超難しい学問です。ですのでキャッチーな「〇〇を食べると健康に良くなる」みたいな謳い文句は勉強すればするほどいえなくなるのです。一方で正しい知識は難しく、飼い主さんに言っても理解されません。SNSではわかりやすいものが拡散されやすく、生食はその弊害とも言えるでしょう。
また、栄養学だけでなく公衆衛生の面からも考えなければいけないのです。過去にも人間・ペットで食中毒の事件が何度もあります。私たちは歴史から学ばなければいけません。(大学レベルで栄養学を学んでいれば雪印乳業食中毒事件などしっかりと学びます。)

私も専門知識と飼い主さんへの理解のバランスをとったサイエンスコミュニケーションをしていきたいと考えております。

※補足や反論などはXやmondで受け付けております。


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